第10話〜〝恋〟とは違う〜


「……マ、ゴマ!」


 メルさんの声——ってことは、帰ってきたのか?

 メルさんは、姉貴分でボクら家族の親代わりの三毛ネコなんだ。


「んああ……? メルさん? ボク帰ってきたのか?」

「何言ってるの! 急にいなくなったかと思ったら、今度はこんな道端で寝っこけて……危ないじゃない。ほら、もうすぐご飯だから住処に帰るわよ!」

「何だと? ボクはさっきまで確か……あれ?」


 体を起こし、周りを見渡した。ここは住処のガレージの近く、道路のど真ん中。車が走ってきたら即アウトだ。

 ……一緒にいたはずのルナがいない。ソアラもいない。


「め、メルさん。ルナは? ソアラは? どこに消えたんだ?」

「ルナならとっくに帰ってるわよ。ソアラ……? 知らないわよ、そんな名前のネコ」


 住処のガレージが見えてきた。既にボクらの家族——じゅじゅさん、ライムさん、スピカ、ユキ、ポコ、レモン、ミカン、まっちゃ、そしてルナが、皿に盛られたカリカリをむさぼり食っている。


 ぐーー。……腹の虫が暴れている。


「ま、待て! ボクにも食わせろ!」


 慌ててボクもみんなに混じり、ただひたすら晩飯にがっついた。



 ♢



「ルナ、お前いつの間に帰ってたんだ」

「気がついたら住処にいたよ。兄ちゃんどこにもいないから心配してたんだよ。おかしな世界だったね。無事に帰れて良かったよ」

「……ルナ、お前がそう言うってことは……あの世界は夢とかじゃあねえってことだな。全く、変な体験だったよな。そういやルナ、ソアラの奴はどこ行ったか知らねえか?」

「ああ、あの兄ちゃんに負けず劣らずの変態ネコさんね。いつの間にかいなくなっちゃってたね」

「面白え奴だったのにな」


 夜も更け、ボクとルナだけ起きて、空に浮かぶ満月を見ながら話していた。

 いったいどうやって、あの別世界に行ったのだろうか。ミランダに頼んでワープゲートを出してもらった覚えもねえし。それに——。


 シャロール——。


 ネコの耳と尻尾が生えた、モンスターと話せるニンゲンと出会った。

 現実世界にそんな奴、居るはずがねえよな。


 やっぱりアレは、夢の中の出来事だったってのか? 

 いや、そんな筈はねえ。

 シャロールのパンツの色は白だって、ハッキリと目に焼き付いている。


「なあ、ルナも見ただろ?」

「何をさ」

「……いや、やっぱ何でもねえ」

「兄ちゃん、何か変だよ。もう寝よう?」


 モヤモヤが晴れない。ボクはもう一度、会ってみたかった——あの不思議なネコ耳少女、シャロールに。

 変な意味じゃなく、友達に——なりたかったんだ。


「兄ちゃん、僕寝るね」

「ああ」


 ルナが丸くなって寝たのを確かめてから、ボクはミランダを呼んだ。あの別世界について聞いてみることにしたんだ。

 あの別世界にいる時はボクらは戦いに夢中で、ミランダも一瞬で帰って行っちまったから。


『あら、無事に帰れたのね』

「ミランダよぉ、あの世界は一体どこなのか知ってるか? あの時は聞く余裕もなかったからよぉ。それにソアラはどこ行ったんだ?」


『あそこは、〝ゲームの世界〟よ。でも、どうやってゴマくんたちはそこに行ってたの? あたしワープゲートを使った覚えもないし』


 〝ゲームの世界〟だと——?


「どうやって行ったって、それはこっちが聞きてえよ。お前が寝ぼけてワープゲート暴走させたとかじゃねえのか?」

『そんなわけないじゃない。うーん、不思議なこともあるのね。あ、ソアラくんも、ニャンバラに帰ったみたいよ。あの灰色の男の子が、みんなをちゃんと元の世界に帰してくれたみたい』

「……ってことは、帰りもお前がやったわけじゃねえってことか。……なあミランダ、今度はお前のワープゲートの力で、またあの世界に行くことはできねえか?」


 ミランダは少し間を置いて答えた。


『あれは〝ゲームの世界〟だから、流石にあたしの力では無理よ』

「何だと……?」

『……どうしたのよ、うつむいちゃって』

「何でもねえよ。チッ、もう行けねえのかよ……」


 シャロール……。

 もう二度と会えねえのか。

 友達に、なりたかったんだけどな。


 夢じゃあねえが、束の間の夢みたいなものだった——そう思うことにしよう。

 だがボクがジジイになったとしても、もう一度でも、会えたらいいな。そう思わせてくれるぐらい、不思議な魅力がある奴だった。〝恋〟とは違う、心惹かれる感じ——。


 ボクはもう一度、星空の中で煌々と輝く満月を見つめてから、毛布に入った。


(The End)

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子ネコのゴマとネコ耳少女〜もう1つの、優しい異世界へ〜 戸田 猫丸 @nekonekoneko777

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