第28話 邪龍、舎弟となる

 満月当日の朝に山頂に着いたので、夜まで俺のアイテムBOXの中で過ごす事にした。みんなの時間も、動けるよう流れる様にする。生活用品は揃えてあるので快適だ。しかも周りからは見えないので安全だしね。


アイテムBOXに関しては、時間経過について試したい事がたくさん有るが、思うように進んでいない。特に、時間を戻すのが難しい。


「何よここ?」


「ある程度の時間管理が出来る、時空間みたいな所。サキは1度入った事が有る」


「え~、知らないわよ」

「そうだね、時間止めてたし。城を出る時だよ」


「あ~、いきなりダンジョンだったやつか」


「何で城を出る事になったのよ?」

「兄弟の取り巻き連中に、殺されたのよ」


「生きてるわよ」

「戻るのが嫌だから、死んだ事にしたのさ」


「そうだったのですね」



昔話をしながら、セフィーヌの作ったお菓子を食べていると、月が出た。


「綺麗な満月ですね」

「何処に入口が出来るのかしら?」


「あれは?」


小さなオレンジ色の光が、だんだん大きくなりトンネルが出来て、中からリザードマンの兵士が出てきた来た。


「満月の夜は面倒だな」

「ああ、見張りも楽じゃ無い」


「ん?何だ貴様ら」


「痛い目に遭いたくなければ、邪龍の所へ案内して貰おうか」


「何だと!」



ーー


「た、大変です、人族が攻めて来ました」


「何だと、生意気な。で、どれ程の大軍だ?」

「それが4人なのです」


「バカ者、4人相手に何を慌てているのだ」


「しかし、べらぼうに強く、ドゥドッデッケン様に会わせろと」


「ほう、面白い。連れて参れ」

「はっ」




「お前か。ふん、まだ子供ではないか。何の用だ、小僧?」


「聖なる羽衣を返して貰おうか」


「そう言われて、大人しく返すと思うか?生きたまま蝋人形にして、部屋のすみにでも飾ってくれる」


邪龍は俺達に向かってブレスを吐いた。


俺以外の3人を、アイテムBOXに入れる。俺は、ブレスをまともに受けてしまったが、生きたままと言っていたので、麻痺か毒のブレスだろう。石化だとちょっとヤバイか。


「ふん、たわいもない。ん、数が合わんな?」



動ける、やはり麻痺、毒の類いの様だ。


俺はバーバリアン蟻2mmサイズを、邪龍にバレない様に、しこたま物陰に出しておく。


「今のは何のブレスです?」


「うぬ。小僧、なぜ動ける?」

「今の内に返せば殺さないけど」


「ふん、舐めていたわ。よかろう、切り刻んでくれる」


邪龍は人型になり、剣を構えた。様になっている、バンタムさんと同じくらい強そうだ。不味い。


[ヒュン]と唸って、剣が俺の首をはねに来た。初手は躱せたが、次の剣筋が読めず俺の右腕は剣を握ったまま床に転がった。


「痛ぅ」


「首が飛ばぬとは、小僧やるではないか」

「誉めてくれてどうも」


直ぐに俺の腕の再生が始まる。もったいないのと時間短縮を考えて、落ちた腕を拾って、くっ付けてみる。つくかな?


「うん、大丈夫」

「なっ、馬鹿な、小僧、何でそんな事が、何者だ」


「悪い。俺もあんたの事を、舐めてた。動くなバインド


「くっ」


「大人しくしてね、じゃ無いと口も利けなくするよ」


俺が[パチン!]と指を鳴らすと、バーバリアン蟻が現れ、邪龍の身体全体を這い回る。


「い、いつの間にこんな物を」


「聖なる羽衣は?返さないと、穴と言う穴からそいつが入り内臓を喰い尽くすよ」


「わ、分かった。返す、その代わり殺さないでくれ」


「う~ん、また悪さするでしょ。あんた女性からの評判が悪いよ」


「ぐぅ、俺は、女と仲良くしたいだけなのに、誰も相手にしてくれないから」


なんか可哀相かも。けっこう男前だと思うが、やっぱり、性格か?


「では、こう言うのはどうだ。契約をして、俺が小僧のしもべになると言うのは?」


まぁ、それで良いか。


「仕方ない、それで手を打つか」

「ありがたい。お名前は?」


「リックだ」

「ではリック様、俺に新しい名をお付け下さい」


何にするかな?氷魔法が得意なら。


「フリーズでどう?俺の国で、凍結するって言う意味」


「凍結ですか、氷魔法の得意な俺にピッタリだ。ありがとう御座います」



さて、みんなを出すか。


「あれ?」

「どうなったわけ?」

「その御方は?」


「え~と、今度、僕の舎弟になった、邪龍のフリーズ君」


「はぁ?」 「ふぇ?」 「まあ」


「心を入れ替えた、フリーズです。宜しく」


「じゃ、聖なる羽衣を」

「はい、ここに」


「これで良し」

「俺はどうすれば?」


「ここでリザードマンと今まで通り、生活してて良いよ」


「ありがたい。何か有れば何なりと」


月と大地のはざまで、通信が出来るか判らないが、連絡用の虫、テレブスを置いていく。


「ちゃんとしてたら、女の子を紹介してあげるからね」


「真ですか?リック様」

「ああ、本当だよ」


「うう、もっと早くリック様と会いたかった」




オレンジ色の門をくぐって外へ出る。直ぐにエルフの国ヘ出発だ。



「邪龍とあんな約束して大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。腕も立つし、良い奴だと思うぞ」


「女の見る目と男の見る目は、違いますからね」




城に戻り神官のミリーフさんに、聖なる羽衣を渡した。


「ああ、本当にありがとう御座います」


「リック様、この御恩は生涯、忘れる事は無いでしょう」


「勇者様、邪龍はどうなりました?」

「改心したので、僕の舎弟にしました」


「舎弟ですか?」


「え~と、しもべになったので、もう悪さはしないと思います」


「そうですか。バカな奴と思っても、同じ龍種ですので気になって」


「そんな悪い奴では、無さそうでしたので」


「勇者様が、広いお心の方で邪龍も良かったですね。私もこの御恩は生涯忘れません。何か有りましたら、お話し下さい」


「分かりました」



その夜は盛大な宴を開いてもらい、エルフの国の珍味を満喫し、面白そうな魔道具をたくさん頂戴して、我が国ジョウモ王国に帰った。


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