第4話 星猫編  二人の天才③

「はぁーーーー」


溜息しか出ない。


私の計画、学校からの青田刈りが上手く行き、10人程度の有力冒険者が来たとする。


育成期間は必要なので、約3カ月は無収入を覚悟。ギルドの維持費や、育成期間の冒険者に支払う給料。他もろもろで4000G。そこから仕事を受け、利益を出すまでに残金で凌がねばならない。


この世界には銀行やら借金やらの概念がない。手持ちがなければ倒産となる。


8000あるから、焦りはしなかったが、こんなケースが今後ないとは限らない。


何より、リアちゃんに心配や負担をかけることが辛い。


私の足取りは重く、陽が沈みかけた道は長かった。






「おかえりなさいマスター。遅かったので心配しました」


心配を掛けたくないと思いながらも、また心配をかけてしまっていた。


「マリリン様がいらしてますよ」


え?マリリンさんが?


私は気を取り直し、マリリンさんの待つ部屋へ行く。




「こんばんわ。雪姫さん」


それリアちゃん。毎度のことに私はスルーしながら挨拶を交わす。


「例の青田刈りの件ですが、やはり高等部からの青田刈りは、周りの反対もあり、了承しかねます」


えええ!私の唯一の救いの策がぁぁぁ。


「でも、小等部からならOKですよ」


小等部は12歳以下。冒険者登録が法的にできない上、即戦力には程遠い子供たち。


「あ、あのさ、マリリンさんの立場は分かるし・・」


私の言葉をマリリンさんは止めた。




「居るんです。とんでもない子たちが」




え?居るって?12歳以下に?


「これは、あまりに強すぎるため、ゴルノバ王から極秘扱いを命じられていた案件です。世界の理が揺るぐほどの2人なんです」


マリリンさんは、2人のプロフィールが書かれた用紙を差し出した。




『ソーマ 男 10歳7か月。防御魔法 Aランク やんちゃも素直な良い子』


『ヘレン 女 10歳10か月。攻撃魔法 Bランク 大人しく真面目』


12歳以下なら凄いが、極秘扱になる要素ではない。


「どうですか?」


どうですかと言われてもね・・・


「あのさ、これ12歳以下なら凄いけど、極秘って?」


私が用紙に書かれていることを見せると、マリリンさんは声を上げた。


「あっ!それ一般公開用の方でした!持ってくる用紙、間違えました」


ドジっ子め。


「口頭で伝えます。この2人は10歳で夫婦です」


なんだとぉ!!!!22の私が彼氏すらいないというのにか?


「マスター、落ち着いてください。今はそれより大事なことが」


リアちゃんに言われ、落ち着く私はまだ息が荒かった。


「これは、この子たちの特別な関係からの結婚ですが、夫婦になることで、この2人はステータスの共有が可能になって居ます」


私は詳しい話を聞いた。




ソーマとヘレンは、魂が同一なのだ。これは前世で1人の人間だったと考えられるという。


何らかの理由で1人の魂が2人に別れ、ソーマとヘレンは別々に生を受けた。


結婚と言う一心同体となる儀式を済ませた2人は、互いのステータスを貸し合える。


結果2人の魔法は、2つの別系統の魔法を同時に使うことを可能にしていた。


「正直、えげつない魔法です。将来が怖くなります」


マリリンさんは、言葉を選ぶ人だ。そのマリリンさんに、えげつないと言わせたことから、その威力は、私の想像の上だろう。


「明日学校で、テレサさんが立ち会います。覚悟してきてください。理が壊れる所が見れちゃいますよ」


マジか?テレサも当然知っていたのだろうが、覚悟がいるほどなのか?




マリリンさんは帰ってゆく。10歳の少年少女がどれほどのものなのか?王が緘口令まで引いた子供たち。


見せてもらおうじゃないか。


「マスター、あの・・・」


リアちゃんが、恐れ恐れ口を開いた。って、マリリンさん怖がらせすぎだよ。


「あのさ、ステータスの貸し借りって聞いたこと無いけど、私のアブソリュートだって理の外だよ。マリリンさん大げさなんだよ」


が、リアちゃんの恐る恐るは違う意味だった。


「あの、怒らないで聞いてくださいます?」


怒るような案件?私のような心の広い美少女が怒るような案件?


「マリア様がいらして、あの・・お金を置いて行かれたのですが」


あ―――私が支払いの件で、落ち込んでたのを見せたからか?


「うん。実はさ、さっきチョットあってね。自分でも情けないけど、態度に出てたかな?」


思い当たる節もある。マリアが心配してくれて、自腹を切る。私はその程度に考えた。


「20万程、置いて行かれました」


アハハ20万か、20万だとぉ!!!!円で20億だぞ!


「まだあるから、必要なら持ってくるとのことですが」


なんて金持ちだ!!!




マリアとギム。ほぼギルド創設時からのメンバーだが、マリアはギア族で、動力のバッテリー代はギルド持ち。ギムに恋をする乙女は、洋服や装飾品、デート代から食費に至るまで使うところがない。


今まで支払われた給料、報奨金の類は、殆ど減ることなく手元にある。


相手のギムも酒しか口にしない。その酒代はギルド払い。マリアより服などにも無頓着。王宮兵団指南役の給金も含め丸々残り、その給金袋は、自宅の御殿の棚や引き出し、ツボの中やら廊下に放り投げてある。


マリアが集め、自分の手持ちと合わせると、およそ500万ぐらいだと言う。


円換算だと500億円。とんだ資産家たちだ。


勿論私も報酬は貰っている。が、殆どを冒険者学校の運用費に寄付し、少ない貯蓄は、この1年ギルドへ返納してスッカラカン。


ちなみにリアちゃんは意外だが浪費家だ。


残してもしょうがないと、服などを買いまくりる為、手元には残さない派。






「これってさ、受け取れないよ」


そりゃそうだ。経営状況の悪化での報酬カットならまだしも、ギルドに務めている者から、ギルドの運用費を受け取るわけにはいかない。


「いえ、受け取るべきだと思います」


ジェームス係長?


「突然申し訳ありません。良くない知らせと、悪い知らせをお持ちしました」


情報部が、何か悪い情報を手に入れたようだ。ってどっちも悪いのかよ?


「良くない知らせは、ギム様がマリア様のお留守の間に、また連撃光速剣をお使いになりました。建屋の被害額は2000Gです。悪い知らせは、建屋の中に国宝級のアイテム『魔滅の刃』があったことです。推定金額1万G。現在のギルド資産での支払いは不可能な額です」


やらかしやがった・・・。落ち込んでいた私は、技の使用禁止を伝えていない。


私のミスだ。




「すぐにギムを呼んで!マリアも!」


これ以上の被害を出さないために、私は2人を呼ぶ。

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