三年間

その日のうちに、優子に手紙を書いた。

電話だとうまく話せない気がしたし、書面にすることで、なんとなく宣誓書のようなものになるんじゃないかと思った。

誠君も、同じ便箋に書いた。

同じ封筒に入れる。


「優子、どんな顔するかな?」


と誠君が言う。


「優子はいつもと…変わらない、と思う」


高校生の時の優子は、いつも私よりお姉さんだった。

私はいつも、自分のことを優子の妹みたいだなと感じてた。


「そうだね、アイツは変わらないだろうな。“そうなの?よかったね”とか言いそうだ」

「ずっと…優子みたいになりたいって思ってた…」

「ヒロが?どうして?」

「理由…さっきわかった…」

「教えて、なに?」

「誠君が、欲しかったんだ…多分…」

「そうか…」


今度は静かに、私を抱きしめてくれる。

私も誠君を抱きしめる。


_____やっと、この温もりをつかまえたのに…


明後日には遠くに行ってしまう。

行ってらっしゃいと、笑って送り出さないといけないと頭ではわかってる。

誠君の夢の第一歩なんだから、私が邪魔をしちゃいけない。


封筒に切手を貼って、誠君は立ち上がった。


「明日、また来るね。ヒロに会いに」

「うん、待ってる」




◇◇◇◇◇



12月4日。


お昼前に誠君が来た。

今日はスーツを着ていて、いつもよりかしこまっている。


「どうしたの?」

「一度、きちんとヒロのお父さんとお母さんに、挨拶をしておこうと思って。娘さんとお付き合いさせてくださいって」

「えっ!」

「明日からブラジルへ行くけど、3年以内に帰ってくる、約束する。だから、それまでヒロを待たせてしまうことになる、そのことを許してもらおうと思うんだ。俺のわがままなんだけどね」


夜になってお父さんとお母さんが揃った時、2人でこれからのことを話した。

誠君はブラジルへ行って絵の勉強をする、期間は三年間。

私はイラストの仕事を少しずつ増やして、できるだけ自立するように努力する。

3年後のことは、これからまたゆっくり考える。


ジョッキでビールを飲んでいたお父さんは、顔が赤くなっていた。


「そうか、2人でそう話し合ったのなら、僕たちは何も言うことはないよ。誠君のおかげで浩美も少しずつ社会復帰できているし」

「はい」

「ただね…ブラジルは遠いし、三年間は長い。その間に浩美の気が変わっても、僕は責任持たないからね」

「えっと…そうならないように努力します」

「父親から見ても、浩美は魅力的な女の子だからね、もっといい男があらわれてもおかしくない。まぁ、そうならないように、せいぜい頑張って!わはは」

「はい、頑張ります」


お母さんも横で笑っている。

そんなお父さんとお母さんを見ていたら、誠君とは遠く離れてしまうけど、きっと大丈夫、そんな予感がした。


それでも、2人きりになったらやっぱり、私は泣いてしまった。

ずっとずっと泣いてしまった、誠君が心配してしまうほどに。


「明日、送らなくても、いい?」 

「いいよ、家にいて、イラストでも描いていて」


抱きしめられて、また泣いた。



◇◇◇◇◇

次の日。

誠君は予定通りにブラジルへ発った。






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