少しずつ

『今日の仕事は時間かかったよ。年末が近づくとお歳暮シーズンで、配達量がめちゃくちゃ増えるんだ』

「お疲れ様。私もクリスマスカードの予約がたくさん来てて、イラストの仕上げに追われてるよ」


誠君とは、携帯のやり取りで日常の報告をしあうようになった。

他愛もないやり取りだけど、誰かと繋がっていることは嬉しいし、それが誠君だからよけいにうれしかった。


同窓会で会ってからは、お互いに仕事が忙しく会うことはなかった。

それはそれでよかったと思う。

正直言ってまだ、会話というものに自信が持てなかったから。

付き合っているわけでもないから、会っても何を話していいかわからない。

でも携帯でのやり取りならば、送信前にもう一度読み返すことができるから、落ち着いてやり取りができる。


誠君を信用していないという意味ではないのだけど、感情が高まると何かとりかえしのつかないことを言ってしまいそうだった。

それほど、ブラジルから帰国した誠君の話は私を追い詰めていた。


_____どんなことがあっても、私のことを一番に考えていて欲しかった


ブラジルで命の危険もあった誠君には、言ってはいけないセリフだとわかっていても、言いたくなってしまう。


だから、今は携帯のやり取りだけでリハビリをしているようなものだ。

私はまだ誠君のことが好きだという気持ちは、確かなものだとわかったんだけど。


『もうすぐクリスマスだね』

「そうだね、街が賑やかになってきた」

『俺は仕事で多分、遅くまで走り回ってる。なんせサンタクロースのトナカイみたいなものだから、プレゼントを届けてまわらないと!』


誠君は、ブラジルに行く前に働いていた宅配便の仕事についていた。

あの頃の働きがよかったらしく、すぐに復帰させてくれたらしい。


「そうなんだ。大人も子どももクリスマスプレゼントは楽しみだもんね」


4年前、お好み焼き屋さんのノートに書いてあったメッセージは、引き出しの奥にしまってある。


_____誠君はもう忘れてしまったのかな?


『あのさ、ヒロがもしよかったらなんだけど』

「なんのこと?」

『初詣、一緒に行かないか?俺、元旦しか休みが取れなくて。だから、せめて初詣だけでもって』


私は少し考えた。

このまま、いろんなことをなかったことにしてずるずるいくのはよくない気がする。

何か、ケジメのようなものが欲しい。

一年の始まりに、そんな話をするのもいいかもしれないと思った。


「うん、わかった。初詣行く」


そうやって少しずつ、離れてしまった誠君との距離をまた縮めていってみようと思った。


_____だってまだ、私は誠君が好き



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