File No.08:悪魔に魂を売った男

 俺は突如基地の入り口から入り込んできたサソリの出所を探すべく、ゴローと分担しながらW.I.N.D本部基地内を詮索した。


 ――渡り廊下も異常なし。

 ――他の隊員達の休憩部屋も大丈夫。


「……え、サソリ? この辺りにはいませんでしたよ?」


 警備員達の報告からも特に異常や変化は無かった。


 ――俺達の水泳などの訓練で良く使う大型人工プール。

 ヒロミとルリナと、顔のメイクがケバい女達で百合バカンスやってる。


 異常な…………ってオイッッ!!!


 ここは市民プールじゃねぇぞ、あの野郎!!!!


 ★☆★☆★☆



「それでね、うちの所属怪人ったら、しつこく私の胸とかボディタッチしてくるの!」

「うぇ、セクハラ? もう辞めちゃいなさいよその組織!」

「辞めたくても辞めた後が大変なのよ。この不気味なフェイスペイントもクレンジングじゃ落ちないし、何より就職が……」

「女戦闘員さんも大変なんですね。どうしましょうヒロミさん」


「……よし分かった! あたしが何とか再就職先を考えてみるわ!」

「「「「ホントですか!?」」」」


「任せて! 皆ナイスバディだし、あたしだって食べちゃいたいくらい……てか今食べてい」



「とぅぉぉおおおおおおおお!!!!!」


 ヒロミに俺のドロップキック炸裂、成敗ッ!!!


 ――ドッボーーーン!!


 ヒロミはプールの中で泡を立てながら沈む。悪霊は去った。


「お前ら他人ん組織のプールで何くつろいでんだ! てかそこの黒レオタード女もどー見たってジャックスの戦闘員だろ!? バカか、水も滴る良いバカか!!?」


 興奮する俺にルリナがなだめる。


「誤解ですよタケルさん! ヒロミさんは女戦闘員さん達のカウンセリングしてただけです!!」


 だったら尚更おかしいだろ!? 敵に相談乗ってる場合か!!


「確かに女戦闘員の私たちでヒロミさんを襲ったのは事実です」

「でも襲ってすぐにヒロミさんのキス受けたら、後引いちゃって……♡︎」


 …………は? ヒロミの百合キスで女戦闘員どもを口説いて改心させたというのか?? 事故レベルで事後ったのか???


「元々達、怪人にセクハラされてて組織辞めたかったんですって。それをヒロミさんが助けたんです」


 ――戦闘ちゃんって女戦闘員の愛称か?


 う~ん……お人好しなんだか物好きなんだか。ヒロミって奴が更に分からなくなる。


「あ、隊員さん急いだ方が良いですよ。うちのスコーピオン君、貴方達のマイクロチップを狙って既に基地を潜入してます!」


 ほう、お前ら女戦闘員んとこの怪人は『スコーピオン君』って言うのか。――って何!?


「いかん、チップの保管している研究室が危ない!

 ――協力に感謝する、戦闘ちゃん!!」


 ――あ、俺も言っちゃった……


 敬礼しながらこの場を去る俺と、手を降って見送る戦闘ちゃんとルリナ。

 そして未だプールに沈むヒロミ……と思いきや。


 ヒロミは水中で仰向けになりながら、何かを考えていた様子だった。


 ――あの不可解なマイクロチップ。

 水のうねりと共に揺れる天井を見上げながら、ヒロミはついに……閃いた!!



「分かったーーーーーーッッ!!!!」


 大きな水飛沫しぶきを立てて、プールから飛び上がってヒロミが叫び上げた。


「な、どうしたんですか!? ヒロミさん」

 戦闘ちゃん達とルリナがヒロミに驚きながら問い掛ける。


「分かったのよ、マイクロチップの解読方法が!!」



 ★☆★☆★☆


 閃いたヒロミを尻目に俺はマイクロチップを保管している研究室へ向かう。

 そこへ通じる通路、廊下でついに恐れていたことが……


「これは……!!」


 研究室付近で警備していた筈の隊員がいない。残されていたのは隊員の服と、赤い液体だけであった。

 俺も生物学は少しかじっている為に解ったことだが……この赤い液体、サソリの毒素と同じ匂いがした。


 まさかと思うが……――!?


 ……いや、これ以上最悪な解釈をしている暇はない。急いで研究室へ――――


「!?」


 俺は驚愕した。弾丸、爆弾でも破壊されない研究室のセキュリティドアがように、大穴を空けられていた。


 そしてドアの先には……


「――――サブロー司令官!!」


 研究室内にいたサブロー総司令官と、その他の隊員が縄で束縛されていた。

 俺は直ぐ様その縄を解いて、事情を聞き始めた。


「一体何があったんですか!?」

「サ、サソリを操っている男に……マイクロチップを奪われた――!!」


「サソリを操る……? で、そいつは何処に行ったんですか!?」



『ここにいるぞ!!!』



 俺の耳から聞き覚えのある声が同じ部屋の中で聞こえた。

 総司令官でも、他の隊員でもない。数十年以上も聞き慣れた男の声。その背後から……!!


「…………ゴロー!!?」


 俺には信じられなかったが、そのあからさまな悪人面、そして片手には管理されていたマイクロチップが……


「―――オイ、タケル!!『ゴロー・アヤセ』とは昔の名だ。今の俺の名はジャックスのサソリ怪人、【スコーピオン君】様だ!!」


『君』なのか『様』なのか、一人称をどっちかにしてくれ。――そんな事はどうでもいい! あのゴローが……!?


 ゴローは姿を隠すための人間の化けの皮をめぐると……

 その正体は赤い殻の鎧、長い毒針の尾、鋭い眼光を放つ冑のサソリ人間が姿を現した!!


 俺はこの現実にその眼を疑うしかなかった。


「ゴロー、お前は……」

「見たかタケル! 俺は自らジャックスに志願し、改造された。貴様のようなエリート野郎をこの手で倒す為だ!! ――そして俺は勝った!!!」


 するとスコーピオンは自分の長い尾を手に持って、手前にマイクロチップをかざす。


「――――オイ、止めろ!!!!」


 プシャーーーーー!


 マイクロチップに長い尾から発射された毒液をかけられ、チップはそのままジュクジュクと腐食されて崩れ落ちてしまった。

 俺達の希望が、英雄復活の鍵が――!!


「そして貴様にはこれだ!!」


 俺の背後のドアが自動的に開く。


「サソリ――!!」


 それも数匹では無い、数百匹のサソリが床中を黒く埋め尽くした。小説でなければ【閲覧注意】って出す所であった。


「俺は貴様に勝つためなら手段は選ばん! 鋼鉄をも溶かす毒液を蓄えた殺人サソリの威力を、身をもって知るがいい!!」


 希望も潰え、俺の命も危うい。万事休すかと思われた……その時!!


 ドカァァァァアアアアアン!!!!


「!?」


 殺人サソリの部屋の更に奥の壁から爆発音が響き、穴が空いたところに……例の救世主が!


「トクサツール!! 殺虫剤ボム!!!」


 ヒロミがキューブ型チートツール『トクサツール』を投げることによって、彼女のイマジネーションに反応し、万能の武器へと変化するのだ!!


 変化したのはバレーボール型の大型爆弾だった!!


 チュドーーーーンッッッ


 爆風に巻き込まれた殺人サソリ達は、その煙に巻かれてガックリと全滅していった。中に入っていた強力な殺虫剤がダイレクトに効いたのだ。


「早く、皆逃げて!!」


 ヒロミ達の先導によって、俺と司令官達などはこの場を逃れた。


「逃すか!!!」


 スコーピオンも俺を目当てに追いかけていった。


 ★☆★☆★☆


 ――本部基地から離れて、本部北の海沿いの砂浜。

 両手のハサミを構えながら、俺をこれでもかと攻撃を仕掛けてくる。


「ゴロー、目を覚ませ!! 親友のお前とは闘いたくない!!!」

「黙れ!! 貴様などに俺を『親友』などほざくな!!――――俺の可愛い女戦闘員よ、タケルを殺せ!!!」




 ――――シーン…………



 ……あれ、出てこないよ?



「な、ど、どうしたのだ!? オイ、もしもーし!? 魅惑のリトルレディな戦闘員さーん!! 出番でっせーー!!?」


 スコーピオンは必死に応答願っても、相手側からは一向に返事は返ってこなかった。

 何やってんだよ、シリアスが白けるだろ。


 そこへ同席していたヒロミが割り込んで話し掛けた。


「あー、すいません御取り込み中の所。実はあんたの所の女戦闘員さん、いや戦闘ちゃん達から言付けを頼まれてて……ちょっと手紙読んでくれる?」

「俺に手紙? 何だよこんな忙しいときに……」


 ……何だこれ、何で怪人が堂々と手紙読んでんだよ。シリアスぶち壊してシュールだよこれ!


 ――手紙の内容はこうだ。



【―退職届― 私儀

 この度スコーピオン君担当・女戦闘員4名は各自の一身上による都合により、5月16日をもって退職いたしたく、ここに御願い申し上げます。敬具


 ジャックス女戦闘員 自称“戦闘ちゃん” A~D(匿名)


 株式会社 ジャックス

 特捜機関潜入代表 スコーピオン君 殿


 P.S.お前みたいなセクハラサソリはエロ動画でも掘り出して童貞直してこいバーカ!!】


「ボーーーーーン…………(落胆)」


 手紙を読みきったスコーピオンは赤い殻をも真っ白に燃え尽きながら茫然としていた。

 てかセクハラに耐えかねて、女戦闘員から退職届出される怪人って一体…………


「あんたのセクハラ行為に心底腹立ってたわよ、戦闘ちゃん達! それにあんた童貞なんだってね〜〜プークスクス☆」

 ヒロミ、いくら怪人でも童貞を笑うんじゃない。仮にも俺の親友だぞ!?


「いや、別に俺童貞とかそんなん関係無いし……俺んとこの組織が男ばっかだから、色気欲しくて女戦闘員スカウトしただけだしぃぃ…………」


 ヤバイよ、かなりふて腐れてるよスコーピオン。惨めに思えてきたよ!


「あ、あの……さ? 別に女の戦闘員に捨てられたからって気にすること無いと思うぞ?

 だからゴローさ、これを機に昔のゴローに戻れよ。な?」


 俺は可哀想に思い、スコーピオンの肩を叩いて慰めるが……


「うるせェェェェェ!! テメーみたいな女たらしに言われるのが滅茶滅茶腹立つんだよ!!! もう頭来た、お前絶対ぶっ殺す!!!!!」


 しまった。女好きの設定だった俺が慰めても地雷踏むだけだった!!


 しかしそんな俺の脳裏に、W.I.N.Dへの罪悪感が浮き上がる。思えば俺が親友と思っていたアイツへの奢りがあったことでマイクロチップを失わせてしまった。


 やはり、かくなる上は……!!


「タケルー、これ使って! ――トクサツールッッ!!」


 ヒロミが遠くからトクサツールを変化させたものを俺に渡した。今回は……緑色のブーツ!?


「今回の新兵器『トクサツール・ホッパーキングブーツ』!!

 これを履くだけで15メートルのジャンプと強靭なキックを御見舞いできるわ!! 早くやっつけちゃって!!!」


 ……もうこうなりゃヤケだ!! 南無三、ゴロー!!!


「とぉぉぉおおおおお!!」


 空高くジャンプした俺は、空中一回転を得てゴロー……もとい、スコーピオン君目掛けて強烈なキックを喰らわせた!!


 ――――バシィィィィイイイイイン!!!!


 直撃したスコーピオン君は、後方に勢い良く吹っ飛ばされて砂浜に埋まっていた大きな岩に直撃し、そのまま倒れた。

 そして朽ち果てたスコーピオン君の体内から気色悪い音を立てて次第に腐食。真っ赤な液体となって、砂浜に沈んでいった……



「………………ゴロー…………!!」


 女に飢えていたとはいえ、俺は親友をこの手で葬った。何という後味の悪い闘いだ……!



「余程タケルにライバル心持ってたのね……」

「……アイツは、俺にとっても張り合いのあるライバルでもあり、大事な親友だったんだ。何故……悪魔に魂なんか売ったんだ――!!」


 俺の拳に悔しさが滲む、怒りが沸き上がる……そしてヒロミは――――





「でもそんな彼が戦闘ちゃん達のおっぱいやらボディ触ってる童貞だと分かっても、親友って言えたの?」


「………………………………」




 ――――ごめん、今ので冷めた。やっぱアイツ最低だったわ。



 ★☆★☆★☆


 ――――『W.I.N.D』特捜本部基地。


「親友との奢りがあったとはいえ……侵入を許し、更にマイクロチップを消去された事は非常に手痛い失態だぞ。――タケル君、どう責任を取るのかね?」

「申し訳ございません……」


 俺は深々とサブロー司令官に頭を下げた。

 どう足掻いても俺の責任であることは揺るがない事実、最悪クビも覚悟していたが……


「――――マイクロチップ? もしかしてこれの事?」


 ヒロミは手元にチップを俺達に見せつけ…………って何ッッ!!??


「何でヒロミがチップ持ってんだ!? じゃ溶かされたのは――!」


「あれはあたしがトクサツールの装置で複製したレプリカ! 本物は元からあたしが持ってたの! 今日みたいな事が起きる前提で念を押してね」

「私のヒロミさんって冴えてるでしょ~?」


 ルリナも得意気にアピールするのが中々憎たらしいが……俺のせいでこんな騒動になったんだ。何も言えまい。


「それでね、マイクロチップもあたしが解読しちゃった!」

「はぁッ!!?」


 ヒロミはそういうとマイクロチップの図面データの拡大したものと、透明な水槽を拡大図面の上に乗せた。


「これだけじゃうねうねした元の図面が解らないでしょ? そこで上から水槽をバシャバシャと水面をうねらせて、上を覗いてみると……」

「――――!? 図面がはっきりと見える!!?」



 何ということでしょう。波のようにうねっていた元の図面を、水面を通して同じくうねらせると、くっきりと図面が明らかになった!!


 そしてその図面は……


「これは……ブレイドピアの地図!?」

「そう、このブレイドピアの異世界の何処かに英雄を封印したが隠されてる地図だったの! おそらくそれを探せば……」


 ――――英雄が復活する!!


 解読されたマイクロチップから新たな展開が俺達を待ち構えていた!!

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