File No.03:トクサツ少女ヒロミの秘密
全国の特撮&百合ファンの皆、お元気ぃ?
花のトクサツ美少女、石ケ谷ヒロミよ!
――この前の事件でのあたしの活躍、どうだった?
最強の道具『トクサツール』で、スパイダー男爵も真っ黒焦げ!
ホントは素揚げにしたかったけどなぁ、タランチュラの唐揚げって美味……まぁ、それは置いといて。
お陰であたし達が立ち上げた『石ケ谷探偵事務所』と秘密特捜機関『W.I.N.D』と連携する事になったし、毎月1万ブレイブの小遣いも貰えるし、ホントに有意義なお仕事だったわ!
――さぁて、今日はどんなお仕事が待ち受けてるのかしら……!!
☆★☆★☆★
――ここは街の小さな喫茶店『リリィ』。
あたし達が探偵稼業をする最に、副業としてやってるの。
目的はお客さんから地域の情報を手に入れる為にやってるんだけど、ホントは可愛い美少女のお客さんとお喋りしたいから!
でも……
「ぜーんぜんお客さんこな~い!!」
閑古鳥でも鳴くかというくらい店内は空っぽ。物好きなお客さんしか来てないの……
店内に流してる特撮ソングがいけないのかな。
こんなにカッコいいのに、皆興味無いのかしら?
「――まぁまぁヒロミさん、そんなに焦ることないですよ。さっきクッキー焼いたんですけど一緒に食べましょ!」
「ホント!? あたしルリナちゃんのクッキーだーいすき☆」
この長い黒髪に緑のエプロンドレスを優雅に着こなす超絶美女が、あたしの親愛なる秘書の『ルリナ・グリーンリバー』ちゃん!
彼女はとっても優しいし、フローラルな良い香りもするし、何よりもおっぱいが大きくて――おおっと、よだれが……
そんなルリナちゃんが焼いてくれるバタークッキーに、百合の花の飾ったテーブルでローズティーを淹れてお茶するのが至高の一時なの。
……誰よ、似合わないとか言うヤツは。
「――ルリナちゃんとあたしがこーして出会えたのも、ある意味運命なのかも知れないね」
「……そうですね。偶然だったにしても、この出会いはもしかしたら必然だったのでしょうか――?」
「いや、きっとそうだよ! ――この世界に転生したことも、この【トクサツール】を授けられたのも……!!」
……そう、それはあたしが英雄世界・ブレイドピアに転生することになった、運命の日の事だった――!!
――ポワワワワワ……!!
「何が始まるんですか?」
「あたしの回想シーンよ」
☆★☆★☆★
――――あたしは、死んだ。
…………ストレートすぎる結論でごめんなさい。でもそれしか言いようが無いもの。
何しろあたしが転生する前の世界で過ごした記憶は殆ど失ってしまった。
自分の過去や、家族や、友達や、住んでいた町や、死んだ原因や、あたしが男だったのか女だったのかさえも思い出せなくなった。
……ただ、あたしにも頭の中で唯一覚えていたのは、『石ケ谷ヒロミ』という名前と――特撮ヒーローが大好きな事だけ。
死んだ先にあたしが存在する場所は、全てが暗闇に染まった虚無の世界。
何もない空間に『あたし』という個の存在が、ポツンと置かれているのみ。
――はぁ、死んだ後ってとてつもなく暇なのね。テレビも漫画も無いし……亡くなった人達って皆こんな思いしてるのかしら?
それよりも、あたしこれからどうすれば良いんだろう――?
…………まぁ、とりあえず寝てから考えよ。死んでるけど。ここは雑音も何もないから、ゆっくり寝られる……Zzz。
身体の余計な力が全て抜き去るように、静かに眠りにつくあたし。
そこへ――――――
『――目覚めよ、英雄の意志より選ばれた少女よ』
「ぅ、ん……?」
真っ暗な空間に、突如太陽の如く眩しい光を浴びながら、あたしは意識を取り戻す。
『目覚めよ、石ケ谷ヒロミよ。お前は選ばれたの――――』
――シャッ!!
「うるさい、おやすみZzz……」
あたしは光を遮るブラインドを降ろして二度寝をする。……てかこんな真っ暗な場所に真っ黒ブラインドを良く見つけられたと思うわ。
…………シャッ!!
今度は降ろしたブラインドが勝手に上げられてまた光が射し込む。
『二度寝している場合じゃない! 今世界は由々しき事態なのだぞ!!』
「こっちも寝不足で由々しき事態なの!! 今6時じゃないの、あと一時間寝かせなさいよバカ!!」
『あ、マジ? すまんな、寝不足は美女の大敵だもんな…………って、ここに時計無ぇよ!!
いい加減起きろーーーーーー!!!!』
光がドカーンと爆発するような怒号を上げて、びっくりしたあたしは飛び上がって起きた。
『全く……この偉大なる神様を世話好きお母さん扱いするとは何事だ!!』
「え……神様!?」
あたしは驚いた。と言っても目映い光から神様らしき人物は見えない。
別にネタバレ防止の加工では無い。単に眩しすぎるからである。
『おほん……石ケ谷ヒロミよ、お前は以前まで過ごした世界の元で死に絶え、この虚無の世界に閉ざされている。しかし、今から私の力で別の世界に転生させることにした!!』
「て、転生!? 変身とか転身じゃなくて?」
『別に光の国の使者から命を授ける訳じゃない。お前のようなヒーローを信じ、ヒーローを心から愛する純粋な女の子に、これから別の世界である使命を果たして貰うのだ!』
女の子……? そっか、あたし女の子だったんだ!!
「でもあたしのような女の子に使命を任せて良いの? 男の子じゃダメなの?」
『男じゃありきたりだし物語的に弱い! こーゆーのは女の子に任せた方が、色気で華やかになると思ってな。人気も上がるし』
オイ、メタいぞ煩悩の神。
『そして何より、お前は想像力が誰よりも強い! 常識に囚われない無限のイマジネーションが、必ず異世界を平和に導くと信じて、私はお前を転生させようと決めたのだ!!』
想像力、イマジネーション……?
色々疑問に思うことはあるけど、それよりも聞きたいことが一つ。
「あたしの転生させる世界って一体何処なのよ!?」
『ヒーローが住むと呼ばれる英雄世界、【ブレイドピア】だ!!』
神様が見せたのは、そのブレイドピアの全体の地図。
森林が生い茂る場所や、その反面近未来の都市が立ち並ぶ地域まで、ファンタジーやらSFの要素が凝縮されたような壮大な大陸であった。
『今この世界では悪の化身達によって支配されている。世界の象徴であり、守護者である英雄達もそいつらの手によって封印されてしまったのだ』
うーん、聞く限りめちゃんこピンチなのは伝わったわ。でもこんな幸薄の美少女に役目は果たせるのかしら?
「それで……あたしはどうやってその英雄の封印を解いて、悪をやっつければ良いの?」
『――お前にこれを授けよう』
すると光から突如何か物体のようなものが現れた。あたしは手に取ると、それはキューブ状の結晶のようなものだった。
「これは……?」
『英雄達の記憶が詰まった神器【トクサツール】だ』
トクサツール……?
積み木にしては小さすぎる。オブジェにしてももっと小さすぎる。
こんなちっぽけなブロックが神器なの??
『お前は自分に今必要なものを頭に思い描いて、この神器の名前を叫ぶがよい。
するとそのトクサツールはお前のイマジネーションに反応して、武器やマシン、そして便利な道具へと変幻自在に変えてくれるのだ』
ホントに~? よーしだったら実際に使って試してみようじゃないの。
「――トクサツール!!」
あたしは心に念じながらトクサツールを天に投げて叫んだ。すると……
「……うぁッ!! ホントに変わった!!!」
あたしが思い浮かべたのはクリスタルで錬成された剣と盾。
それがそっくりそのままトクサツールが変化して、実現させたのだ!!
『どうだ? トクサツールの力は無限大なのだ!』
「すごーい! じゃオシャレな衣装に変えるのも出来るの?」
『勿論だ』
「秘密基地も作れる!?」
『容易いことだ』
「あたしのおっぱいも大きく――」
『無駄な事はするな』
どういう意味!!?
今気づいたけど、あたしの貧乳が癪でどうにも気になるのよ!!
『とにかく、お前はこのトクサツールを駆使して英雄異世界の平和を守るのだ! 良いな?』
オイ話逸らすなや。まだ貧乳の件が終わってないわよ。
『おっぱいはいっぱい食べていっぱい寝れば大きくなる!! 以上ッッ!!!』
何なのよその根拠ゼロの回答は!!
――あ、でも………
「ねぇ神様、もし……異世界転生して、使命を果たして平和を取り戻したら、あたしはどうなるの――?」
『………それは、お前の想像力次第だ。転生した後はお前だけの人生、私がとやかく言う必要は無い。
――幸運を祈っているぞ、英雄異世界の救世主に幸あらんことを………!!』
すると、神様の光は勢いを増して虚無の暗闇を瞬く間に包み込む。
あたしは転生した先の事を不安に思いながらも、その光に吸い込まれて、意識は消えていった。
☆★☆★☆★
――――そして意識を取り戻し、目に映った風景は……
虚無の暗闇から一変、色とりどりに広がる街並みの景色、その街路であたしは横たわるように倒れていた……!!
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