¥金貨2枚 予想外の仲間候補?

 予想以上に予算が無かったところでただいま酒場で休憩中、というかランチタイム。作戦会議がてらです。ちょうどお昼時のこの時間は、結構賑わいを見せている。


 俺達は、この先どうするかを考えるしかない。そりゃもちろんステラの貯金を切り崩せばお金はあるかも知れないけど、この先の生活もあるし。その分クエストをやれば良いんだけど、リリカはヒーラーを雇うまで行きたくないって言ってた。


「ところでリリカは?どれくらいヒーラーを雇うのに予算があるんだ?」


 デザートの異世界パフェを笑顔で頬張っていたリリカに問いかける。別にパーティメンバーなんだから少しくらい頼っても良いと思う。冒険者登録したばかりの子供に聞くのもおかしな話だけど。

 言われたリリカは急いで飲み込み、ピンク色の可愛らしい巾着覗く。


「えーっと、今は銀貨5枚くらいね」


「今は?」


「家に帰ったらもっとあるわよ」


 親に持たせてもらったお金だろうか?銀行というものが無いんだったら、ある程度最初に現金で渡すものなのかな。

 見てくる?というが、さすがに今すぐは大丈夫と断った。

 やっぱり小まめにクエストに行って貯金するしかないのかな。


「あのー皆さん」


「あれ、シーニャさん」


 声の方向を向くと、大きなおぼんを両手で抱えるようにして持つシーニャさんが立っていた。

 基本的に受付嬢の皆さんは酒場のホールとかキッチンもシフトで担当している。変わらない服装に帽子、さっきまでたまたま見かけなかったけど、今日はこっちの担当なんだろう。


「何か他に頼んでたっけ?」


 2人とも首を横に振る。リリカの食べているパフェで最後だった気がするけど。

 

「えーっと、そうじゃなくて……ごめんなさい先ほどの会話が聞こえてしまいまして……皆さんヒーラーをお探しとお聞きしましたが」


「そうだけど、え、もしかして誰か良い人紹介してくれるの!?」


 机に手を置いて身を乗り出す。シーニュさんは受付嬢だ。もしかしたら良い感じの人とかを知っているかもしれない。あわよくば契約料のいらない人が良い。絶対その方が良い。

 返答に間が空く。あれ、いつもは結構快活にハキハキとしているのに、何か言い辛いことでもあるのか?


「まさかゴルディとか?」


「ゴルディ……さん?」


 首を傾げる。良かった、どうやら違うみたいだ。


「紹介と言いますか……あの、私も水魔法使えますがどう、ですか?」


 申し訳無さそうに自分を指差す。なんちゃって……と言葉に自信の無い小さい声が付いてくる。っていうことは紹介したい人って……シーニャさん自身!?


「ちょっと、あんたって受付嬢よね?戦えるの?」


 パフェを食べ終わったリリカが、頬杖を突きながらシーニャさんに聞く。お前ぶりっ子モードは良いのか?

 まあ俺も同じような気持ちだ。そりゃシーニャさんと一緒にパーティなんて組めたらもうそれだけで転生した意味があったっていうレベルだけど、受付嬢をやっていたシーニャさんが戦えるとは思えない。ただの可愛らしい受付嬢ってイメージしかない。


「一応私ギルドカード持っているんですよ。というか元々こっち志望でして」


 どこからかギルドカードを取り出す。そこには確かにギルドへの登録情報が書かれていた。


「ほう、戦士か」


 ステラの言葉通り、登録の職業は戦士。聖職者では無く、近接戦闘の出来る職業でヒーラーっていうのは珍しいように思える。ステータスとしては、近接戦闘に使える生命力、攻撃力、敏捷力が高め。更には。


「あんた能力持ちだったの!?」


「ええ、まあ……」


 能力、操影。との記載。影を操る能力だろうか。人は見かけによらねえんだな……


 3人でギルドカードをまじまじと見る。


「ヒーラーで戦士って珍しいな」


 ゆっくりとステラが呟く。


「やっぱりそんなにいないのか?」


「まあそうだな。近接戦闘で真っ先に傷付くヒーラーはなかなかパーティにも入り辛いとも聞く」


 ステータス的にも素早さが高い紙装甲って感じだし、確かにRPGとかだと癖が強くて使いにくそう。というか使わないな俺なら。

 シーニャさんに視線を動かすと、しょんぼりしたような顔になっている。きっとそういった理由もあってこれまでパーティに加入できなかったんだろう。


「そうね、残念ながら私たちには……」


「いや、シーニャさん。俺達とパーティを組もう」


「えっ!良いんですか!?」


「うん、良いよ」


 リリカの言葉を遮って返事をする。2人の意思は聞いていないけど。


「なんでよ!もっと良いヒーラーいるんじゃないの!?」


「いや、あんまり張り紙にもいなかっただろ?それに一番欲しいって言っていたのはリリカじゃん」

 

 俺の言っていることは間違っていない。ヒーラーは今確実に必要だ。それに、受付嬢をやっていたなら様々な情報に詳しいだろう。絶対にその知識は役に立つ。決して俺の下心って訳ではない。俺は真剣な顔でリリカを見つめる。絶対真剣な顔で。


「うっ……わかったわよ……ただし、試しにクエスト行ってから本加入ね!」


「ありがとうございます!」


 シーニャさんが帽子を押さえて頭を下げる。


「ステラも良いだろう」


「私は別に構わないぞ。話すのにも慣れているし」


 だと思ったよ。最初はコミュ障発揮させてたけど、最近は普通に話せてたもんな。


「皆さんありがとうございます!!えっと、じゃあ、契約料金貨50枚いただけますか?」


 えっ


 場が凍り付く。金とんの?この流れで?しかもめっちゃ高いんですが。シーニャさんはいつもの笑顔だし。マジで?ステラとリリカも固まっているんですけど。


「あ、あのー、シーニャさん?うちらお金が…」


「冗談ですよ、冗談。ヒーラージョークです」


 教会の掲示板に絡めた冗談だろうか。冗談言うような人だと思ってなかったし、笑顔のままだったしめっちゃ心臓に悪い。今俺心臓無いんだけど。


「じゃ、マスターに伝えてきますね」


 と、マスター!!って言いながらお店の奥に消えていく。マスターでは無い!店長と呼べ!と、騒がしい店内でもはっきりと聞こえるヒバチさんの声。酒場と組合で呼び方を変えろってことなのだろうか。


「何はともあれこれで4人だな」


 今日はなんかもう疲れた。多分シーニャさんの引っ越しもある。近くを通りかかった違うメイドさんに飲み物を注文して、クエストは明日にしようと心に決めた。

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