第32話 皇帝の顔は腹が立つ

 ドワーフの国にダンジョンコアを届けて、一旦ジョウモ王国に戻る。


「お帰りなさいリック様」

「何か有った?」


「何事も有りませんでした」

「そうか」



農地の開発も進み、食料の自給率も2倍になった。サキの考えた、迷路城塞も完璧だ。化粧水の利益とミスリルを適度に売って、収益も問題ない。


ミスリル鉱山のお陰で、失業者もいない。


俺って良い国王だよな。


「なにニヤニヤしてるのよ」

「この前に抱いた、女の事でも考えてるの」


「リック様、今日は私の番ですよ」


「うむ、分かっておる」

「ぷっ、何よそれ。似合ってないわよ」


「僕も国王らしい事が出来てるかな?と思ってさ」


「リック様は立派な国王ですよ」

「そうよ」 「大丈夫よ」


「ありがとう。今日はゆっくりして、帝国に行くのは明日にしよう」







「リック、何か良い方法でも、思いついた?」

「いや、真実を話すだけさ」


「そうですね」


ーー


「皇帝陛下。エルフ、ドワーフ、ラダステリィ三国の親書を持って使者が来ております」


「何だと!この私に三国で喧嘩を売る気か。よかろう、通せ」


「はっ」



「貴様か、三国の使者と言うのは?」


「はい、リックと申します。どうかこの親書をお読み下さい」


「ゲンツ、持って参れ」

「はっ」




「ふん、戯けた事を。陸地が全て海に沈むだと、この城の下にダンジョンが在るだとバカを申せ」


「全て、本当の事で御座います。どうか、ご協力を」


「断る!どうしてもやりたくば、この国を滅ぼしてからすれば良いであろう」


ーー

俺の腹は煮えくり返っていた。皇帝が、聞き分けないからではない(少しは有る)。


俺に責任を擦り付けた、上司に顔がそっくりなのだ。

潰す、この国は潰してやる。


「リック、凄い怖い顔してるわよ」

「本当にゃ、血管が浮き出てピクピクしてるわ」


「リック様、どうするのです?」

「やるしかないだろう」


ーー


「…………解りました。ジョウモ王国、国王リック・オトナシはヴァナ帝国に対しここに、宣戦布告を致します」


「ジョウモ王国だと?そんな国、聞いた事など無いわ」



「西の端の小さな国ですよ。開戦は今から10日後と言うことで、宜しいでしょうか?」


「よかろう、せいぜい足掻くが良い」





ーーーー


(ジョウモ王国について判ったか?)


(はい、最近発見された、西に在る小さな国だそうです)


(それならば、直ぐに決着がつくな。ついでに周りの国も頂くか)


(それが商人の話では、大変裕福な国で立派な城塞が有るそうです)


(ふん、そんな物は、我が国の魔法部隊と戦車部隊で粉微塵だわい)


(確かにそうですな)


皇帝の奴、威勢がいいな。



「リック様の事です、間違いは無いと思いますが……」


「アレツ、心配無いよ。帝国軍が、ここまで来ることは絶対に無いよ」


「その言葉を聞いて安心を致しました」


「ずいぶん余裕ね、準備しなくて良いの?」

「もう準備は終わってるよ」


「そうなんですね」

「いつやったのよ?」



「リック様、キョウゴク様より、通信が入っております」


「分かった。もしもし……」


(なんか、面白い事になっているな。帝国と一戦交えるんだって?)


「笑い事じゃ無いんですよ、本当は」


ーー


(ふ~む、そんな事が有るのか。海に沈むのは困るな、お主に頑張ってもらわねば。同盟国なんだ、何でも協力するぞ)


「それでは、お願いしようかな。帝国が周りの国に悪さしないか、見張っててもらえますか?」


(お安い御用さ、じゃあな)


これでよし。後は、日にちが過ぎるのを待つだけだ。


1日も有れば帝国には着くので、9日目の朝に出発した。



「変ですね。帝国の軍隊の姿が、ぜんぜん見えませんね」


「大軍で攻めて来ると思ったのに」


「リック、今度は何をやったの?白状なさい」


「ちょっと食事に細工をね」

「まさか毒を盛ったの」


「失礼だな、そんな卑劣な真似をするわけ無いだろう」


同じような物かもしれないけどね。


「そうよね」


「これからどうするわけ」

「正面から堂々と入るさ」



「誰もいないわよ」


城に入って広間に出ても誰もいない。


「皇帝陛下の部屋に行くか」

「大丈夫なの?」


「平気さ」


警護もいない皇帝の部屋に入ると、ベッドで唸っている皇帝と看病している一般市民の治療師がいた。


「やあ、皇帝陛下」

「くっ、貴様か」


「体調管理も武人の勤めじゃ無いの?」

「そんな事……ぐらい解っておるわ」


「このまま、この城を占拠で良いね」

「うう、病気にさえ……なっていなければ」


「失礼だな。病気でなければ、僕に勝てたとでも」


「わ、私ではない。デンタクルだ」


デンタクル?ああ、あの将軍か。


「では完治したデンタクルと僕の一対一の勝負で、デンタクルが勝てば帝国の勝ち。僕が勝てばジョウモ王国の勝ち。でどう?」


「是非も無い。それで良い」


「僕が勝ったら、けじめとして陛下には死んでもらう。一族は全て幽閉する。良いね」


「それで構わん」


「ねえ君、デンタクルはどこ?」

「は、はい、下の大部屋です」




「リック、大丈夫なの?相手は、あの将軍でしょ」


「問題ないさ。強いと言っても、バンタムさんや邪龍には、遠く及ばない。何か有っても対応出来る」


大部屋の扉を開けると、ベッドで寝込む兵士と治療師で溢れていた。



「これって、あの時と同じ?」

「僕の基本はインセクト、虫使いだよ」



本当はあの時、腹が立ったので城をぶっ壊そうと思ったが、冷静に考えたのだ。



後々の為に、奴らにも大義名分が必要だ。少しずるいが寄生虫を仕込んでおいた。対象は貴族と兵士に限る、一般には手を出さないと指示をした。


寄生虫、サナダラも知能は高いのだ。



「あ、いたいた。ここよ」


デンタクル将軍のサナダラを、身体の外に出す。


「治療師さん、ヒールをかければ治りますので、彼にお願いします」


「あ、はい」


「どう?気分は」

「お前は何だ?」


「皇帝との話し合いにより、貴方との一騎打ちで、この戦争の勝敗を決する事になった」


「あい判った」

「では、闘技場で」


ーー


「勝負の方法は?」


「何でも有り。自分の出来る事は全て良し。武器も魔法も使いたい放題だ」


「ふん、随分と余裕が有るな。分かった」



よろよろの皇帝が席につき、雌雄を決する戦いが始まった。


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