File No.07:潜入!スコーピオン君

 ――ここは、悪の組織『ジャックス』の指令本部アジト。


 場所はプライバシーの関係で公開できません!

 何故なら昔の特撮で、どっかの組織が郵送でヒーローに挑戦状送ったら、ハガキで住所特定されたからである!! ……ま、それは置いといて。


 そのジャックスを束ねるのが、黒と龍虎の刺繍の軍服、そして右目に眼帯を付けているジャックスの大幹部【ベクター大佐】である。


「クソッ! スパイダー男爵だけでなく、バット貴公子までもしくじりおって……!!

 消耗品の分際で、マイクロチップ一枚奪い返せぬのか!!」


 失敗の連続に憤るベクター大佐。悪の幹部らしく怪人をも捨駒にする、所詮血も涙もない残忍な性格をしてるだろう……と思いきや。


(消耗品とか言ってる割には、仏壇が豪華なのは何故だろう……)


 本部の指令モニターの横に、高級黄金三断層の仏壇とその上に殉職した怪人の写真。戦闘員達も突っ込みたくて仕方がないようだ。

 そこで思いきって戦闘員の一人が大佐に話しかけた。


「……しかしベクター大佐、早いところマイクロチップを取り戻さないと『W.I.N.D』の連中に解読されてしまいますよ?」


「そう、そこなんだよ。良い所に気付いてくれた! 今のところそのチップは、特捜機関の本部で保管されていると言うが、あそこの本部はセキュリティも厳重。無用心に侵入するものなら一瞬であの世行きだ」


 特捜機関『W.I.N.D』の核と言うべき、本部基地は不審者の侵入阻止の為のセキュリティプログラムが多数含まれている。その威力たるは、ジャックス怪人を一瞬に消し炭にするほどだとか。


「このまま成すすべなく解読されてしまったら、死んだ怪人が、浮かば、れん……じゃないか…………グスッ」


(やっぱ怪人死んで哀しいんじゃないの……)


 どうしても突っ込みたい戦闘員達であった。


『――その役目なら俺にお任せを、ベクター大佐!!』

「お前は……!」


 そこに現れたのは両手が巨大なハサミ、そして全身殻の鎧と針のような尾をしたの怪人だ!!


「スコーピオン、只今参上つかまつりました」


 “君”? 男爵とか貴公子じゃなくて君付けとは。それが今回の怪人の正式名称なのだから、自己否定もしずらい。


「この俺が直接特捜本部に潜り込んで、マイクロチップを奪い返して差し上げましょう」


「何か良い策でもあるのか? スコーピオン君」


 ベクター大佐も「君」呼ばわりだよ。


「機関の一員である『タケル・C・メタルハート』をエサに侵入すれば良いだけです。――あの男は俺が直々に殺す、それが俺の生き甲斐なのですから……!!」


「お前にとって奴は因縁があるようだな。――よかろう! その命にかけても、マイクロチップを奪ってくるのだ!!」

「承知しました!」


 ベクター大佐の承認を経て、スコーピオン君は出動した。


「……ベクター大佐大丈夫でしょうか? スコーピオン君、怪人の中でも年齢的にも若いのに」

「そこを押し切っての出動だ。アイツの女好きとみたいな発情さえなければ完璧なんだがなぁ……」


 一体どんな怪人なんだ、スコーピオン君は……?


 ★☆★☆★☆


 ――さて、舞台は代わって『W.I.N.D』特捜指令本部基地。

 この俺、タケル・C・メタルハートはヒロミから託されたマイクロチップの管理、及び解読に全力を尽くしていた。


 バット貴公子の激闘から休みなしで勤務に勤しんでいる。別にシフト休みは後回しにされても構わんが、いい加減進展があって欲しいものだ。


 ……それにしても数日経っても口の中が気持ち悪い。前回のあのヒロミのリップワクチンで、老若男女問わずキスした影響かな。


 とりあえずまたヒロミがうちの本部に来てることだし、報告しないと。


「……入るぞ、ヒロミ」

「あ、タケル! マイクロチップどうだった?」


 ……あれ、何か違和感が。


「お前いつものようにルリナとイチャイチャしないのか?」


「何言ってんの? あたしとて、ずーっと年中無休でイチャイチャムギューしないわよ」

「そうですわ、私達ドライな関係ですの」


 絶対嘘だ。べた惚れの癖に……


「英雄の解禁の鍵を握る大事な時なのよ、あたしだって真剣になるわよ」

「ん……それは済まなかった。そのマイクロチップの事で司令官がお呼びだ。一緒に来てくれないか?」

「分かった。ルリナちゃんも一緒ね」



 ――まぁ、前回ルリナを一人にして襲われたから付き添うのも分かる。

 ……でも俺の前で手と手を合わせて恋人繋ぎは止めろ!



 ★☆★☆★☆


「――現在我々機関が総員で、マイクロチップの解読に急いでいるんだが、どうにも意味不明でね……」


 サブロー総司令官も頭を抱え込むほどの不可解なマイクロチップ。


 その一枚のチップを拡大した図面は、ミミズがイナバウアーからのトリプルアクセルをしてるほど、派手に暴れ回りうねっている図であった。……どーゆー状況なんだよ!?


「えぇ……?? あたしも初めて図面見たけど、何の事かさっぱり分かんないわ」


「私も、でんぷんかんてんですわ」

「それを言うならよ、ルリナちゃん」


 これには司令官も俺までも参った。


 ヒロミですらも分からないようじゃ、唯一の希望もまた闇の彼方へ消えていく。どうしたものか、と考えていたその時。


『タケル隊員、タケル隊員。御指名のお客様が参られました。至急基地エントランスまで御越しください』


 このアナウンスは決してデパートのインフォメーションでは無い。機関の連絡用無線アナウンスである。


「……こんな非常時に出前でも頼んだの?」とヒロミ。

「バカ、俺達隊員は食堂制だ。――しかし誰だこんな時に……」


 俺はブツブツ言いながらも、急いで基地エントランスへ向かった。入口のシャッター越のモニターで確認すると。


『――よぉ、タケル!』

「……ゴロー!?」

『久々の親友の御対面なんだ、早くシャッターを開けてくれよ!』


 俺は急いでシャッターを開けた。


「ゴロー、久し振りだなぁ! 今まで何してたんだよ!?」

「いやぁ済まない! ちょっとゴタゴタがあってな、こんなご時世だし」

 すると、気になって付いてきたヒロミ達が後からやって来た。


「どうしたのよタケル……そこのヤンキーな兄ちゃんは誰?」

 俺の親友に向かってヤンキーとはなんだ。


「警戒することはない、この男は『ゴロー・アヤセ』。俺の十年来の親友なんだ」

「そういうこと! やっとお前と出逢えたんだ、これからは何時でもタケルの力になるぞ!!」


 わざわざ機関に出向いてまで、俺達に協力しようと来てくれたのか。こんな心強いことはない!


「……そこの姉ちゃん達は?」


「緑のエプロンドレスの美人がルリナ、でワンピースのちんちくりんが『トクサツ少女』のヒロミだ」

「誰がちんちくりんじゃボケ」


「御二人は幼馴染なんですか?」とルリナ。


「あぁ、ゴローはな学生の頃から成績もスポーツも一位二位を争うほどのライバルでもあるんだ」

「いやいや、ライバルと言ってもタッチの差でいつもタケルに負けてたんだ。そんで俺も悔しくてね、長いこと他の地方で留学してきたんですよ!」


「…………ふーん」


 オイ、その冷めた目付きはなんだヒロミ!

 お前ら女同士でイチャイチャしてる癖に、男同士の絵面は白けるって言いたいのか!?


 すると、ルリナがヒロミの動向に何やら気付いた様子だった。


(……何か気になるんですか? ヒロミさん)


(がしてね)

(匂い――?)


 ヒロミは密かに鼻を嗅いで、ゴローの様子を伺っていた。


(あのゴローって兄ちゃん、女の子の香水と毒を持った昆虫が混ざった匂いがしたの)


 ヒロミが何かを探っていたその時、エントランスの天井から何やらゴソゴソと動いている物体があるのに俺は気付いた。


 そしてその物体が、天井から降ってきた!


 長い尻尾と六本足に大きなハサミが3匹……


「サソリだ!!!」


 一瞬この場がパニックになる寸前になったが、そこでもヒロミは冷静にキューブを投げて変化させた。


「トクサツール・殺虫剤!!」


 トクサツールが殺虫剤に変化して、直ぐ様サソリを駆除させた。それを見ていたゴローはまじまじとヒロミを凝視しているような気がした。


「何でこんなところにサソリが……砂漠じゃあるまいし」

「……ゴロー、俺と一緒に来い。基地の様子を見よう」

「分かった」


 俺はゴローを引き連れて基地の異変を探るため手分けして捜索に入った。



「……あたしたちは無視なの?」


「仕方ありませんわ、私達もちょっと様子を見てみましょ」

「そうね」


 そしてヒロミとルリナも基地を見回る為に階段へ向かおうとした、その時。



「「「ウフフフフフ……」」」


 不気味な女の笑い声を発しながら、四人ほど列になってヒロミ達を階段の上で待ち構えていた。

 そいつは黒のレオタードに網タイツ、そして禍々しいフェイスペイントをした魅惑の女達……


 こいつらはジャックスの女戦闘員だ!!


「――!?」


 彼女等は表情を変えることなく、一歩ずつ徐々に階段を降りていき、ヒロミ達に不気味に迫ってくる。そして……


 スチャッ……!


「!!」


 女戦闘員達が指先に仕掛けた毒針矢が、ヒロミ達に襲いかかる!!


 危うし!! トクサツ少女ヒロミ!!!

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