第5話 回帰


 俺は願った。病室で眠るななちゃんの横顔を見ながら。死なないでと。


 こんな現実は受け入れられず、俺はいつのまにか眠りについた。



 目を覚ますとそこは入学式の最中だった。


 一瞬驚くがすぐに夢だと気づく。俺の前にななちゃんが立っていたから。そうだ、こんなふうに緊張していた。そして俺はこう声をかけるんだ。


 ––––「ななちゃん?大丈夫?」


 ***


「裕?」


 思わず声に出す。すると裕は驚いた顔をする。そう、現実で裕と付き合っていたのはわたしだ。そう、は偽物だ。


「なんで?これは俺の夢…なのに。俺の事裕って呼ぶの?」


 裕の目に涙が浮かぶ。


 次々と裕との思い出が蘇る。"ピッカピカ"のおまじないをすんなり受け入れたのも、話すのが嫌じゃなかったのも全部、私の体は覚えていたんだ。裕との日々を。


「全部思い出したの。わたしたち3人はいつも一緒だった。でも裕と付き合っていたのはわたし。裕って呼ぶのもわたし、高松君と呼んでたのは咲のほう。」


 裕の目の涙はボロボロとこぼれ落ちていた。


「ななちゃんが事故にあったのは俺とのデートの日だった。だから、俺と付き合わなければ事故が無かったことになるんじゃないかって。」


「そんなことしたって何も変わらないよ。これは夢。わたしは助からない。そうでしょ?」


「…わかってるよ。——っ、しょうがないだろ!?目の前にななちゃんがいる!動いてる!話してる!!笑ってる!夢だってわかってても今度こそ守りたい!!そう思うだろ!」


「だからっ——、"この気持ちは恋じゃない"。本当にそう思うことにしたんだよ!結果がわかってるのにななちゃんに好きなんて言えない!言っちゃいけないんだよっ!!」


(わたしのため?)


 言葉が出ない。視界がぼやける。涙で前が見えない。


 それでも、この世界でも裕はわたしに話しかけてくれた。関わらない選択だってできたのに。


「やっとこっち見た。」


「深呼吸してみな?すぅ〜、はぁ〜。ピッカピカ!」


「俺はもう必要ないからさ、ななちゃんが使ってよ。」


 次々と裕の言葉を思い出していた。


「それでも、わたしは何回でも裕を好きになるよ。たとえ会えなくたって!今回だってそうだった!何回やり直しても!絶対に裕を好きになるッ。——お願いだから。この気持ちをなかったことにしないで!わたしを遠ざけないで…。」


「…ななちゃん。」


「戻ろう。2人で、この気持ちが恋じゃないなんて言わないでいられる世界へ。」


「——ッごめんね。ななちゃん!ごめん!守ってあげられなくてごめんね!」


「違うよ。裕が隣にいない世界の方がわたしはよっぽど辛いから。」


と精一杯の笑顔を浮かべてみる。

 ***


 世界が白く染まる。


(あぁ、戻っていく。私たちの世界へ。願うならば、諦めたくない。裕と一緒にいれることを。)

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