ノート

今日はクリスマスイブだ。

待ちに待った、あのノートの解禁日。

すぐにでも見たかったけど、夕方まで待った。


「いらっしゃーい!待ってたよ」


お店に入るやいなやの、おじさんの声。


「あ、あの…」

「これだよね?」


おじさんは赤いリボンをかけた大学ノートを持ってきてくれた。

少し震える手で、大切に受け取る。


「ありがとうございます…」

「今日は1人かい?」

「はい…」

「何か予定は?よかったら食べていく?明日でお店を閉めるからさ、記念に」

「じゃあ…」


少し考えたけど、お腹も空いてきたから食べて行くことにした。


「メニューはお任せでもいい?」

「はい」

「じゃ、座ってて」


私はあの日、誠君と座った席に着いた。


_____誠君が残した私へのメッセージがここにある


私が好きだと告白する前に、誠君はここに何かを書いていた。


「特別に、焼いてあげるよ」

「はい」


私はノートを抱きしめたまま、手際良く焼かれていくお好み焼きを見ていた。

これももう食べ納めなんだと思うと、しっかりと味を覚えておきたいと思った。

周りのテーブルにもそれぞれ、ノートが置いてある。


_____このノートの伝説もなくなってしまうのか…


高校の廃校予定といい、ここの閉店といい、時間の流れは残酷だ。

時が経っても、何も変わらないというものはないのだろうか。


「はい、できたよ、ごゆっくり」

「ありがとうございます」


私は少しずつ口へ運んだ。

ゆっくりと、ここでの思い出を辿りながら、味を焼き付けるように。

ラジオから、クリスマスソングが流れてくる。

新幹線乗り場の映像が浮かぶ。

せめて日本なら、誠君に会いに行くのに。


最後の一口を食べて、お店を後にした。

早く帰ってノートを開きたいと思いながら、楽しみはまだとっておきたい気もしている。


家では、お母さんがクリスマスの料理を作っていた。


「おかえり、浩美、今日はお母さん、頑張ってケーキも焼いたから」

「うん、楽しみ!」


部屋へ入りストーブをつける。

机に座って、赤いリボンを外し、そっとページを開いた。

そこには、漫画ちっくな誠君と私の似顔絵とともに、メッセージがあった。


『ヒロへ。

 もしも

 サンタさんがプレゼントをくれるなら

 一つだけ、どうしても欲しいものがある

 それは

 ヒロとの未来。

 ヒロに再会してから、ヒロをどんどん

 好きになっていった。

 ブラジルを諦めようかと思うほど。

 でもきっと、それじゃあ、いつか後悔する。

 だから、待っていて欲しい。

 ヒロとの未来のために、一人前になって

 帰ってくるから。

 必ず、帰ってくるから。

          誠より』



_____あった!


時間がたっても変わらないもの、それはこの気持ちかもしれない。

お互いを思う気持ち…。


そう思わせてくれた誠君からのメッセージは、私の人生でになった。






 

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