第22話 新生、正義の盾
『なぁ、ちっと質問なんだがいいけ?』
一同が葛藤に陥っている時に
『何だカリッジ?』
『オイラは馬鹿だから分かんねぇけどもよ、その玉っころに魂が一個入るとして盾と娘っ子の身体はどうなるんだぁ?』
これは実にもっともな質問だ。
仮にどちらかの魂を生命の宝玉で救ったとして各々に身体である正義の盾とルシアンの身体が破壊、若しくは死亡してしまった場合、その魂はどこに戻せばよいのだろうか。
『これは一か八かの懸けなんだが、オレ達
『そっか、ならその娘っ子の魂を使って正義の盾を修理するってこったなぁ?』
『おい、オレが敢えて言わなかった事を……』
それを聞いた途端、ライアンの態度が急変する。
「まさかウィズダム、あんたルシアンの魂を正義の盾の材料にしようって言うんじゃないでしょうね!? そんな事あたしが承知しないわよ!!」
『聞けライアン!! 言いたくは無いがルシアンの身体は間もなく死ぬ、それならば……』
「いやっ!! 聞きたくない!!」
激昂するライアンをどうにか宥めようとするする
『ええい聞き分けの無い奴だ!! これならどうだ!!』
「………!?」
ライアンが突然大人しくなりゆっくりと手を耳から放していく。
『忘れたか? オレは
「……ぐぬぬ……卑怯だぞ……」
何と
『これは驚いた、まさか前の時の様に完全には意識を失わない上に無理矢理身体の制御を取り戻そうとするとは……まあいいそのまま俺の言う事を聞け』
仕方なく
「あれ、ここは……?」
気が付くとライアンは心地よい陽光の当たる草原に立っていた。
「ある意味こっちの方が都合がいいかも知れないな、お前との会話が他の奴らに聞かれない」
「えっ? あんた誰?」
ライアンの目の前にボサボサ頭で三白眼の生意気そうな青年が立っていた。
「うん? ああこの姿か? このハンサムこそ生前のオレ様の姿だ、惚れるなよ?」
「誰があんたなんかに……って何で人の姿のウィズダムがあたしの目の前に居るのよ!!」
「お前がオレの話しを聞こうとしないからだろう!! 仕方なくお前の精神の中に入って来たんだよ!!」
「ホントしつこいわね!! 女の子に嫌われるわよ!!」
「余計なお世話だ!!」
暫くお互いの罵り合いが続く。
「ゼエゼエゼエ……いい加減に本題に入らせろ……」
「もう……分かったわよ、聞いてあげる……」
息の上がった二人はそのまま芝生の上に座り込んだ。
「
「何よ!! やっぱりそうなんじゃない!! そんな事絶対に許さないから!!」
再びライアンの怒りに火が着いた。
「だがあのままではルシアンの身体は死ぬ、そうなると間を置かずに魂も死に絶える、これはどうする事も出来ない
「……それには同意するしかないけど……でも……」
口ではこう言っているものの顔の表情は全然同意しているようには見えないライアン、
「そこでだ、その取り出したルシアンの魂を正義の盾に移すわけだが
「えっ? どういう事?」
ライアンが首を傾げる。
「正義の盾には既にジャスティスのクソガキの魂が入っているだろう? ルシアンの魂が盾の中入ればどちらかが外に出される、弾き出された魂の方が盾の修復材料になるって寸法よ」
「そんな事が!?」
「起こる、確実に……
ゴクリ……ライアンの喉が鳴る。
「ルシアンが新しい正義の盾自身になるって事だ、暫くはその状態でいてもらい身体は大魔王を倒したあとで調達して移し替えればいい」
ウィズダムの言葉にライアンの表情が明るくなる、しかしすぐに曇った顔に戻ってしまった。
「どうした?」
「ねぇそれってさ、確実じゃないよね? 主導権争いにジャスティスが勝った場合ルシアンが犠牲になる、そうだよね?」
「ああそうだ、これはある意味賭けだ、だが確率は五分五分だと思うぜ、今のジャスティスは相当魂を消耗しているしな」
「……でもルシアンが勝ってしまったらジャスティスは消滅してしまうんだよね? ウィズダムはそんな仲間が犠牲になる方法を実行してもいいの?」
「構いやしないよ、薄情なようだが今回の件で心底ジャスティスには愛想が尽きたからな、きっと他の二人も同じ気持ちだと思うぜ」
「そう、なんだ……分かったよ、現状それしかルシアンが助かる手が無いんならそうしよう」
「よく言ってくれたライアン、じゃあそろそろ戻ろうぜ」
「うん」
先に立ち上がったウィズダムが手を差し伸べライアンがその手を掴み立ち上がる。
次の瞬間、二人の姿は草原から掻き消えた。
「はっ……」
正気に戻ると二人はさっきまでいた洞窟に戻って来ていた。
ライアンは持っていた生命の宝玉に視線を落とす。
「決めた、ルシアンの魂をこの宝玉に移して正義の盾に入れるよ」
『おお、分かってくれましたかライアン!! よくぞ、よくぞ決断してくれました!!』
ライアンの言葉を聞いた
『本当にいいんだべな? 後悔しないな?』
「うん、そうしないと世界が救えないというのならね……」
勇気の剣に向けてライアンは力なく微笑む。
『よしライアン、ルシアンの胸の上に生命の宝玉を……』
「うん、ゴメンねルシアン……」
「………」
辛うじて生きているルシアンは返事すらできない状態だった。
ライアンはルシアンの胸元に宝玉を乗せた、すると宝玉は薄紅色の優しくも温かな光を放ち始める。
暫くして光は弱まったが宝玉の色は明らかに紅色が濃くなっている。
『魂が入り込んだ証拠だな……』
「ううっ……」
完全な死では無いといっても最愛の女性の亡骸を目の当たりにしてライアンの頬に一筋の涙が伝っていた。
(ここからが勝負だぞ……)
(うん……)
『早くしておくれよ……もう限界だよ……』
『分かっている』
既にルシアンの左手から外して地面に平置きにしてある正義の盾の上に生命の宝玉を乗せた。
再び光り出す宝玉。
『ああ……何て暖かいんだ……力が漲って来るよ……』
『何だか眠たくなってきたよ……』
『修復の過程でそういう感覚になるんだろうよ、そのまま少し休むと良い』
『ヘヘヘッ……ウィズダムがそんなに優しいと気味が悪いなぁ……』
そう言った切り
その代わりに盾の傷は見る見る塞がって行き完全に元の状態に戻っていた。
(……これは一体どうなっているのかしら)
(修復自体は成功したようだがな……さて……)
『さっきから何を二人でヒソヒソ話してるだか?』
「うわぁ!!」
急に
『オイオイ、そんなに驚く事なかっぺよ』
「びっくりしたーーー」
心臓が早鐘の様に激しく脈動するのを感じる。
『ジャスティス、どうです、無事ですか?』
緊張するライアンと
『う~~~ん……あれ? 身体が痛くない……あれ? 身体が動かせない……私、どうなっているの?』
正義の盾から発せられた声色は女性のものだった、しかもこの声はライアンがとても良く知る女性の声であった。
「ルシアン!! ルシアンなんだね!?」
『その声はブライアン!? どこに居るの!? あなたの声は聞こえるんだけれど姿が見えないのよ!!』
「えっ?」
ライアンは正義の盾のすぐ上に顔を見せている筈なのだがルシアンには見えていないらしい。
『きっとアレだな、正規の
「そんな!? それじゃあルシアンはこの先ずっと目が見えない状態なの!?」
『ずっとなのかしばらくすれば見えるようになるのか……現時点では何とも言えないな』
「そんな……」
絶望感がライアンを襲う。
かりそめとはいえ物が見えないのはルシアンがとても不憫に感じられた。
『あの……一体どういう事か説明してくれない?』
新ジャスティスことルシアンが不安そうに聞いてくる。
『ウィズダム、あなたは何か知っていそうですね?』
『んだぁ!! さっきからライアンと二人コソコソと話してたもんなぁ!!』
詰め寄る
さすがにもう隠し立ては出来ない。
『分かった!! 分かったよ!! 今から説明するから許してくれ!!』
結局ライアンの精神世界での会話を一部始終三人に打ち明けることになったのだ。
『ウィズダム……今日ほどあなたを恐ろしいと思ったことはありません……』
『誤解だテンパランス、オレが誰かれ構わずこんな事をすると思うのか?』
『いえ、責めているのではないですよ、この場合致し方ないかと……』
『でもよぉ、いつオイラ達も切り捨てられるか分かったもんじゃねぇなぁ……』
『だ・か・ら、この場合仕方なかったんだって』
『分かってるって、ちょっとからかっただけだぁ』
『コイツ……』
他の
『あ~~~あ、まさか私が
「落ち込まないでルシアン、この戦いが終わったら絶対に人間に戻す方法を探してあげるから!!」
『うん……』
早速ライアンの左腕にはめられた新生正義の盾。
ライアンの励ましをよそに流石のルシアンも動揺を隠しきれない。
『何はともあれこれで大魔王に戦いを挑めるようになったじゃないか、
経緯はどうあれ女勇者の元に全ての
「もう……ウィズダムったらはしゃぎ過ぎよ」
しょうがないなといった感情をライアンが抱いたその時だった。
「へぇ、そんなに凄いんだその装備、何ならこれから試してみるかい?」
突然まるで頭の中に直接声が響くような感覚に眩暈を起こしライアンの足元が覚束なくなる。
次の瞬間まるで巻物を捲るかのように周りの景色が洞窟からどこかのお城のダンスホールのような豪華絢爛な部屋へと移り変わっていた。
「やあ、よく来たね、歓迎するよ女勇者御一行様……といっても見た目は一人だけの様だけど」
部屋の中央には白いタキシードを着た体型から察するに大人の男性らしき人物が立っていた。
何故こんな表現になっているかといえばこの人物の頭部の異常性……本来頭があるはずの場所にぽっかりと空間に穴が空いているのだ。
何もない漆黒の穴。
穴の上には白いシルクハットが乗っている。
「あなた……何者!!」
気丈にもその奇妙なタキシード男を睨みつけるライアン。
「嫌だなぁそんな怖い目で睨んじゃ、折角の可愛い顔が台無しだよお嬢さん」
顔の穴がせせら笑った気がした。
「おっと失礼、自己紹介がまだだったねぇ……私の名前はゾンダイク、人は私の事を大魔王と呼ぶよ」
自ら大魔王ゾンダイクと名乗ったその人物はシルクハットを手に取るとそのまま胸に手をやり恭しくお辞儀をしたのだった。
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