航海第十四日目 泥酔

(平成11年9月23日〔木〕晴れ 秋分の日)

 ようやく地上に出ることができた。私は右腕とともに喜びを味わう。そして、右腕は言った。


「時が来たら再び現れ、ともに戦いましょうぞ」


 彼は光と化し、遥か彼方へと飛び去った。


 一人になった私は目を閉じ、自分と同じ波動の気を探した。“ビールへべれけ地獄”の方向に気を感じる。私は筋斗雲きんとうんを呼び、即座にその地獄へと向かった。


 そこには私の左足小指がいた。私は彼に一緒に来るように言ったが、彼は酔っていて聞く耳を持たない。

(というか、彼は左足小指なので、元来耳がない。だが、これは慣用句なのでそんなことを気にしなくて良いのだ)


 しかし、ここはどういう地獄だというのだろう。皆、一様に酔い、楽しんでいる。地獄らしく苦しんでいる人間が一人もいないではないか。

 だが、私の疑問は夜になると解き明かされた。今まで湯水のようにあったビールが一滴もなくなり、人々は禁断症状に苦しみ始めたのだ。


(十五日目につづく)

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