¥金貨1枚 ヒーラーを探しに教会へ。

 ……あ、今回からちゃんとしたタイトルに戻りますね。なんか付いてるけど。


 次の日の朝、家のリビングで俺たちは朝食のパンをもそもそと食べていた。


「ねえ、こんなもんしかないの?」


「しょうがねぇだろ。誰も作れないんだから」


 俺は食べる必要を無いんだけど、心の健康の為にも毎食食べている。まあ2人共料理が出来ないから、基本的に昼食夕食とかは主に酒場で食べているけど。リリカも料理は出来なそうだからその生活は続行されそう。

 酒場のメニューは名前が違う事以外はそこまでの違いも無い。んー、まあサラマンダーとか出てくるのはだいぶ大きな違いだろうけどね?


 それにしても昨日の夜はかなり大変だった。今もめちゃくちゃ疲れている。

 まず、リリカの荷物はかなり多かった。一旦宿屋に置いておいたものは馬車3台分。それを運び入れたのだからかなり骨が折れる。荷物だけでスピカの家の部屋が2つ潰れてしまった。


「こんなに何があるんだ?」


「全部大事な物よ!」


 言っても聞かなそうだし、とりあえずは放っておくことにした。エイストは海の向こうの国らしいし、そこから引っ越してきたのだから荷物も多くなるだろう……大体服に見えるけど。


 あと、ヌシを退治したことから『ヌシ殺しのチヒロ』とまた話題になってしまった。短時間でのこの大立ち周りは、やはり異常らしい。今日には新聞にも載ってしまうとか何とか。目立ちたくねえのに……いやまあ世界救いたいって言ってんだからそれは矛盾してんだけどさ。陰キャ魂が……

 昨日だってやっぱり、チヒロ!やっぱお前凄いな!とか、この世界を救う英雄なんじゃねぇの!?とか、そんなようなことを声掛けられまくったけど「あ、いえ、たまたまです……」くらいしか返答出来なかった。オークの時もそうなのに変わらず声掛けてくれるの凄いな。前世だったらもう呆れられてそう。そんな経験無いんだけどなへへへへ。


 あ、無事リリカは登録出来ました。ヌシは俺の記録になったけど、ゴブリンの巣を破壊させたのは十分実績として認められた。なんか登録の時に不具合があったみたいで時間がかかったけど。何だったんでしょうかね。


「ヒーラーはやっぱり必要よ!」

 

 時間軸は朝食に戻り、コップの中身を飲み終わったリリカは言う。


「チヒロはステラがいれば修理リペア出来るかもしれないけど、あたしとステラ自身は危険でしょ?勧誘するのが苦手だからと言っていつまでもこのままじゃ絶対ダメ」


 ごもっともである。いや気付いてはいたんだけどずっと先延ばしにしてしまっていた。

 でもここの町、小さいから大体の人もうパーティ組んじゃってんだよな。


「回復魔法ってどの属性なんだ?」


「水に分類される。もっとも、水魔法使いの中でも回復を使える人は結構少なめなんだけどね」


 水が回復に分類されるっていうのはなんかのゲームで見たような……まあそれはいいけど、正攻法でやっても見つからないだろうし、今の評判を利用するしかな無いのか?


「ヒーラーの大多数が神職に分類されるから、教会で募集しているんだけどね」


「え、そうなのか?聞いてないんだけど」


「行かないと思ってたし行く勇気も無かった」


 恥ずかしそうに言う様子をリリカは呆れたように見ている。ジト目っていうのはこういう事をいうんだろう。


「はあ……じゃあ行きましょう。少しでも早い方が良いわ」


***


 一番最初に町に入った際遠目で一回見たあれがやはり協会みたいだ。この世界は基本的に、1つしか宗教は無いようだ。小さい規模のものは国ごとにちらほらあるようだが、ほとんどの人は知らない。ステラとリリカは2人とも無宗教みたいだ。

 そしてその1つの宗教には、宗教名や神の名前が無い様だ。祈る時にはただ神様と祈るだけ。まあそれしか無いなら不都合も無いんだろう。

 その神って例の小林さんの上司とかなんだろうか?今更こんな大変な目に合わせてきた


 神を信仰は出来ないな……


「2人は教会行ったことあるの?」


 目的地までの道を進みながら問いかける。


「私は前によく行っていた時期はあるな」


「あたしは地元の教会も行ったことは無いかな」


 まあ信じていない宗教の場所なんてそんなもんだろう。あ、いやでも前世で初詣の時とか神社に行っていたな……意味は無かったけど。


 教会に着き、開け放しになっている扉に入る。するとそこには、圧巻の景色が広がっていた。


「おぉ……」


 思わず声が漏れる。広々とした内部には、ステンドグラスや石像が存在している。俺の額が無い為上手に形容出来ないけど、テレビで見たヨーロッパの大聖堂に形は似ている。どこの文化でも作られるものは似てくるという事なのか。


「あんまり口開いて見ているとバカみたいだぞ」


「うるせえ」


 俺には行く機会も無かったけど、前世でも見たらこういう気持ちになっていたのだろうか。


「で、どうしたら良いんだ?」


「あそこにパーティの勧誘待ちの人が貼り出されているはずだ」


 ステラが指差した方を見ると、入口から入ってすぐのところに掲示板が設置されている。近づいて見てみると、勧誘待ちの聖職者のプロフィールが何枚か貼り出されていた。

 数はそこまで多く無いようだけど、なるほどここで見る方が効率的だ。

 どれどれ?えーっと、名前はゴンゾウ、人族で70歳の大ベテラン。おじいちゃんだな。契約料は金貨5枚……って、金取るの!?


「ねぇ。この人なんか良いんじゃない?」


 背伸びしたリリカが指を差している紙には、確かに王都学校主席卒業で単独ドラゴン撃破というヒーラーらしかなる優秀な経歴が書いてある。しかし、契約料が金貨15枚……


「リリカさ、もう少し現実的な方探そ?」


「えー、優秀そうじゃない」


 駄々をこねる子供のように言う。金銭感覚がズレているのか?荷物の量も多いし、エイストのお嬢様だったのかもしれない。


「こっちはどうだ?」


 次はステラから問いかけられる。学校卒業したてで歳も近い。料金も小銀貨2枚とさっきよりは少なめ。ただ自己PRが『傷付くのが好きです。その後回復する時は天にも昇ります。ピンチも大好きです。死にそうになるような危機に会えるパーティ募集してます』。


「お前この文章読んだか?」


「歳近いのがこの人しかいなくって……」


 気持ちはわかるよ……歳遠いと絶対話せないもんな……でも性格が壊滅的なのは勘弁な。

 俺はうんうんと頷いて肩に手を置く。


 ってあれ、いつの間にかリリカが近くから消えている。お手洗いか?


「ねえねえ2人とも!さっきの貼り紙の人そこにいたから連れてきたわよ!!」


「お前何してくれてんだ!?」


 壮厳な教会に響き渡る俺のツッコミ。真剣にお祈りしている人に頭を下げる。


 余計な事してくれやがって……当の本人は手を後ろをで組んでどや顔をしている。

 視線をリリカに手を引かれて、というか半分引きずられてきた人に移すし、いやあうちのがすみませんと会釈をする。


「君達かい?この輝かしい経歴を持つこのゴルディをパーティに入れようとしている光の使徒は?」


 なんだこいつうざいな。

 マントまで付いた金色の服に身を包んで、金髪を長く伸ばしている。見るからに眩しい。そしてうざい。キャラデザに失敗したスーパーマンかよ。


「いや違います」


 無視して掲示板を見ているステラとリリカの代わりに俺が答える。つーかリリカはなんでだよお前が連れてきたんだろ。責任取れよ。いや予想以上にうざかったのは分かるけど。


「遠慮しないでいいぞ☆」


 うわっ、ウインクしたら星が出た。うざい。


「いや、あの、そもそも俺たちそんな予算無いんで……」


「うーん、しょうがないな!ドラゴンを討ち取った僕は君達にはもったいないとは思うが、今なら半額だ」


「はあ?」


 いけない、声が漏れてしまった。というかドラゴンなら俺も討伐してんだけど。まあ写真は無いんだから知らないのも無理は無いけどさ。いきなり半額にするってのも意味わからねえし。それにうざい。


「ふっ、しょうがないな。ならばもう金貨5枚、いや1枚で良い!」


 なんかもういちいち反応も出来ないんだけど。え、なに自分の価値そんな急落させて良い訳?


「頼むよ!もう同期で僕だけどこにも加入出来て無いんだ!こんなに経歴はあるのに!お願いだぁぁぁぁぁ……!」


 多分性格と金額が色々嚙み合っていないと思います。嘘つくような悪い人では無いと思うし、経歴も本当なんだろうけど……うん、良いパーティ見つかると良いね!

 ゴルディに申し訳ございません!と言い残し、そのままステラとリリカを連れ、教会から出る。


 無言のままリリカに目を移す。気まずそうな表情で口を開く。


「な、何よ!たまたまいたから話だけ聞こうと思って!えっと、その、ごめんなさい……」


 まだ何も言ってないんだけど。リリカにそこまで言わせる圧力があったのもすげえなあいつ。

 それにしても掲示板にもちょうど良さそうな募集っていうのは無かったな。お金もかかることだし。


「あーステラ、そういえば俺達の予算は?」


 疲れた様子で、財布代わりの巾着を懐から取り出す。中のお金をちゃりちゃりと数え、苦笑いを浮かべる。


「生活のことを考えると銀貨1枚くらいかな」

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