第42話 追跡
アダマンタイトで造った箱からカリカリと音がしている。
「巡回中の兵士が気がついたのです」
「そう、良い仕事をしたね」
「はっ、ありがとう御座います」
「リック、どうする?」
「う〜ん、よく観てみたいな」
ガラスケースに強化魔法をかけ、触りたくないのでスキルの念動力もどきで空中に浮かせ指をガラスケースに移す。
「ひぇ~!」
俺のスキルを知らないミリカが悲鳴を上げた。
「大丈夫、リックのスキルよ」
「びっくりです」
「ホ、ホント」
直ぐに指は芋虫の様に伸び縮の動作をして端に辿りつきカリカリとガラスの壁をかきだした。
「何処かに行こうとしているのは間違いなさそうだ」
ガラスケースを90度回転させる。すると指は回転する前の位置に移動して壁をかきだした。
「どうやら指先の方向に行きたい所が在るようだ」
「何処なのでしょう?」
「案内してもらおうか」
「どうやって?」
ーーーー
「僕一人でよかったのだけど」
「そうは行きません。リック様お一人にすると心配でなりません」
「「そうよ、そうよ」」
相変わらず信用がないな。仕方ないけど。
「皆が来てよかったのかい?誰か国に残ってた方がいいのでは」
「なに言ってんの。今、ジョウモ王国に手を出す奴なんてアホよ。リックを敵に回そうなんて奴、いるわけないでしょう」
「それより指が東の方に行ってカリカリしてますよ」
「あっ、ホントだ」
俺はヤクトビートルの進行方向を指の向いている東に向きを変える。ガラスケースは回転するテーブルの上にっているので中の指は東を向いたままで、まっすぐ正面を見た形になる。
指が行きたい方向を向くと解った時、俺は指南車を思い出した。仙人の人形が常に南を指すというカラクリ人形の様な物だ。原理は違い、こっちは単純だ。指が指す方向を向くようにすれば良い。
「何処に行く気ですかね?」
「大本命はピラミッドだろうね」
「ああ、そうか」
道ではなく空を飛んでいるので、一度方向が決まれば一直線だ。
「ピラミッドと言えば、森とダンジョンの攻略はどの程度進んでいるのでしょう?」
「そんなに進んでないと思うよ」
「でしょうね」
「ねえリック、一気にピラミッドを攻略しちゃったら?」
「う〜ん、……そうだねぇ……この指の出方次第かな」
ーー
「方向も定まったようだし今日はこの辺りで休むとしょうか」
「了解です」
「下に小さな森があるわ」
「少し切り開いてバーベキューでもやろうよ」
「サキも好きだな。そう言えばミノタウロスの肉も手に入ったし丁度良いか」
「はい決まり!」
降り立った所にちょっとした広場を造ってテーブルとサキが作ったバーベキューコンロを設置する。
ミリカとセフィーヌが野菜とミノタウロスの肉やコカトリスの肉を焼き始めると直ぐに香ばしい匂いが立ち込める
邪龍のフリーズからもらった龍酒ドラゴンウイドウをテーブルに置いて準備万端。野菜は焼けて、肉が焼けるのを待つだけだ。
こうして楽しいバーベキューが始まったのだが……。
「リック様」
「解ってる」
「囲まれちゃったわね」
「バーベキューが台無しじゃない。許せん」
腹を立てたサキが森の中を観て前に出た。
「なに、こいつら」
現れた魔物は、普通ではない合体したキマイラ型の魔物だった。
「どうして?あの森から出てきてるの」
「全体に結界を張って、見張っている訳じゃないからな。警備の目をくぐって出て来る奴もいるって事さ」
「リック様、落ち着いている場合では有りませんよ」
「そうよ、このまま増えて行ったら大変だわ」
「やれやれ。これは急がないと駄目かな」
「取り合えず、こいつらを始末する」
バーベキューを邪魔されてイラッとしているサキは中腰になって踏ん張り、剣をバントするかの様に横に構えた。次の瞬間、サキの構えた剣の少し後にオークの顔で四足、おそらくフォレストウルフの物だろう合体魔物が現れた。
「なに、なに、いきなり」
ミリカが叫ぶと同時にオーク顔の首がポロリと落ちた。
「ふぇ?」
サキはそれには目もくれず、態勢はそのままで左にサイドステップする。するとまた一頭の合体魔物が現れた。こんどはゴブリン顔だが、サキがサイドステップをするとこいつも首が地に落ちた。
「ありゃま」
サキがサイドステップをしたのは20回、首を落とされた合体魔物の死体が綺麗に横一列に並んでいる。
「どうなっているの?」
「サキさんのユニークスキルですね」
「……あ〜、そうか。対象物転移!転移した所に剣の刃が待ってるなんて洒落にならないわね」
「サキ、お疲れ。ミノタウロスの肉も丁度焼けたし食べよう」
「うん」
ーーーー
上質の龍酒のお陰でグッスリ寝れた。
「おはよう」
「おはよう御座います」
皆、昨日のバーベキューは満足したのだろう。機嫌が良い。朝は軽めの食事をして直ぐに出発する。
「やはりリック様の言う通り、ピラミッドに向かっているようですね。もう直ぐ着きます」
「やっぱりか」
「面倒だな」
「リック、殺っちゃう?」
「仕方ないか」
『ほほう、中々のエネルギーの持主だな』
「誰だ!」
『この世界に無理やり連れて来られた者だ』
「そ、それではあの森のモノリス、いやオベリスクというべきか、そこの主ですね?」
『さよう。静かに眠っている私を起こしおって。だが悪くはない、この世界の者達のエネルギーは美味である』
「宝物を身に着けている者を食べたのですか?」
『私の供物を持ち出したのが悪いのだ』
「この世界の者を食べるのは止めて頂けませんか?」
『そうはいかん。とても美味だからな』
くそっ、知性は有りそうだ。何とか説得出来ないか。
「ですが、何も考えずこのまま行けば直ぐに食べ尽くして、この世界の者は絶滅してしまいます」
『ふむ、それは少し残念であるな。この世界の者の数と、どのぐらいの期間で新しく誕生するのだ?』
「およそ8千万人、十月十日です」
『そうか……では毎月2000人ずつ私の前に連れて参れ。出来ぬのなら気の向くまま喰らい、滅亡する時には力も戻っているだろうから、他の世界に行く方法でも考えるとしよう』
「……そうですか。流石に他の国の者と話が必要です。ひと月の猶予を下さい、お願い致します」
『よかろう精々子作りに励むが良い』
「リック様」
「一旦ジョウモに戻る」
「リック、やっつけよう」
「駄目だ!奴は別の世界で神に等しい存在だったに違いない。俺達では無理だ」
「そんな……」
「どうするのです?」
「考えるさ」
とは言った物のどうすれば良い?エネルギーを喰う怪物…………そうだ、この方法なら。ダメでも時間稼ぎにはなるか?
「予定変更、テレストラ王国に行く」
「リック、何か思いついたのね?」
「さすがリック様」
「上手く行くかは判んないけどね」
今はこれに賭けるしかない。
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