お父さん
ピンポン!と玄関のチャイムが鳴った。
「はーい」
「あ、お母さん、私が出るから」
「あら、そう?」
約束の時間、10時ピッタリの来訪は、誠君だった。
いそいそと玄関を開けると、そこにはマフラーをして少し前屈みの誠君が立っていた。
「おはよう」
「おはよう、誠君」
「あ、あの、おはようございます」
「誠君、久しぶりだね。ちょっと話があるから上がってくれないかな」
私の後ろには、いつのまにかお父さんが立っていた。
「あ、はい、失礼します」
「えっと…」
「浩美も来なさい」
いつもと違う、少し怒ったようなお父さんに、心臓がドキドキする。
リビングに入り、お母さんも席に着いた。
「まずは、お帰りなさい。無事に日本に帰ってこられてよかったね」
「はい、あ、挨拶が遅れてしまって申し訳ありませんでした」
そういえば、誠君が帰国してからお父さんたちには会っていないことを思い出した。
「浩美から大体のことは聞いている。そのうえで、だ。これから君は浩美とどうするつもりなんだい?」
「あの、えっと…」
誠君が言い淀む。
いつもと違うお父さんの様子に、見ている私がハラハラしている。
「浩美とどうする、というより、浩美をどうするつもりなのか?と聞いているんだよ。遠く離れた場所で、お互いが見えなくて、それでも浩美はずっと君のことを待ち続けていたんだ。なのに君は、女性と帰ったばかりか連絡もしなかったんだよね?」
「…はい」
「そのことで、浩美がどれほど傷ついたかわかるのか?」
「…は、はい」
膝の上に置いたお父さんの握り拳が震えているのがわかった。
「お、お父さん、もう…」
お父さんが誠君を殴ってしまうんじゃないかと思った。
「浩美は黙っていなさい」
「…」
お父さんの大きな声で、水を打ったように静かな時間が流れる。
庭の向こうからは、新年の挨拶を交わす近所の人の声や、帰省しているらしい子どもたちの声が賑やかに聞こえてきた。
「…逃げていました」
「誠君?」
「偉そうに画家になると言ってヒロを待たせたままで、何も思い通りにならなくて。自暴自棄になってヒロを裏切りました。だから、俺にはヒロを好きでいる資格はありません。だから、終わりにしないといけないと思ったのに面と向かってサヨナラを言うのが怖くて、どれほど傷つけるかが怖くて。逃げていたんです」
「それで?」
お父さんが静かに先をうながす。
「日本に帰ってから、ヒロが会いにきてくれて驚いたけど、うれしかったんです、本当に。やっぱり僕はヒロが好きなんだと思いました」
「それで、好きだから、また浩美と付き合いたいと言ってるのかい?」
「…はい」
「それを、僕が許すと思ってるのか?」
「あ、…」
「大事な娘が、日に日に元気がなくなって弱っていくのを見ている親の気持ちが君にはわかるか?浩美だってもう子どもじゃないから、自分の人生は自分で決めるべきだと思うよ。だけどね、君は浩美をとても傷つけたんだ、なのにまたその傷つけた相手が浩美に近づいている。これは親としてほっとけると思うかい?」
「そ、それは…」
_____また、誠君が離れてしまう!
そんな気がして、私は慌てた。
「待って!お父さん!これから先は私と誠君に決めさせて。まだ二人では何も決めていないの、やっと話せるようになってこれからなの、だから…」
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