3

 ――少し前の会話を思い出す。

 高校に入学後、俺とハルカゼはスマホを買った。


『特にスマホへの憧れがないんだよなー』

『わたしも。ところで、スマホでいつも、みんな何を見ているのかしら?』


 俺たちは、スマートフォンに疎すぎて、こんな会話を交わすほどである。


 親から勧められて、購入したようなものだ。


 一応、ハルカゼとは電話番号を交換しているけど、連絡を取り合ったことはほとんどない。


 俺は、風呂上がり、ベッドに腰掛けながら幼馴染のことを想った。


 今、ハルカゼは何をしているかな……?

 少し、気になる。


 こういう時のために、みんなスマホを使っているのかもしれない。


 でも、ハルカゼ、寂しいからって、俺から電話をかけられたら、迷惑だろうな。


 十分くらい考えて、『電話番号が間違っていないことを確かめるため』、という理由を考えて、幼馴染に連絡してみることにした。


『緊急事態になった時、操作に慣れていなくて、連絡できなかったら大変だから』という保険つきだ。


 ちゃんとした理由があっての行動だ。


 声が聞きたいから、という本心には、気づかれたくない。


 緊張しながら通話ボタンを押すと、ハルカゼのスマホと繋がった。


「もしもし、ハルカゼ?」

「あ、うん。びっくりした」


 ハルカゼの声からも、まさか急にはかかってはこないだろうという驚きが伝わってきた。


 俺はゆっくり深呼吸して、用意していたセリフを告げる。


「あのさ……、もし必要な時に連絡がつかなかったら、大変だと思って、かけただけ」

「そうなんだ」

「…………」

「…………」


 ダメだ、会話が続かない。

 俺が心臓を跳ねさせていると、ハルカゼがこう切り出した。


「緊急時って、たとえばどんな時?」

「え? うーん」


 ちょっと考えてから、シチュエーションを想像する。


「たとえば、夜、人がいっぱいいて、はぐれてしまった時とか?」


 しまった、と思った。お祭りの夜のことを言っている。

 これでは、君と一緒に夏祭りに行きたいと告白しているようなものだ。


 恥ずかしい。


「そうね。お祭りではぐれてしまったら、大変だものね」

「うん……」

「………」

「…………」


 俺は緊張で気を失いそうになりながらも、ハルカゼをお誘いする。


「こ、今年も行く? 夏祭り」

「えっ……」


 なんだ、この戸惑いは。

 やっぱり、高校生にもなって、恋人同士でもない男女がお祭りに行くのは、おかしいだろうか……?


 こんな質問、するんじゃなかった。


 今夜、眠れるかな……。


「…………」


 ハルカゼは、たっぷり沈黙してから、ようやく喋った。


「コウは、毎年わたしと一緒に夏祭りに行って、その、つまらなくないかな」

「え」

「わたし、お喋り得意じゃないから。男の子のお友達と遊んだ方が、楽しいんじゃないかって……」

「うう……」

「コウ……?」


 胸が熱くなってくる。

 俺は震えそうになりながらも、言葉を返す。


「ハルカゼ、高校生になってから、少し雰囲気変わった気がする。その……、隣を歩いて、お祭りの夜を楽しみたいって、強く思うよ……」

「…………ぅ」

「ハルカゼ?」


 小さなうめき声が聞こえた気がしたから、心配する。


「……大丈夫。コウも身長伸びたよね。昔はわたしよりも低かったのに」

「いつの話をしてるんだよ」

「コウは、わたしの隣を歩きたいんだよね」

「なっ」


 俺は瞠目しながらも、頷く。


「そういうことには、なるかもしれない」

「う、うれしいな。わたしも、コウの隣にずっといたい……」

「…………」

「…………」


 恥ずかしすぎる。

 俺はもう、胸が熱くて泣きそうだった。


 最後にお別れの台詞を紡ぐことにした。


「じゃ、そういうことだから。あったかくして寝ろよな」

「うん、ありがとう。コウの声が聞けて、よかった」

「…………」

「…………」

「……じゃ」

「また明日、ね。朝が楽しみ……」


 通話を切って、俺はベッドに倒れた。

 どうして、ハルカゼはこんなにも可愛いのだろう。


――――――

あとがき

お疲れ様です。今日は火曜日ですね。

僕もマイペースにお仕事に励みます。

いつも応援ありがとうございます!

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