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 ハルカゼは俺の隣の席だ。

 教室に入って、自分の席に座ると、彼女は文庫本を読み始めた。


 ハルカゼは、読書が好きだ。


 とくに恋愛小説が好きで、可愛い女の子が表紙にいると、つい買ってしまうという。


 今日は、何の小説を読んでいるんだろう?


 俺とハルカゼは、幼稚園児の頃からずっと幼馴染なんだけど、高校生になった今、何年も前から一緒にいる割にはあまり会話をしていない。


 もちろん、俺から話しかけると、言葉を返してくれるんだけど、今は読書中だし、話しかけるのは気が引ける。


 小説もまだ読み始めみたいだし、今日は彼女と話さない一日になりそうだ、と思った。


 俺は少し寂しい思いをしながら、窓の外を見つめた。


  ◇


 やがて、今日の授業が終わって、帰宅部の俺とハルカゼは学校を出ることになった。


「帰るか、ハルカゼ」

「うん」


 高校生になったんだから、一緒に飲食店に寄ったり、買い物をしたりしたいのだけど、ハルカゼは口数が少ないから、つい迷惑なんじゃないかと考えてしまう。


 だから、高校生になってから、一度も遊びに誘えていない。


 このまま、二人の関係がうっすらと自然消滅するんじゃないかと思うと、泣きたくなる。


 しんみりした空気は嫌だし、帰っている時くらいは話しかけてもいいかと思ったので、俺は声をかけた。


「ハルカゼ、新しい小説買ったの? ずっと読書していたから」


 ハルカゼはその言葉を聞くと、耳をぴくっとさせて、少し嬉しそうにした。


「うん。気づいてたんだ。新しい本を買ったの」

「まだ、めくっているページが後ろの方じゃなかったから、わかったんだ」


 しまった、と思った。

 そんなことを気にかけているのを知られたら、恐がられてしまう。


 けれども、ハルカゼは嬉しそうだった。


「そんなところまで見ていてくれたの? ずっと話しかけてくれるの、待ってたんだよ」

「え、そうなの?」

「うん」


 これには驚いたし、正直、嬉しかった。

 ハルカゼは照れくさそうにしていた。


「今日、ずっとコウ、そわそわしていたから。わたしも何だか落ち着かなくて。だから、話しかけてほしかったんだ」

「そ、そうなんだ」

「この小説に出てくるヒロインはね? すごく引っ込み思案で、恥ずかしがり屋で、泣き虫なの。でも、そのことを誰にも知られたくなくて……。わかってくれるのは、主人公だけ。二人のやりとりがすごくかわいくて、ヒロインのことを応援したくなるの」

「へえ、まるでハルカゼみたいじゃん」


 ……俺はなんてことを言ってるんだろう。

 ジョークにしても、あまりに恥ずかしすぎる。


 緊張しながらハルカゼの反応を待っていると、彼女はにっこりと笑ってくれた。


「うん、そう言ってくれてうれしい。わたしも、この子に共感しているんだ」

「……! よかったじゃん。いい小説に出会えて」

「ふふっ」


 う、ハルカゼが楽しそうに笑っている。

 俺との会話を楽しんでくれて、今日も嫌われていないことをしっかりと確認できて、ふんわりと心が温かくなった。


――――――――

あとがき


今日も読んでくれてありがとうございます。

♡や☆での応援、ありがたく思っています。

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