第3話 好き


 それからというもの、高松君と話す機会は次第に増えていった。日々、自分の世界が変わっていくのを感じている。


「–––この続きは次回までにやってくること〜。」


 担任の先生の声が響く。


 わたしは授業を真剣に聞いていた。高松君と出会ってからというもの、こんな自分でも何か価値があるのではないかと思うようになっていた。我ながら単純だ。なんでも頑張ろうという気持ちになるのだから。



(こんな風に友達ができるなんてあの頃には考えられなかった。)


 考えながら、ふと耳を澄ませる。


「ぐぁ〜〜っ」


 大きないびきが聞こえる。まただと思う。意外にも高松君は授業で寝るタイプだった。第1印象からは考えられなかったが、毎度毎度このいびきを聞くと納得せざるを得ない。


「ふふっ。」


 自然と笑みがこぼれるので不思議だ。自分が自分でなくなったかのようだった。


 * * *


「高松君、今日の宿題の範囲聞いてた?」


「聞いてなかったの分かってるよね?ななちゃん。優しいよね。」


 こんな何気ない会話をするくらいわたしは成長していた。


(不思議。こんなに自然に誰かと話せる日が来るなんて。)


 毎日、学校に来るのが楽しみになっていた。すごい進歩だ。


「ねぇねぇ。」


 ふと、声がかかる。クラスでも目立つ存在。くりっとした目に白い肌、明るい笑顔が印象的でクラスの人気者。野々宮咲がそこに居た。


 近くで見るとますます美少女だ。おまけに性格も良い。非の打ち所がない。日陰者のわたしとはえらい違いだ。


 そんな彼女が一体何の用だろうか。


「今、宿題の話してた?私も教えてほしいんだけどいいかな?」


「いいよ。つっても俺もななちゃんに教えてもらおうとしてたとこ。」


 さすが高松君。自然と会話のキャッチボールを行う。


 野々宮さんにも負けず劣らず人気者高松君。顔もいわゆるイケメンというやつだ。なによりこの優しく気さくな性格。こちらも非の打ち所がない。


 わたしは2人の会話を見守る。高松君と話せるようになったからといって、やはり人見知りは健在だ。それもこんな美少女、緊張して当たり前だ。


 わたしは空気に徹することをきめた。


 ––––が、


「ななちゃん、高橋さんだね!あたしもななって呼んでも平気?」


 …黙っていられなくなった。


「だ、大丈夫。」


「ありがと。じゃあ、ななで!話してみたいと思ってたんだよー。いっつも2人楽しそうなんだもん!これからよろしくね!」


「はぃ、こちらこそ…。」


 そんなこんなで宿題の範囲を三人で確認した。


「じゃ、高松君の事はって呼んで良い?」


「あ〜、全然良いよ!じゃあ俺も咲で!」


 そんな会話を聞いてわたしの思考はとまった。


(なに?もやもやする。頭の中にもやがかかったみたいな…。嫌だ…。)


「おっけい!嬉しいなぁ。裕もななもこれから仲良くしようね。」


「うん。」


 と答えるも、わたしは気づいてしまった。


(あぁ、分かった。わたしは高松君の名前を他の女の子に呼ばれるのが嫌なんだ。…嫉妬だ。)


 わたしは…高松君のことが…、"好き"なんだ。

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