File No.09:怪異!ビークイーン
――『ジャックス』の指令本部アジト。
「くっそぉぉぉ! スコーピオン君をもやられるとは何たる様だ!!」
例のように、ジャックス幹部・ベクター大佐は殉職した怪人にヒステリックに喚き叫んでいた。
(そんでまた仏壇建てちゃって……)
(しかも前のより豪華じゃね? 金箔仕様だし……)
戦闘員達もヒソヒソとツッコミを抑えている様子。金ぴか仏壇、スコーピオンの遺影までチャラい感じがするのは気のせいか。
「全く、あの童貞サソリも女戦闘員ばっか可愛がらずに普通の戦闘員を率いていれば、こんな事には…………!!」
小言を垂れるベクター大佐、その途中ではっと何か思い出したようだ。
「――――待てよ? 怪人達が遣られた時にはいつもちんちくりんの女が付いていたような。『W.I.N.D』の隊員か……?」
「ベクター大佐様! その女は石ケ
――何でも女の癖に、美少女が大好きなんだとか……」
「何、女の女好きだと……そうだ!」
側近の戦闘員が報告すると、ベクター大佐は閃いた様子で眼を輝かせた。
「今すぐ『ディープグリーンの森』より警備している“ビークイーン”と連絡を取れ。奴等は必ずあの森で封印されている英雄を解禁するに違いない。
直ちにそれを阻止せねばならん。ビークイーンと協力して、あのトクサツ少女を捕らえるのだ!」
ビークイーン……ジャックスの新しい怪人か、それを聞いた戦闘員は大変狼狽えていた様子だった。
「し、しかし……我々でビークイーン様と協力するのはちょっと……」
「だってあの方かなりの変た――――」
「いーからさっさと呼んでこーーーい!!!」
「ニィィイ!!」
ベクター大佐の怒号で戦闘員は直ぐ様任務に執行する為にアジトを飛び出した。
「……まぁ、アイツがかなりの変態で呼びたくないのも分かる。私もヤダもん!!
――――だが、いい気になってるのも今のうちだぞトクサツ少女め。お前の【トクサツール】がもう一つの秘密を持ってることも知らずに……!!」
☆★☆★☆★
――どーもあたしの噂をしているようで気が気じゃないけど……
『W.I.N.D』の本部基地での騒動を終えて、ここはあたしヒロミとルリナちゃんの喫茶店『ルリィ』。久々の我が家!
この前あたしの完璧キュートな頭脳で、マイクロチップを解読したのは良いけれど……
そのデータがなんと英雄都市『ブレイドピア』の地図、そしてマーキングで示した場所が英雄を封印した場所なんだって。
そこで、W.I.N.Dが現地で情報を収集した後に再びあたしと協力する話になって、一旦あたしとルリナちゃんは帰されたの。
……まぁ彼処の基地にいたら、また事件に巻き込まれそうだし。
暫くはこれでルリナちゃんとイチャイチャできる~!真の平穏はこの事を言うのかしら!!
「あぁん、抱き締めてるとルリナちゃんのおっぱいが胸に当たるぅ☆」
「フフッ、ヒロミさんも大きくすれば良いじゃないですかぁ♡︎ トクサツールを使って」
「えぇ~? あれ使っておっぱい大きくなるなら苦労しないわよ!」
……何か壁の向こう側で『止めとけ!!』って大ブーイング起きてるのは気のせいかしら。
――イチャイチャタイムおしまい! やりすぎは色んな境界線踏むから、節度良くしないと。
「……ところでヒロミさん。タケルさん達の調査進んでいるでしょうか? あれから3日も経ちますよ」
「仕方ないわよ、おっきい機関は一回調査しただけでも確実な結論出すために時間は費やすんだから」
「待つしか無いですね。……それとあの方達どうします?」
「誰?」
「『戦闘ちゃん』達!!」
……あ、すっかり忘れてた! この前の童貞サソリの女戦闘員、愛称『戦闘ちゃん』の職探しで今喫茶店に置いてるんだった!!
今四人とも呑気にお茶飲んでるけど、大丈夫かな……
「早く彼女達の職探さないと……言っちゃ悪いけど戦闘ちゃん来てから余計に御客さん来なくなっちゃったし――――」
「ウフフフフ…………」
「戦闘ちゃん、そこ笑うとこじゃ無いわよ」
「あ、ごめんなさい。この声吐息みたいなもので、自然とウフフって出ちゃうんです改造の後遺症で」
「紛らわしい……」
幸いにも彼女達、ここを気に入ってるようで職に急かす感じじゃないが、早く決めてあげないと経営にも響いちゃう。あーどーしよーー!!
――ピリリリリリ……!
……人が思い悩んでるときにあたしのスマホに電話かける奴は誰よ? 『タケル』……もしかして!
あたしは直ぐ様着信に出た。
「もしもし?」
『あぁ、ヒロミか。随分待たせて済まなかった。ついさっきマイクロチップのマップの解析が終わって、その報告に連絡した』
相変わらずあたしに対して堅苦しいわね、タケルの奴。
「それで? 場所は何処なの?」
『ブレイドピアの中心都市から北北西にある≪ディープグリーンの森≫という森林地域だ。そこに遺跡らしい場所を発見し、恐らくあれが英雄封印の場所だと確信した、のだが……』
「……『だが』って何よ?」
『不運にもその手前でジャックスのアジトが建てられてたんだ。あれを何とかしないと封印場所に辿り着けない。癪なんだが……またお前らと共同捜査させてくれないか?』
「またぁ!? ……ってか癪ならあんた一人で何とかしなさいよ! 特捜隊員なんでしょ!?」
『お前も俺達の戦力不足の事は知ってるだろ!? 報酬は弾ませるから頼む!!』
「――じゃ戦闘ちゃん達の職探し手伝ってよ。アフターフォローも兼ねてね!」
『………………分かったよもう! 約束するから今すぐ来いよ俺先に向かってるから!!』
自分から頼み込んだくせに偉そうに……
どうせ『俺のタイプじゃない女の面倒見はゴメンだ』とか言いそうになったの、あたし分かってんだからね!
「……仕方ない。わがままに付き合ってあげますか! ルリナちゃん一緒に行こ!!」
「はーい♡︎」
「戦闘ちゃん達もごめんね! 終わったら職探し手伝うから、店の留守番お願い!!」
「「「「ニィィーー!!」」」」
……ホントに大丈夫かしらあの人達。
☆★☆★☆★
「トクサツールッッ!!」
――あたしとルリナちゃんはトクサツールで変化させたピンク色のスーパーカー【キューティクル号】に乗って現場に急いだ。
この車はハイブリッドジェットエンジンを搭載していて、リアバンパーをジェットの羽のように展開させることで時速700㎞の低空飛行も出来るし、ちゃんとオートマチックで運転も安心!
……と言ってる間に着いた!!
森の茂みに隠れているタケルと合流するあたし達。
「タケル……!」
「しっ、静かにしろ! 手前のアジトに気付かないのか?」
何よせっかくきたのに……ん、確かにある。
ファンタジーものに出てきそうなコケで覆われた遺跡……その手前に、明らかに現代人が作ったかのようなアジト! 妙に安普請ね。
「正面の横に隠し通路がある。俺はそこから侵入してジャックスを討伐してくるから、ヒロミ達はここで待機しててくれ」
「……ちょっと! それじゃあたし達は何のために居るのよ!?」
「お前らは保険だ。いい加減俺の手でジャックスを粛清しないと、隊員としての沽券に関わるんだ!」
随分プライド高いわねコイツ……まぁ気持ちは分かるけどね。そこでタケルは、あたしやルリナちゃんを含めた三人分の無線機を渡した。
「この無線を使って俺がアジトの状況や報告を実況するから、もし俺が何かあったら後から潜入してくれ。なるべく俺もお前らに迷惑は掛けないつもりでやる」
「……分かった」
「じゃあ……行くぜ」
タケルは果敢に森の茂みを抜けてアジトに隠密に潜入した。こーゆーときだけシリアスになるんだから!
☆★☆★☆★
……暫く無線は足音等の雑音しか無かったが、潜入開始から5分後で異変が起こった。
『――!? 誰だお前は』
『あらぁいらっしゃい、可愛いウブな御兄様♡︎』
タケルの驚愕した反応と、それに対する女性の誘うような甘い声が、無線を通してあたしやルリナちゃんの耳に聞こえた。
「ヒロミさん!?」
「……あそこ、風◯店じゃないよね? あたしの聞き間違いじゃなきゃ良いけど」
『ウフフ、恥ずかしがらなくて良いのよ。私のおっぱいで楽になってぇぇぇ!』
『や、止めろぉぉぉぉおおおおお!!』
やっぱ風◯!? 如何わしい感じのアレ!!?
「――やっぱりあたしも行く!」
「だ、大丈夫ですかヒロミさん!!?」
「いざとなればトクサツールを使うわ! ルリナちゃんはここで待ってて、アイツ引き戻してくる!」
「……気を付けてくださいね!」
あたしは若干気が動転しながらも、急いでアジトの方に潜入した。
……アジトの中は薄暗く、古い建物の螺旋階段を降りた先にエレベーターのようなものがあった。
あたしは横のボタンを押してエレベーターが来るのを待った。
――チーン!!
来た。扉が開くと…………
「とうげんきょうがそこにあったぁ~☆」
『ドアが閉まります』
……何か鼻血を大量に垂らして腑抜けになったタケルが目の前に居たような……?
もう一度。
――チーン!!
「てんにょのはちさん、ふーらふら♡︎」
タケルに何があったああああああああああああああああああッッ!!!???
なんてこと……あの硬派でツッコミ担当のタケルがこんなにも腑抜けになっちゃって! まるで童貞卒業して悟り開いた感じになってるじゃないの!!
……待って、じゃあの先に……!?
あたしはタケルを抱えながら思い切ってエレベーターに乗り、上に登った。
登るに連れて何やら強い匂いが漂う。
まるで蜂蜜と香水が混ざったような眼に来る感じ…………
――チーン!!
ドアが開く……!
「――あ~らいらっしゃ……なーんだ女の子なのぉ?」
……あたしはこれを目の当たりにした瞬間、全身真っ白に硬直した。
その怪人の妖しい感じときたら……
瑠璃色のピッチリなレオタードに白い密着ブーツと手袋、頭には触覚と紫の長い髪、複眼をモチーフにしたゴーグルに写る美人の顔。
そして何より……黄色と黒の円を交互に重ねた超巨乳のぐるぐるおっぱい……! ルリナちゃんよりもでかいんじゃないかしら。
「あ、あのー、アナタダレデスカ??」
あたしも余りの気の動転に片言になってしまった。
「私ぃ? 私はジャックスの女怪人ビークイーンよ。『ビーちゃん』って呼んでね♡︎ あ、これ名刺ね」
「ア、ハイ……」
ジャガイモみたいな名前の女怪人に名刺渡されても……
「……はっ、そうだ! あんたタケルに何をしたの!?」
「もしかして貴方が抱えてる子? とてもウブで美味しかったわよ。
私のこのぐるぐるおっぱいで誘惑させたら直ぐにのびちゃって、でもその感じた顔、思い出しただけで……はぁぁぁぁああああああん♡︎♡︎」
ち、恥女だーーーーーーーーッッッッ!!!!!
マズイ!! あたしこーゆータイプ滅茶苦茶弱いの!!!
ルリナちゃんみたいに清純な女の子が好きなだけで、こんなエロ妄想する奴は寒気するほどダメなの!!
「もしかしてぇ……貴方が『トクサツ少女』のヒロミちゃん?」
「ひっ!?」
苦手なタイプを相手にあたしも思わず変な声を出してしまった。
そしてビークイーンは不気味な笑みを浮かべてあたしに近寄ってきた。
「ベクター大佐から貴方を捕らえろって言われてるの。ヒロミちゃんと百合プレイも悪くないけど……貴方にはあたしの毒針注射を受けてもらうわ」
ビークイーンは腰にかかげたレイピアをあたしに向けた。
「大丈夫、殺しはしないわ。ビリビリに麻痺させて貴方の持ってる【トクサツール】を調べさせてもらうわ……!」
この感じ、否定したら何されるか分からない。とても危険なタイプだってあたしの情操センサーもビンビンに反応している。
ここは言うとおりにするしかない……!!
「…………分かったわ、刺しなさい! その代わりにタケルを解放してあげて!!」
「良い子ね……それじゃ、えいっ♡︎」
――グサッ!!
「はぅッッ?!!」
黄色い二双の針があたしの胸部に刺さる。
直ぐ様意識がもうろうと錯乱され、このままでは数秒後に意識が消える。
『――ヒロミさん! どうしたんですか!? 返事してください!!!』
ルリナちゃん――! そうだ、大事な事を伝えないと……!!
「き、きいて……ルリ、ナちゃん……あたしはもうダメ……エロ、蜂女に……気を……つ、けて………………」
そしてあたしの意識はプツンと無くなった。
「アハハハハハハハハハ!!!!」
妖しく不気味な、蜂女の絶頂の高笑い。
そして無線が切れて途方に暮れるルリナちゃん。
――トクサツ少女最大のピンチ、そして英雄復活は果たしてなるのか!?
追伸。―ルリナちゃん、助けてェェェェッッ!!! byヒロミ―
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