優子との約束

立ち止まって、私をじっと見る誠君。

そして、繋いでない方の手で私の頭を撫でてくれた。


「もう少しだから、上まで行ってから話そうか?」

「う、うん…」


_____言ってしまった…


もしかして、誠君は困っているのだろうか。


「はぁー、やっと着いた。疲れたね、あのベンチに座ろうか」

「うん」


私の右手はまだ誠君の手と繋がったままポケットの中だ。

そのままベンチに並んで腰掛ける。


「ヒロ…」

「え?」

「さっきのことだけど…」

「うん…」


なんて言われるのだろう?

よくない返事かもしれない。


「ありがとう」

「…うん」

「正直に言うよ、俺もヒロが好きだ。きっとヒロが思ってる以上にヒロのことが好きになってしまった」

「…」

「でも…」

「…」

「俺は夢を諦めきれないんだ…どうしても画家になりたい」

「…うん」

「だから、ヒロを好きになったことは打ち明けないでブラジルに行くつもりだったんだ。打ち明けたところで、俺にはなにもできないから」

「…うん」

「ヒロから、好きだと言ってくれて嬉しかったよ、ほら、心臓がドキドキしてる、わかる?」


誠君は、私の手を自分の胸にあてた。


「ちゃんと話さなくちゃと思いながら、まだ言えてなかったけど、5日にブラジルへ発つんだ」

「知ってる…見たから」

「そうか、見つかってたか。ヒロにちゃんと言える自信がなくてあんなとこに書いちゃったんだ、バカだよね、俺。好きな気持ちも隠して行くつもりだったからさ」

「…でも…」

「ん?」

「でも、好き。私は誠君が好き、好き!」


それだけ言うと、たまらず私は誠君を抱きしめた。


「ヒロ…俺も好きだ、大好きだよ」


ぎゅっと抱きしめられて、それから…。


正面を向きあって、じっと見つめて、誠君の顔が近づいてきた。

私はそっと目を閉じて、唇が重なるのを待った。


1度目はそっと触れるだけで、それから深く甘いキスをした。

キスが甘いんだと初めて知った。

何度も何度もキスをしながら、抱きしめ合いながら…


2人で泣いていた。


だんだん夕闇が迫ってきて、体も冷え切って、涙も流れなくなるほど泣いて


「そろそろ行こうか」


先に立ち上がったのは、誠君だった。


「うん…」


帰りながら考えていた。

なんとなくずっと優子のことが気がかりだった。


_____優子はもう、誠君のことはなんとも思ってないのかな


「誠君…あのね…」

「ん?どうした?」

「優子にね…」

「うん」

「優子に…誠君のことが好きですって、報告したい」

「いいよ、じゃあ、俺からも報告しようかな?ヒロのことが大好きです。でも、約束通りちゃんとブラジルに行きますって」

「約束?してた?」

「うん、仕事を辞めて地元に帰るのは、ブラジルに行くため、そのために優子とは終わりにしたいと言ったからね」

「優子…は?」

「優子は優子で、まだまだ結婚する気もないからいいよ、って。考えてみたらなんか中途半端な終わり方だから、きちんと伝えておかないとね」

「うん」


誠君の口から優子のことをちゃんと聞けて、安心した。

告白してよかった。


帰って2人で、それぞれ、優子に手紙を書いた。

カレンダーを見て、明後日の5日には誠君は旅立つということと、その次の週は自分の誕生日だということを思い出した。


もうすぐ25才になるんだ、私。




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