決意

「申し訳ありませんでした!」


ソファから降り、お父さんの前で両手をつく誠君。

私もつられて、誠君の横に並んでお父さんの前で両手をついた。


「待ちなさい、僕は二人を責めているんじゃない。これからどうするのか決める時の覚悟を聞いているんだよ」

「…はい」

「はい」

「二人はもう大人だ。だからどんな人生になったとしても、それを受け入れる覚悟が必要だと言ってるんだよ。どうなったとしてもそれぞれの責任だ、わかるかい?」

「……」


すぐには返事ができなかった。


「もしも、誠君が浩美とまた生きていく道を選ぶとしたら、浩美を不幸にすることは決して許さない。わかるかい?」

「はい」

「浩美も、自分で選んだ生き方ならば、後悔はしてもそこで潰れたりしないことだ。なんとかして前を向いていくこと。僕たち親はいつまでも守ってあげることはできない、しっかりと生きていけるのを見届けないといつまでも安心できないんだよ」

「…はい」

「あとは、二人でしっかり話して決めなさい。その答えを受け入れるつもりだからね」

「はい、わかりました」



◇◇◇◇◇


電車に乗って、少し有名な神社に初詣に行った。

お父さんの話を聞いてから、誠君はそれについて話すことはなく、私もその話には触れていない。


参道を歩いて、本殿の前に立った。

お賽銭を投げ、柏手を打ち願いをかける。


「さ、帰ろうか」

「うん」


人混みから少し離れて歩きながら、誠君は私の右手を自分のポケットに入れてくれた。


_____あの日もそうやって私の手をあたためてくれたよね


ゆっくりした足取りに私も合わせる。

今、大好きな誠君とこうしていられることは、なんて幸せなんだろうと思う。


「ヒロ…」

「なぁに?」

「俺、やっぱりヒロが好きだ。もう絶対、離れたくない」


そう言いながら、私をぎゅっと抱きしめてくれる。


「…私も。もう何があっても離れないよ」


誠君の背中に手をまわし、強く抱きしめた。

参拝客は、遠巻きに私たちを見ているのがわかる。


「ね、誠君、ちょっと恥ずかしいんだけど」

「ん、あ、ごめん、ごめん」


慌てて抱きしめあっていた腕をほどいた。


「でも、うれしいよ」

「俺も。ヒロをまたこの手に抱きしめることができた、それだけでも日本に帰ってきた意味があるよ」

「もう、どこにも行かないで」

「わかってる、絶対離れないし離さないから」


それから、二人のこれからについて話した。


「今すぐにとは言わない。俺はまだまだヒロと生活していけるだけの経済力もない。でも、できるだけ早く、一緒になりたい」

「うん」


立ち止まり、私の正面に立つ。


「浩美さん、俺と結婚してください」

「はい、よろしくお願いします」


新しい年の初め。

神聖な境内でのプロポーズだった。


「もっと頑張って働いて、胸を張ってお父さんに挨拶に行くから、もう少し待っててくれるかな?」

「うん、私も今すぐだと家事に自信がないんだ。お母さんに色々教えてもらわないといけないし」

「こういう結論を出しましたとだけ、報告しようか」

「そうしよう、うん」


そのまま家に帰って、誠君と結婚することを報告した。

それぞれが、結婚までの準備にまだ時間が必要だけど、今度こそ二人で幸せになることを諦めないと、約束した。


「そうか…。それならばもう言うことはないよ」


それがお父さんとお母さんの答えだった。



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