第6話 扉の向こう


 状況を把握して落ち着いた俺は、手足の裾を折り曲げる。若返りの変化を確認するためにこの場で体を動かす。体は普段以上にしなやかに動き、抱えている件は全て取り除かれているようだ。


(これはいいな! よし! あとは、成るように成るだ! 見知らぬ土地での冒険か~。ちょっとワクワクしてきたな!)


 ご機嫌な俺は、軽く両腕でガッツポーズを決めて思考した。気分は、転勤で見知らぬ土地に向かう程度に軽い。


「ちょっと~。異変を調べることが重要なんだから~」


(おっと、心を読まれたか。釘を刺されたな…)


 糸目な女神は小姑のように話し、瞬間ドキッとした俺は反射的に顔を背けてその視線を受け流しながら素知らぬ振りで思考した。


「それと、こっちが落ち着いたら一度連絡するから。それまでは、あまり無茶はしないでよね!」


「大丈夫だ。安心しろ。無茶はしないよ」


 呆れた様子の女神は苦言を呈すように話した。体調がすこぶる良い俺は屈託のない笑顔で返事を戻すことができた。


「そっ、そう。それならいいけど…」


 キョトンとする女神は俺の態度が気に入らないためか言葉を詰まらせながら顔をぷいっと左側に背けて返事を戻した。そのまま何かを見つめ始める。


(何を見てるんだ?)


「あとは、あの扉を抜ければ、私の世界に行けるわよ」


 気にした俺は疑問に思考し、女神は左腕と人差し指を伸ばして道を示すようにして話した。俺は示された道に視線を移す。そこには、ここを訪れる切っ掛けになった若干の装飾が施された白色の扉が違和感を放ちながらポツリと存在していた。





「あれは、どこに繋がってるんだ?」


「街の近くの洞窟よ」


「街の近く? それだと、見つかったりはしないのか?」


「平気よ。結界が張ってあって、普通の人には分からないようにしてあるから」


 少しの因縁を覚えながらも扉を感慨深く見つめている俺は、扉の向こう側を気にして尋ねた。女神はさらりと返事を戻した。不安を覚える俺は視線を女神に移しながら他人に発見される可能性を踏まえて疑問に尋ねた。澄まし顔の女神は何も問題ないとジェスチャーしつつ返事を戻した。


「モンスターは?」


「それも平気よ。結界で入れなくしてあるし、洞窟の回りにはスライムぐらいしか居ないから」


(出た! 異世界名物!! スライムだ!!! やっぱり、あれは居るのか~)


 不安が残る俺は続けて疑問に尋ねた。女神は再び澄まし顔を見せて返事を戻し、その瞬間に興奮する俺は思わず視線を落として同時に作った両拳を強く握り締めながら心を躍らせて思考していた。


(あっ。そう言えば、デカいのとか毒を持つ凶悪な奴らもたぶん居るよな…?)


「そのスライムは、強いのか?」


「あそこのは弱いわ。それに、鈍いし動きも遅いから、気付かれたり襲われたりしても走って簡単に逃げられるわ」


(良かった~。スライムは弱いのか~。やっぱり、そっちの方が可愛いからな~。だが、襲ってくるのか~…。あそこのってのが気になるが…。今はまあいいか)


 最近のスライムは凶悪な件を思い出して不安を覚える俺は、確認のために視線を戻して尋ねた。糸目な女神はこちらの心を読んだのであろう、呆れ顔で返事を戻した。安堵する俺は腕組しながら可愛らしいスライム達を思い浮かべて二度頷き、些細なことは気にしないようにと思考した。


「それと、洞窟の中にお金と服を用意しておいたから、着替えて街に向かうといいわ」


「街には、どう行けばいいんだ?」


「ふふ~ん。街は、洞窟を出て真っ直ぐ進むと街道に出るから、その道をまた真っ直ぐ進めば着くわよ」


 左手を腰に当てる女神も、俺の些細な思考は気にしないようで淡々と話した。俺はそのまま尋ね、何故かにんまりしながら声を漏らす女神は、得意気な表情を浮かべてどこかに向かって右腕と人差し指を真っすぐ力強く二度伸ばしつつ話した。


(…。やりたかったんだろうな。そっとしておこう。それより! まずは真っ直ぐ行けばいいのか。出たとこ勝負は慣れてるし、なんとかなるだろう!)


 呆れる俺は、言葉を失いながらも察しつつ行き当たりばったりが得意というよりは好きなためにテンションを上げて思考した。気分は、過去に深夜の街を頻繁に探索していた程度に好奇心旺盛だ。


「わかった。早速、行ってみるよ」


「付いて行かなくても大丈夫?」


「ん? 向こうの世界にか?」


「扉までよ」


「それならいいよ。子供じゃあるまいし」


「そう…。それなら、頑張ってね! くれぐれも、気を付けてね!」


「ああ!」


 心を躍らせる俺は、体の向きを変えながら別れの言葉を話した。キョトンとする女神は歩き始めようとする俺に尋ね、同様にキョトンとする俺は歩きを止めて顔を戻しつつ尋ね返した。何故かむすっとする女神は少し頬を膨らませて返事を戻した。呆れる俺はジト目で返事を戻し、物足りなさそうな女神は迷うように呟いたあとに両腕でガッツポーズを見せて鼓舞するように話した。喜ぶ俺は笑顔を見せて顔を扉に向き直しながら左手を軽く上げつつ力強く返事を戻した。そのまま扉に向けて歩き始める。


「いってらっしゃ~い! 本当に、気を付けてね~!」


 扉を見つめながら決意を固めて歩く俺は、背後の離れた場所からの女神の声援を耳にした。思わず後ろ髪を引かれる俺は、再び左手を軽く上げて振り返らずに背中で応えた。こうして、俺は女神の下を去ることになった。



 ◇



 俺は扉の前に到着する。


「こんなデザインになってたのか…」


 関心する俺は、デザインを楽しみながら呟いた。扉は所謂框戸と呼ばれるタイプで、表面のデザインは斜めにクロスしている。


「見ないデザインだが、カッコいいな!」


 物珍しさを覚える俺は、扉に近付いてデザインに振れながら称賛の声を上げた。


「そう言えばこの扉、支えがないな…?」


 違和感を覚える俺は、今更と思いながらもそのことに気付いて疑問に呟いた。後方に下がりつつ扉の枠を見回す。扉の枠は地面から直立し、付近は何も存在しない。


「どうしても………、気になるよな…」


 違和感の中から好奇心が溢れ出し始める俺は、腕組しながら人差し指を数回立てつつ悪事ではないと理解しながらも罪悪感を覚えて呟いた。


「見ても…、いいよな………?」


 好奇心に支配され始める俺は、罪悪感とベタさを覚えながらもそれらを肯定しつつ遠慮勝ちに呟いた。右前方に進み、扉の向こう側を覗き見る。


「何もないな。それに、どこでもドアと一緒か…」


 ある意味予想通りと心のどこかで安堵する俺は、ドラえもんを思い出しながら呟いた。扉の向こう側は手前側と同様に何も存在せず、扉の裏側のデザインも表側と同様だ。体の向きを変えて扉の表側の正面に移動しようとする。視界に離れた場所の女神の様子が映る。何やら動いている女神は、どこからともなく白いテーブルセットとティーセット出現させる。所帯じみたように椅子に座り、楽し気にティーカップに何かを注いでそれを啜るようにして飲み始める。


「やっぱり…、振り返るもんじゃないな…」


 気付かなければ良かったと後悔する俺は、女神の様子を摩訶不思議に見つめながらも残念な思いで弱々しく呟いた。改めて扉の表側の正面に移動する。一呼吸し、再び扉に注目し始める。


「ここで立ち止まってても、何も始まらないからな…。よし! それじゃあ、開けるか!」


 怪しむ俺は、扉の向こう側に進むことが今の目的だと気持ちを切り替えて声を上げた。若干汗ばむ右手で丸いドアノブを握る。


「この先に、どんな景色があるのか!? 子供の頃に入った近所の防空壕のようなものか、鍾乳洞みたいな感じなのか!? 楽しみだ!」


 童心のように心を躍らせる俺は、それらの景色を思い浮かべながら鼓舞するように声を上げた。夢と希望を抱いてドアノブを右側に捻る。


『カチャ』


 小さな開錠音が静寂の神界に鳴り響いた。俺はドアノブをゆっくり手前に引き始める。扉の枠の中を凝視しながら完全に引き開く。


「まっ!?」


 頭の中が真っ白になる俺は、思わず体を仰け反らせて声を上げていた。


「真っ白かよ!」


 景色と頭の中が真っ白な俺は、続けてそのまま思わず声を上げていた。扉の枠の中は、周囲と同様な真っ白で壁のようだ。


「てっきり、向こう側の景色が見えるか、黒か紫色で先が見えないかのどちらかだと思ってたが…」


 全く想像していない扉の状態に戸惑う俺は、思わず眉間に皺を寄せながら呟いていた。


「なんとも入り辛いが、害は無いと思うし…。まあ…、入るしかないか…」


 引き続き戸惑う俺は、顔をしかめながらも渋々に判断しつつ呟いた。右足を地面から浮かせる。恐る恐る、白い壁の中につま先を刺し入れる。


「くっ!?」


 怯える俺は、瞬間に電流のようなものが体内を駆け抜けて思わず痺れながら痛みの声を上げていた。


「ええい! 異世界に行くんだ。これぐらいは、覚悟の上だ!」


 恐れる俺は、その感情と痛みを跳ね除けるように声を上げた。そのまま扉の向こう側に存在するのであろう洞窟内の地面に足を踏み降ろす。体の痺れと痛みは続かず、不安定な右足は地面と思われる地点に着地する。そのまま勇気を振り絞り、体も白い壁の中に潜り込ませる。


「まっ………、また真っ白かよ! どんだけ続くんだ!?」


 再び頭の中が真っ白になり掛ける俺は、それを阻止するように声を上げた。


「真っ白な床、真っ白な空、真っ白な扉、続けて開けた先の真っ白に、女神の真っ白なドレス。真っ白真っ白真っ白真っ白真っ白って、女神はいったいどんなセンスをしてるんだ!?」




 思わず苛立つ俺は、神界に訪れてからの景色に驚きと呆れた感情を抱いていたために思わず真っ白に対してツッコミを入れるように手を伸ばして叫んでいた。



 この狭間に訪れてからの景色に驚きと呆れた感情を抱いていた俺は、思わず真っ白に対して手を伸ばしながらツッコミを入れるように叫んでいた。



「はあスッキリした~。さて、ここはさっきの場所より真っ白だな。地平線すら無いが…」


 ツッコミで心を開放させた俺は、周囲を見渡しながら呟いた。景色と同様に再び頭の中が真っ白になる。


 ツッコミを入れて心を開放させた俺は、呟きながら景色と同様に頭の中が再び真っ白になった。


「ん?」


 次の瞬間、呆けている俺は変化に気付い思わず疑問の声を漏らしていた。疑問は、真っ白な景色が波打つように揺らぎ始めたことだ。揺らぎは、バームクーヘンの層のように成り始める。


 次の瞬間、変化に気付いた俺は思わず疑問の声を漏らしていた。疑問は、真っ白な景色が波打つように揺らぎ始め、その揺らぎの隙間から色が漏れ出してバームクーヘンの層のように成り始めているためだ。



「め…、目が回りそうだ…」


 立ち眩みのように体調を悪す俺は、思わずよろけて呟いていた。慌てる俺は、軽く腰を落として下半身を安定させる。右手で両のこめかみを抑え込みながら視界を遮る。揺らぐ景色は、やがて全体を巻き込みながら渦を巻き始める。天地の区別がつかなくなる次の瞬間、渦の中心から揺らぐ景色が弾けるようにして砕け散る。


「お、おっ、おおっ! 洞窟が、現れたぞーーー!」


 先程の体調の件を忘れて感動する俺は、思わず満面の笑みを浮かべながら両腕を力いっぱい上に伸ばして叫び声を上げていた。



 先程の体調の件を忘れて感動する俺は、思わず満面の笑みを浮かべてガッツポーズを作りながら力いっぱいに叫び声を上げていた。



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