第4話 この気持ちは恋じゃない


 ––––キキィ。

 大きなブレーキ音。車はわたしに向かってくる。"轢かれる"と思い、きゅっと目を閉じる。


 あれ?と思い目を開けるといつも通りの見慣れた風景。自分の部屋だ。


「なな〜、起きなさいよ。」


 お母さんの声だ。夢と理解し、学校が憂鬱になる。理由はわかっていた。悪夢を見たのもきっとそのせいだ。


 ***


「なな!おはよーう。」


 挨拶してくるのは咲だった。わたしたちは親友と呼べる仲になっていた。それに続く声がもう一つ。


「ななちゃん、おはよう。」


 高松君だ。2人は一緒に登校している。この2人が付き合うようになるまでそう時間はかからなかった。


 わたしに変わるきっかけをくれた高松君と咲。2人とも初めての友達、どちらも大切だ。


 だけど、どうしても高松君への想いだけは消せなかった。


 だから今日決めていたのだ。高松君に気持ちを伝えると。想いを消すきっかけが欲しかった。あの夢は砕け散るわたしを表していたのだ。


 ***


「そっか。」


 咲は思いのほかあっさりとしていた。


「ななが決めたんなら言って。あたしは大丈夫。」


 いつもの笑顔だ。


「いいの?彼氏に好きって言うんだよ?わたしたちの関係も変わるかもしれない。」


「変わらない。裕のことはもちろん好き。でも、あたしはななのことだって同じくらい大好き。後悔しないで?」


「ごめん、ごめんね。–––っ、わたしも大好きだよ。」


 こんなにもわたしを想ってくれる人がいることが嬉しかった。もう、あの頃のわたしはいない。こんなに信じられる友達がいるのだから。わたしたちは変わらない。



 ***


 放課後、高松君を呼んだ。


「ごめんね。わたし…、高松君のことが好き。どうしても伝えたかった。」


「…。俺もななちゃんのことが大好きだよ。」


 その顔は大切な何かを遠く見据えているような、泣きそうな笑顔だった。


「でも、ごめんね。…俺の。」


「––––っ。」


 わかっていた。でも本人の口から言われると想像より重く、わたしにのしかかる。


「わかってる。咲のこと大切にしてあげて?ありがとう。」


「…に、したいのは–––。」


「え?」


「なんでもない。これからもよろしくな!」


 "これからも"その言葉がすごく嬉しかった。わたしは髪の毛に触れる。


「いっつも無理する時髪の毛触るよね?」


 ザーーー

「…無理する時髪触るよね?」


(え?一瞬視界が。)


 デジャブ?いや、違う。あれは現実だ。そうだ、いつもわたしの隣には高松君、いや、"裕"がいた。なんで忘れてたの?朝の夢は現実だ。


——あの時も隣に裕がいた。

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