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 これ以上、話をしても無意味だと思い、ヒュウガは"血の湖"を見つめていた。

 相変わらず、不気味な色合いの湖だ。

 血を実際にはまだ見たことはないが、この湖の名前の通り、こういった色合いなのだろう。

 そうだ。この隣にいる少年が全身この湖のような色合いに染まっていたではないか。

 大鎌で生者を狩ると、身体から魂が取り出されるだけなもんだし、仮に死神を斬ったとしても、砂塵となるらしい。

 しかし、それ以前にどういった理由であれ、同じ種族である死神を斬ってはならない。

 斬った場合、即座に大鎌を剥奪され、薄暗闇の中、繋がれた状態で永久を過ごさねばならない罰を下されるのだという。

 生前に犯したと言われる罪を償わず、孤独に。

 大鎌を授かった際に言われたのだから、本当なのだろう。

 そういった点を踏まえて、あの時の少年は奇妙である。

 あの湖に誤って落ちたとしか、今のヒュウガでは思いつかない。

 しかし、落ちたとしても、その落ちた理由が分からない。

 頭を抱えた。


「おっ? ヒュウガ。オマエ何してんの?」

「つーか、隣にいるヤツ誰よ? 見たことがないヤツっぽい?」


 第三者の声がし、後ろを振り返ると、いつもの友人らがそこに立っていた。


「オマエらか。いや、コイツがいつまで経っても家から出ようとしねーから、ちょっとした散歩がてら、ここのことを紹介してたんだわ」

「あ、もしかすると、前に倒れていて、看病したってヤツ?」

「この湖のことを紹介するってな·····。いや、この世界、これぐらいしか無いか。てか、こんな湖、誰でも知ってね?」

「たしかな·····けどな、全く喋ろうとしないから、ちょっとした話題作りを、ってな」

「なーるー。ほんとっ、オマエって何から何まで世話を焼くよな〜」

「お優しいこった」


 なー、と何故か声を合わせ、顔を見合わせる彼らを見て、「なんなんだよ」と眉を潜めて睨んでいた。


「んでさー·····──」


 片方の友人が何か言おうとした時だった。

 何故か、その友人は徐々に顔を青ざめていく。

 もう一人も同様に、口をぱくぱくさせて、指差していた。


「は? なに、オマエらどうし──」

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