File No.06:嵐を呼ぶ新兵器!
――翌朝。
俺はヒロミとルリナを引き連れて、『W.I.N.D』の隊員用宿舎へ一旦引き返した。
その際、あのバット貴公子の被害にあった人達から血液検査をして、洗脳された原因も一緒に探ることになった。
そして、もう一つは……あのルリナが持っているマイクロチップだ。
(英雄を封印したデータが入ったマイクロチップを、何故一般人のルリナが持っているのか……?)
俺は気掛かりで仕方がなかったが、まずは夜のバイオテロを起こした原因をヒロミ達に報告しなければ。
俺は血液検査で検出したデータを片手に、ヒロミ達の個室のドアを開く。
「失礼するぞヒロミ、データの結――――」
「あぁん♡︎ ソコいじっちゃらめぇヒロミさん!」
「またまたぁ、ホントはいじって欲しい癖に! ほーらもう一度……」
――――バキッ!!
俺の拳骨攻撃、クリティカルヒット!
「ッ痛いわねー! ノックぐらいしなさいよプライバシー侵害男!!」
「うっさい! 他人の宿舎で濃厚イチャコラしてんじゃねぇ!!」
「いーじゃないのよーー!!」
……ったく、隙あれば女同士で『蘭』か『睡蓮』しやがって。
「百合よ、それを言うなら」
あ、そうか。ってか語りに入ってくんなや。
「それで、何しに来たんですか?」
ルリナが若干白けた顔をしながら俺に行ってきた。ヒロミが変なことしなけりゃ脱線せずに済んだのに。
「……そうだ、この前のバット貴公子にやられた他人の血液を調べてみたんだ。かなり厄介な事になってる」
血液だけでなく様々な検体を調べ、それを拡大した画像をヒロミ達に見せた。
そこには白い球体のような影が見えていた。
「もしかして……ウイルス?」
その通り、これが『バットコントロールウイルス』の正体。
「ただのウイルスじゃない。ジャックスの連中が開発した人工型のウイルスだ。体内へ感染った相手の脳内に侵入して、奴等の思うままに操る1ナノ以下の微小型電子回路が埋め込まれてる」
俺もこの情報を目の当たりにしたときは信じられなかった。こんな科学力は俺達の機関を持ってしても、到底辿り着けない極地の範囲であったからだ。
「それで、それに対するワクチンとか血清は作れるの?」
「バカ、こんなウイルスすら初めて見たんだ。それを中和させる医療道具なんかあるものか!」
「そっか」
冷静を保つためなのか、興味が無いのか分からないが、ドライな対応を示すヒロミ。
「……まさかお前、それもあの『トクサツール』で解決出来るというのか!?」
「勿論、トクサツールに不可能は無いわ」
「だったら直ぐにでも――!!」
「協力はするけど……その前に。あたしの御願いも聞いて貰わなくちゃ」
ヒロミはそう言うと、ルリナの胸元にあるチョーカーを外した。
さりげなくヒロミは彼女の巨乳を揉みしだいていたが、また脱線しかねないのでノーコメント。
そしてヒロミがチョーカーのロケットを外すと、中からチップのようなものが出てきた。
「ルリナちゃんがジャックスから奪い取ったマイクロチップ、貴方の機関で解読と保管をお願いするわ」
ヒロミの眼は真剣だ。これもイチャつく程大事な助手を思っての事か。
勿論協力する事になった以上は拒否する必要はない。俺はヒロミから渡されたマイクロチップをしかとこの手で受け取った。
「いいだろう……だが一つ教えてくれ。何で一般人のルリナが、そんな貴重なデータを敵から強奪出来たんだ?」
「それは………」
俺も一般の人の事情に首を突っ込みたくは無いのだが……組織撲滅の為にも有力な情報は多く仕入れていきたいのだ。
「――そこはあたしが教えてあげる。いずれ言わなきゃいけない事だし」
「ヒロミさん……」
ルリナが口を割らない以上は
「ルリナちゃんの両親はジャックスの連中に拉致されて、強要労働を強いられてたの。
ある時お父さんが隙を突いて、英雄を封印したデータの入ったマイクロチップを奪い取って、アジトから脱走したは良いんだけど……その後お父さんはジャックスに見つかって暗殺。そしてお母さんもその見せしめに処刑されてしまったの」
「その前にチョーカーにマイクロチップを入れて、娘であるルリナに託した、と………」
想像以上に辛い真相だ。両親を犠牲にしてまで守り抜いたマイクロチップ。それは俺達だけでなく、彼女自身の最後の希望なのだ。
「……私だって、父と母を殺したジャックスは憎い。でもアイツらに立ち向かえるのは、ヒロミさんしか居ないんです!!
出来る事なら貴方にマイクロチップを渡したくはない、誰一人守りきれない機関になんて……!!!」
「…………」
ルリナは唇を噛み締めて、怒りで声を震わせる。
その矛先はジャックスと……俺を含めた無能な特捜機関に――!
すると、ヒロミがいきなり耳打つ。
(ここはルリナちゃん一人にさせたげて! 一旦落ち着かせないと)
(お、おぅ……そうだな)
コイツ、レディに関しては紳士的なんだ。同じ女とは思えねぇや。
(聞こえてるわよ……!!)
だから語りに入ってくるな! イテッ、そんで脇腹つねるな!!
「ゴメンルリナちゃん! ちょっとこのバカと話してくるね!」
「はぁ……行ってらっしゃいヒロミさん」
バカってお前なぁ……。ルリナは若干呆れながらも、閉まるドアと共にいざこざを起こす俺達を見送った。
しかし彼女も俺達機関を信じられないのも無理は無い。只でさえ怪人討伐や事件解決すらもままならない状況に信用も失われつつある。
彼女が心を開いてくれるのは、いつの日か……
と、その時だった。
「――――あら? あれは……コウモリ??」
ルリナは個室の天井にぶら下がっているコウモリの存在に気付いた。
何故窓の無い個室にコウモリが……? 一体何処から入ってきたのだろうか。
更に偶然にも日が沈み、夜の帳が降りる時間が訪れていた。
「……ッ!?」
すると突然コウモリが身体の細胞を変異させて、気味の悪い音を出しながら、徐々に姿を大きく変化させていく。哺乳類から人間の姿に……そしてその身体は夜の街を飛ぶ貴公子の姿へと変わっていった。
―――まさか!?
「――――キェヘヘヘヘヘヘヘ!!」
天井からルリナ目掛けて貴公子が急降下する!!
「キャアアアアアアアアアアアッッ
!!!!!」
その悲鳴は、俺とヒロミの耳にまで伝わった。
「しまった!!」
「ルリナちゃん!!!」
俺達は猛スピードでルリナの個室へ戻る。俺よりもヒロミの方が物凄い速さで舞い戻った。
――バタンッ!!
ドアを開けるとそこには、既にバット貴公子に襲われていたルリナの姿が。
「来たな、昨夜の無礼者ども。この娘の首筋を見ろ!!」
「「!!?」」
俺とヒロミは絶望の戦慄に襲われた。
ルリナの首筋には牙で噛まれた二箇所の血痕が、そして彼女自身も『バットコントロールウイルス』に蝕まれ、顔中に赤い血管が浮き出ていく。
「ルリナちゃんに何てことしてるのよアンタッッ!!!!」
親愛なる助手を襲われ、ヒロミの怒りが爆発した。
「決まっている。この娘から我々組織の重要データの入ったマイクロチップを奪い取る為だ。彼女の両親がチップを奪ったことなど前々から先刻承知の事なのだ」
ジャックスがこの事実を知らない筈がなかった。以前のスパイダー男爵から、ルリナが持っていることを承知で襲撃したのだ。
「我が組織を裏切った者は『死』で償うのが掟だ。例え無関係の娘一人でも、関わった者は全て根絶やしにしてくれる!!」
「貴様ァ……!!」
冷酷非道・血も涙もないジャックスに、俺も怒りを沸きだたせる。
「さぁ、貴様らの隠しているマイクロチップを渡せ!!さもなくばこの娘の命は無い!」
ルリナの命と引き換えにチップを渡せってか?ありがちな駆け引きだが、俺には一つ聞きたいことがあった。
「やいコウモリ野郎! マイクロチップは渡す代わりにルリナは助けてやるんだろうな? 血清は用意されているのか!?」
しかしバット貴公子は黙りこみ、間を置いて衝撃の返事を返した。
「血清は………無い!!」
「「何(ですって)!?」」
「貴様らがどんな選択をしようとも、娘共々皆殺しにしろと幹部からの命令が下っている。
犠牲を増やしたくなければ……チップを渡せ。最低でも一人死ぬだけで許してやろう」
貴公子の名とは遠い程に下衆な野郎だ……!!
この残酷な展開に、俺もヒロミも判断が揺らぐ。
そんな時、薄れゆく意識のなかでルリナが俺達に訴えかけた。
「い、いけない……! どんな事があっても、チップは渡しちゃ、ダ……メ……!!
私は、どうな、っても構わないから……逃げて……ッッ!!」
ルリナの悲痛の叫びのなか、ただ一人敢然と立ち向かう者が。石ケ谷ヒロミだ。
「ダメだよ。マイクロチップは渡さないし、あたしはルリナちゃんを放っておけない!!
意地でもルリナちゃんは……あたしが守るッッ!!!」
そしてそのままヒロミはバット貴公子目掛けて突っ込んだ!!
「ヒロミ!!」
「止めて――――ッッ!!!」
しかし、ヒロミの手元にはあのキューブが!!
「トクサツールッッ!!」
そして……!!
――――ぷちゅ~~~~~~~♡︎♡︎♡︎
「「…………!?!?!?」」
俺もバット貴公子もポカーンとさせながら、ヒロミの行動に目を疑った。
ヒロミがルリナにダイブした瞬間、マグマよりと熱いディープキスを交わした。
「――――な、何!?」
その時、キスされたルリナの様子に変化が表れ、バット貴公子も驚く。
浮き出た赤い血管が消えていき、ルリナの表情も苦悶から安堵したような清らかな顔に戻っていく。
これは……ウイルスが中和されたんだ!!
「き、貴様! 何をした!!」
するとヒロミは手元から口紅のような道具を取り出した。
「これは『トクサツール・リップワクチン』!
口元に塗ってキスすることによって、どんな毒やウイルスを中和させる口紅ワクチンなの!!」
「口紅のワクチンだと!? バカな、そんなのあり得ない!!」
「有り得るの! トクサツ少女に不可能は無いんだから!!」
……ホントに有り得ん奴だ。トクサツールでワクチンまで作り上げるとは!!
「おのれぇぇぇぇええええ!!!!」
バット貴公子は怒り狂いヒロミ達に襲い掛かろうとする。――させるかッッ!!
――ドガガガガガガ!!!
俺は咄嗟に所持していたブローバック型自動拳銃『ウィンドガンナー・W-71』を手に貴公子目掛けて連射する。
慌てて外に逃げ出す貴公子を俺達は急いで後を追い、俺は銃を構えて威嚇した。
「貴様ら! マイクロチップを渡さん限りはこれから先も只では済まさん!! いずれ他の怪人が貴様らを殺しに掛かるぞ!!!」
「今に始まった事じゃ無いだろ。マイクロチップを解読した時は、只じゃ済まないのはお前らの方になるかもな、ジャックス!!」
「ならば解読される前に、貴様らから先に殺してやる!! キェヘヘヘヘヘヘヘッッ!!!」
俺は飛び回る貴公子を銃で応戦するが……火力不足が否めない。このままではまたスパイダー男爵の時のように……!!
「タケルしっかりしなさい! またルリナちゃんにバカにされても良いの!?」
ヒロミ! そんな事言われても……
「これを使って! トクサツールッ!!」
ヒロミはトクサツールで変化した巨大な兵器を俺に投げつけた。これは……緑塗装の大型キャノン砲!?
「それは『トクサツール・ヴァキュイティキャノン』! 使い方はバズーカ砲と一緒! 使ってみて!!」
何でヒロミが俺にそんな兵器を……?
ええいままよ! 思い切って使ってやる!!
俺はキャノンのスコープで低空飛行するバット貴公子を確実にロックオンさせて……!!
「――――発射ッッ!!」
――ギュィィィィイイイイイイン!!!
風を切り裂く真空の塊が凄まじい音を立てて発射、そして空中のバット貴公子目掛けて直撃!!
「ギエエエエエエエエエッッ!!!!!」
バット貴公子は身体中をズタズタに引き裂かれて、血だまりの雨を降らしながら空中分解された。
……すげぇ威力だ。機関のちゃちな銃や武器なんか全く目じゃない。
ヒロミ、もしかして俺にやれるって事を証明させたかったのか……?
「……グッ!」
ヒロミは嬉しそうにウインクしながら親指を立てた。
そしてルリナも、ヒロミに抱き抱えられながらも、俺の勇姿をうつらうつらと目に焼き付けているのを俺は分かっていた。
……ったく、フリーダム女の癖に、味な真似しやがって――!
★☆★☆★☆
戦いが終わり、俺達はヒロミとルリナを引き連れて被害にあったサウザンリーフの街にワクチン摂取するため戻ることにした。
ヒロミはトクサツールで変化した『リップワクチン』を手に、自己催眠で眠っている人達を集めて摂取を始めようとする。
「――さ、ヒロミ。リップ塗ってキスさせないと……」
「……嫌!」
――は!?
「リップキスはタケルがするの!!」
「おま……何言ってるんだお前は!!」
「だってあたしがまたやったら、ルリナちゃんの甘ーいキスの味が薄れちゃうんだもん」
「「ね~♡︎♡︎」」
じょ、冗談この上無しだ!!
犠牲者の中には女はまだしも、男やおばさんや、ジジイまでも居るんだぞ!?
ヤメロォ! 俺はそんな趣味ねぇぞ!!
「頑張って下さいねタケルさん! 私貴方の事見直したんですから!!」
「ルリナちゃんのゆーとーり! 汚れ仕事も任せられないんじゃ、また嫌われちゃうかもよ~?」
コイツら………ッ!!
「はい、口閉じて☆」
俺の口元に口紅が塗られる、そして男同士の唇の唇が(※ここからは自主規制で御願いします。)
――ぶちゅ~~~~~~~~
「このクソ女ァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!!」
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