第23話 大魔王ゾンダイク
「では自己紹介も済んだ事だし君たち、少し私と話しをしないか?」
ゾンダイクの顔のある筈の部分にある暗黒の穴から落ち着いたバリトンボイスが響く。
「話しですって!? ふざけないで!! 大魔王であるあなたと話す事なんてこれっぽっちもあたしには無いわ!!」
ライアンが激しい形相でゾンダイクを睨みつけ声を荒げる。
『そうだとも!! 大魔王と女勇者が対峙したならばやる事は一つ、雌雄を決するのみだ!!』
「やれやれ此度の女勇者は勇ましい事だ、私としても大魔王である以上はそれもやぶさかでは無いのだけれどこの所とんと他者との接触が無くてねぇ、会話に飢えているのだよ、少しでいいんだ私に付き合い給えよ」
ゾンダイクがパチンと指を鳴らすとライアンとの間に洒落たテーブルと椅子が何もない所から突如出現した。
テーブルの上には上品な装飾のティーセットにマカロンやクッキーなどの菓子も載っている。
「立ち話も何だろう、さあティーが冷めない内にどうぞ」
「誰が大魔王の施しなんて受けるというの!?」
「疑い深いんだね、毒なんて入っていないよ?」
「そんな事を言っているんじゃないわ!!」
飄々としたゾンダイクの言動がライアンの感情を一々逆撫でしていた。
「フム、真面目なのは良い事だがそんな事では物事の本質を見失う事になるよ」
「何ですって!?」
ゾンダイクは湯気の立つティーカップを指で掴むとクイッと顔の穴へと傾ける。
「中々の香りと味わい、この茶葉は君と飲むためにわざわざ取り寄せた逸品だからね」
「………」
一向にマイペースを崩そうとしないゾンダイクに対してライアンは次第に激昂している自分が馬鹿らしくなってくる。
「……分かったわよ、戦いが始まったらどちらかが倒れるまで戦う事になるからね、少しくらい話しを聞いてあげるわ」
『おいライアン……』
あきれ顔のライアンに物言いたげな
「それはどうもありがとう」
ゾンダイクはティカップをソーサーに戻しテーブルへと置く。
「話しというのは他でもない、私と君たち勇者と
「何の事よ?」
「ライアン……君が、いや女勇者がどうしてこの世界に現れるのか知っているかい?」
「……えっと、何だっけ?」
『仕方ないなお前はオレが代りに答えてやる、それはこの世界に強大な悪意を持った存在が出現した時……女勇者はその悪しき者を討つ為にその都度世界に降臨するんだ』
「そうなの?」
『……お前と初めて会った時に説明したと思うんだが?』
「ご名答!! では次のクエスチョン、女勇者の装備である
ゾンダイクは両手を勢いよく広げ高らかに問いかける。
『……そんなん決まってんだろ、地下にある祠で深い眠りに就いてるべよ』
今度は
「またまたご名答!! 賞品をあげたい所だけれど準備していなくて済まないね!!」
クネクネとオーバーに身体を動かしおどけて見せるゾンダイク。
「ふざけないで!! 一体何が言いたい訳!?」
そろそろライアンがしびれを切らし始める。
「このクエスチョンの答えその物さ、私も君たちもこの世界に踊らされているって事……考えてみて御覧、私は君たちの目覚めの切っ掛けであり君らはそれに対して反応するだけの存在って事さ」
「なっ……」
「君らはさも使命感を持って世界の為に戦っているつもりだろうけど所詮は世界が作り出した
言われてみて初めて自覚する、ある意味女勇者と
「ハァ……ハァ……ハァ……」
ライアンの顔色が青ざめ冷や汗が全身から滲み出て呼吸が荒くなっている。
『ライアン耳を貸してはダメよ!! ゾンダイクはあなたの心を揺さぶろうとしているだけなんだから!!』
すかさず新
「果たして本当にそう言い切れるのかな? 伝説にも残っている通り期間の差こそあれ何度もその不毛な戦いがほぼ定期的に繰り返されている、おかしいと思った事はないかい?」
「………」
目の色まで淀んでいくライアン。
「ここからが私の話しの本題だ、ライアン……私と手を組まないか?」
「……えっ?」
きょとんとしながら首を傾げるライアンはゾンダイクの言った事がすぐには理解できなかった。
『馬鹿な!! そんな事が出来る訳ないだろう!! 女勇者と
「おやおやまだ言い張る……こんな堂々巡りを繰り返して楽しいのかい? 君ら装備に宿っている精神はそもそも人間だったのだろう? そんな事を延々と未来永劫続けるなんて愚の骨頂だとは思わないのかい? もっと人生を謳歌しようじゃないか」
『あなたに従うつもりは毛頭ありませんが聞かせてください、私達とあなたが手を組元は具体的にはどういう事なのです?』
『テンパランスお前……』
『勘違いしないでくださいウィズダム、敵の真意を聞いておくのも悪くは無いでしょう?』
『それはそうだが……』
不安げな
「ほほう、話が出来そうな方が一人いる様ですね、いいでしょうお答えしましょう……それはずーーーーっとこのまま決着を着けずだらだらと戦い続けるという事です」
「何ですって?」
ライアンはゾンダイクの発言に耳を疑った。
『女勇者と大魔王が戦い決着が着く……女勇者が勝てば大魔王が、大魔王が勝てば女勇者が再び現れまたしても堂々巡り……それを回避する唯一の方法が決着を着けない事なのです、そうすれば私もあなた達の今の状態のままいつまでも存在し続けられる……』
感慨深げに語るゾンダイク。
「逆に聞くけどそんな事をして何が面白いのよ? この世界に住む人々には迷惑以外の何物でもないわ!!」
「何を言ってるんです、私は大魔王ですよ? 人間をはじめ他の種族が死のうが苦しもうが知った事では無いのですよ、私は私のまま存在し続けたいだけです……あ、もしかしてご存じない? 仮にあなた方女勇者側が勝ったとして
矢継ぎ早にまくし立てるゾンダイク、その勢いに圧倒されそうになる一同。
『……確かになぁ、穴倉に閉じ込められていた
「でしょう? あなたも興味がおありで?」
『どうすっぺなぁ……』
『カリッジ!! まんまと乗せられてるんじゃない!!』
『おおっ、済まねぇ……』
『……一つ聞かせなさいよ』
『どうぞ』
ルシアンには一つ引っ掛かっていた事があった。
『四天王の事よ、私も含めてどういった理由と基準で選ばれたのか聞かせてもらえない?』
『おやおやそんな事ですか? 聞きたいのでしたら教えて差し上げますけどがっかりしないでくださいね? 理由はズバリ、特にありません』
『……理由が……ないですって?』
ルシアンは愕然とした、あんなに酷い目に遭わされながら特に理由が無いとゾンダイクは言ったのだ。
『しいて言うならどれだけ個性的か、かな? その甲斐あってバラエティーに富んでいて面白かったでしょう? 私もずっとあなた方と四天王の戦いを鑑賞していましたが中々に楽しいショーでしたよ!! 』
何度も頷きながら手を叩くゾンダイク、その様子にライアンたちの怒りがピークに達する。
「ふざけないで!! 私たちがどんな気持ちで戦ってきたと思っているの!! 色々な
『んだんだ!! おめえはとんでもねぇたくらんけだ!!』
『お話しだけは……と思いましたが聞く価値はありませんでしたね……』
『ギランデルもドグラゴンもお前に忠誠を誓っていたのに捨て駒扱いとは……無理矢理四天王にされていた身だが彼らの無念、ここで晴らす!!』
『例えお前が言うようにオレたちが世界に踊らされていたとしてもそんなのは関係ねぇ、お前が気に入らないから倒す、それだけだ』
「やれやれ交渉決裂ですか……いいでしょう戦いましょう、さっきも言いましたが私、負ける気は一切ありませんので本気で行きますよ」
両手を上に向け首を竦めて見せるゾンダイク、しかし明らかに先ほどとは雰囲気が違う、臨戦態勢に入った為か身体からは殺気が滲み出ていたのだ。
「行くよみんな!!」
『『『『おう!!』』』』
剣を構えたライアンの掛け声に対し
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