第22話 魔女をスカウト

 森の中を進むと、直ぐに煉瓦作りの家が見つかった。


「どんな方でしょうか?」

「魔女って言うから、お婆さんじゃないの」


ドアをノックする。


「すみません。宜しいですか?」

「開いているよ、勝手に入って来なさい」


うぷっ、酒臭い。これは俺以上だ。


「リック様、凄い匂いです。キース大丈夫?酔わない」


「平気です」


「なんの用なの?」


なんだ、良い女じゃないか。年は25、6って所か。


「魔法協会を何で追放されたのです?」


「嫌な事を、ズバッと聞いてくるわね。誰よあんた、まぁ、いいわ。酒を持ってる?」


「どうぞ」


ドワーフの酒、"オーガ殺し"を出す。


「あら、いいの持ってるわね」

「で、理由は」


「協会の奴らは、事の重大さが解って無いのよ」

「勇者召喚をすると、何か不味い事でも?」


「その事は、知っているのね。では、魔力はどうやって出来るか知ってる?」


「魔素を各人が、持てる分を取り込んで作られる」


「その魔力を使うと、どうなる。何が残る?」


この女、何が言いたい?ただの質問ではなさそうだな。


悪いイメージだと有害物質とか、燃えカスとか。


「魔力のカスですかね?」


「ふ~ん、貴様は何者だ。魔法属性も無く、有るのはインセクトと言う訳の解らないユニークスキルだけ、しかもリリアナ様の加護持ちとは、どう言う事だ」


凄いプレッシャーだ。しかも魔法使いとして優秀らしい、俺の全てを判ってる。


「僕は、この2人の魔法の先生を捜しに来た、ただの商人ですよ」


「ふん、戯れ言を」


「本当です。これを見て下さい」


化粧品のセットを出す。


「それって、噂の化粧品じゃないの」


効き目が有りそうだ。酒を毎日、こんなに匂うまで飲んでいれば、肌も荒れるだろう。


「お聞きしたいのですが、この国に未練は?」

「無いわね。呆れとガッカリ感しかないわよ」


「僕は、自分の国に魔法学校を建てるつもりですが、そこで学長先生をやってくれませんか?給料は、魔法協会の時の倍、高級化粧品を使いたい放題。どうです?」


「ほ、本当かい?」


「もちろん。但し、秘密がありまして、それは他では言ってほしく無いのです」


「解った、神の契約書で契約しても構わないわ」

「交渉成立と言うことで、宜しいですね」


「ええ、良いわ」


これはラッキーだ。凄い人が来てくれる。


「セフィーヌ、と言う事で、国に魔法学校を建てるのでジェルロームに家は必要無くなった」


「う~ん、よく解りませんが、そう言う事ですね」


「じゃ、今から国に帰りますので外へ出て下さい。夕食は空で」


「えっ、何よ今から行くの。明日で良いじゃない。空って何よ」



「先生、外に出れば解りますよ」

「そうなの?」


ヤクトビートルにはキャンピングカーみたいな感じの部屋を取り付けて見た、これが結構な評判だ。


「な、何よこれ」


「さあ、乗って下さい。是非、話の続きを聞かせて下さい」


「え、ええ」


夕食を食べながら、落ち着いた所で話の続きが始まった。



「つまり、魔力を使用した後、魔力でも魔素でも無い物が発生して残ると」


「そうよ、魔法は魔力を詠唱や魔法陣による術式で変化させて起こす現象よ。今の技術では、効率良く魔力を使って魔法を造ってない。だから貴方の言う通り、カス見たいな物が残るの」


「そのカスが問題だと?」


「いいえ、それは時間が経てば、また魔素に戻るわ。だけど勇者の召喚魔法みたいな特別な魔法は、直ぐに魔素に戻らず長い間、残り続ける。それが問題なのよ。残念だけど、それでどうなるかは、もう研究室も使え無いし、私には判らないの」


公害みたいな物か。


「テレストラ王国の勇者召喚も、よくないって事ですね」


「そうね」

「でも、それだけで追放に?」


「頭の固い魔法協会の爺どもに腹が立って、ボロクソに言って、禿げた頭をペチペチしてやったのよ」


なんかサキに似ているな。馬が合うかもしれない。


「このコジュケイ鳥のロースト、美味しいわね」


料理長の直伝だもの。料理長、元気にしてるかな?


「やっぱり気になる。貴方は何者よ、こんな大きな虫の魔物は見た事が無いわ」


「国に着けば解りますよ」




ジョウモ王国に着くと、直ぐにサキとミリカがやって来た。


「お帰り、リック。早かったじゃない」

「ただいま、サキ。ちょっと予定が変わってね」


「その女性はどなた?まさかリック」


「ミリカ、違います。この人は、この国に出来る魔法学校の学長になる、プリメイラ先生です」


「「魔法学校?」」


「そう。今度、魔法学校を建てるからジェルロームには行かなくなった」


「「え~、楽しみにしてたのに」」


「プリメイラ先生。学校が出来るまで、セフィーヌとキースの家庭教師をお願いします。後、研究室も造りますから、必要な物が有れば言って下さい」


「本当、後で一覧表を渡すわ」


プリメイラ達を見送った後、次を考える。軍事の方も見なくてはいけないな。



「サキとミリカには、騎士と兵士達を見て欲しいんだ。騎士団長と将軍は、なかなかの人物だからね」



「分かった」「分かりました」


「じゃ、会いに行こう」

「「OK」」



訓練場に行くと、ダンテス騎士団長とセキバ将軍が、稽古をしていた。俺達に気付き、こちらにやって来た。


「陛下、この様な所にお越し下さるとは」


「これから先、何が起こるか判ら無いからね。みんなの事を知りたくてさ」


「それでしたら、失礼を承知で申し上げます。一度、私くしめと、手合わせをお願い致します」


要は、俺がどれ程の者か知りたい、って事ね。


「分かりました。将軍、お願いします」


自分には、身体能力向上の補助魔法を全てかける。しかし、相手には身体能力ダウンの魔法はかけない。


その代わり、知覚、認識以下、つまり潜在意識に影響する精神魔法をかける。いわゆるサブリミナルコントロールを、試してみる。


フェイントを高度化した物になるのかな。


ダンテスさんの「始め!」の合図で試合開始。


将軍は本気では無いものの、鋭い勢いの木剣で、俺の首を狙って来る。


バンタムさんの剣に比べれば余裕だ、本気ではないしね。受けに徹しながら"俺は、お前の左腕を落とすぞ"と、潜在意識に刻み込む。


何回か木剣を受けていると、将軍も本気になって来た。そりゃそうだよね、本気では無くても、こんな小僧にかわされ続けられてはね。


そろそろ仕掛けて見るか、俺は木剣を将軍にめがけて振った。


将軍は、俺の攻撃を見て咄嗟に左腕をかばう。


うん、成功の様だ。俺の木剣は将軍の胴へ決まる。


「ぐふっ」


「お見事、それまで」


「お見それ致しました」

「将軍は、僕に飴玉をくれた様です」


「ご謙遜を、陛下の腕前は本物で御座います」


「ありがとう。これからサキとミリカも、訓練に加わるから宜しくね」


「「はっ!」」




さて、事後報告になるが、義父おとう様に報告に行かなくては。


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