第20話 詐欺

 道具屋に入るとお婆ちゃんが、ちょこんと座っていた。


「"アウトロー"って言う酒場のマスターに聞いて来たのですが」


「ジャックや、お客さんだよ」


奥から出て来たのは、俺と同じ位の少年だった。


「どうぞこちらへ」


少年に促されて部屋に入る。部屋の中には、大小様々な魔石と魔道具がたくさん置かれていた。


「どうぞお掛け下さい」

「ありがとう」


少し、拍子抜けだ。悪そうな男を想像していたからな。


「どう言ったご用件です?」


丁寧な態度、自信の現れだ。なかなか良い。


「ゴーンツと言う商人の情報が知りたい」

「具体的にお願いします」


「彼の居場所、彼の資産状況、彼の趣味嗜好、彼の交遊関係、彼が決まってする習慣、行動かな」


「金貨50枚になります」

「分かりました、ここに置きますね」


テーブルに置かれた金貨を見て少年は、大きな魔石に手を当てて目を瞑った。



「彼は今、ワラヴォルト王国のオンダリア居ます。部下にコントラインの商品を買わせているので暫く居るでしょう。資産は白金貨で100枚と言う所でしょうか。趣味は骨董品や美術品の収集で、老女が好きですね。交遊は同じ趣味を持った仲間で、薔薇の会と言うのを作ってます。彼はオンダリアに滞在中は週に1度必ず、昼食をマラドンナと言うレストランで食事をしています」


「ありがとう。助かったよ」

「お役に立てて幸いです」



「彼はどうやって調べたのかしら?」


「おそらく、あの魔石は僕の虫と同じ感覚なんだろうね。魔石で聞くと、各地に居る仲間から情報が送られて来るんだよ」


「インターネット見たいな物ね」

「そうだね」


「えっ?」

「えっ?」 しまった。


「ごめん。つい流れで返事しちゃった。インターネットって何?」


「そうよね、色んな事を調べたり、見たりする事が出来る機械があるの」


「サキの世界は凄いね」


「何言ってんのよ。こっちの世界の方が凄いわよ。それでどうするの?」


「もちろん、僕の店に手を出したんだ、ゴーンツの財産は全てもらうよ」


「よし、でもどうやって?」

「フッフッフッ」




一旦、コントラインに戻って一泊し、ジョウモ王国に帰った。


「お帰り」「お帰りなさい」


「ただいま。セフィーヌ、この国でも演劇って有るのかい?」


「有りますよ。収穫祭とかには、いつも以上に盛り上がります」


「では、年配の男性が6人、品の有るおばあちゃんが2人、若い女性が1人で役者さんを揃えてくれないか」


「分かりました」


「リック、何をする気。教えなさいよ」

「まぁ、見ててよ」



ーー


一週間後、役者さん達を連れてオンダリアの街へ行った。



「おい、ゴルジャ。今日の昼のメニューは、なんじゃ?」


「はい、旦那様。本日はコカトリス鳥のフルコースで御座います」


「そうか、昼が楽しみだな」




「お前がこんな高級店でご馳走してくれる何て、どうした?」


「それが大きい声では言えないのだが、俺の妹がコントラインの神殿の巫女なのは知っているな?」


「おお、知っているぞ」


「そこの神官長様とあの化粧品店のオーナーが、昔からの知り合いらしくてな」


「おう、それで」


「そこそこの店の商人がそれを知って、妹に神官長様を紹介してくれと頼んだんだ」


「それで、それで」


「神官長様は妹が子供の頃からお気に入りで、話はトントン拍子に進んで、なんと神官長様の口利きでその商人は、各国の王室に納めている超高級化粧品セットを半分の値で仕入れる事が出来たそうだ」


「それで大儲けした商人から謝礼金をもらったのか?どんだけだ」


「驚くなよ、白金貨1枚だ」

「え~、白金貨1枚!」


「バカ、声が大きい。何せ容器もミスリル製で透かし彫りが施して有るので、超1級の美術品と言って良い代物だ。1セット白金貨2枚の物を半値で50セット買ったんだ、白金貨50枚の儲けだぞ」


「その商人も勝負に出たな」


「ああ、金をかき集めて買ったらしい。儲けた金で貧乏貴族から爵位を買って、今は男爵様らしいぞ」


「は~たまげた話しだ」


「おっ、噂をすれば、あの男が男爵様だ、綺麗な老婦人を2人も連れているな」


「羨ましいね」

「全くだ、そろそろ行くか」





「おい、ゴルジャ、あの男が住んでいる所を調べよ」


「かしこまりました。旦那様」



くそう、苦労もせずに白金貨50枚も儲けおって。何が男爵様だ。


おまけに、あんな美しい老婦人を2人も。気に入らん。



ーー


「旦那様、あの男の住んでいる所が判りました」

「そうか、会いに行くので支度をしろ」


「はい、直ぐに」


ーー


「陛下、あの男が謝礼を払うから、妹の巫女を紹介しろと言って来ました」


「陛下は勘弁して下さい。それでは、打ち合わせ通りでお願いします」


「かしこまりました」



「リック、いまいち話が見えて来ないよ」

「もう少しがまん」



ーー


「神官長。先日、寄進に来て神殿を見学していった者が、是非ご挨拶したいと来ております」


「ああ、あの化粧品の者達か。妻も喜んでいた、通しなさい」


「かしこまりました」



「先日は、大変ありがとう御座いました」

「熱心に説明を聞かれてましたな」



神官長様、申し訳有りませんが、暫く俺のアイテムBOXでお休み下さい。


「ジロウラさん、ではお願いします。サリィさんはゴーンツを呼んできて下さい」


「はい」


ーー


「すいません。店の者が神官長様へのお届け物を持って来たので、こちらに入れても宜しいですか?」


「ええ、どうぞ」

「それと、これは皆さんでお使い下さい」


「あ、これ、今は手に入らない石鹸じゃない」

「きゃっ、やった」


「それでは、失礼致します」

ーー


「神官長様、ゴーンツ様をお連れしました」

「どうぞ」


「こちらがソーウ神官長様です」


「ゴーンツです。お願い致します」


「話しは聞いております。こちらのセットを100個で宜しいですか」


「おお、これは見事な透かし彫りの容器ですな。しかも宝石も嵌め込まれている。ええ、これでお願いします」


「代金はお持ちに?」

「はい、ここに、白金貨100枚御座います」


「明日の今ぐらいに、商品がここに届きます。また、ここに来て下さい」


「あの、……」

「何か?」


「保証して頂ける物が、何かあればと」


「おお、私とした事が、大変失礼しました。白金貨100枚と言えば大金です。ではこれに取り引きの内容を書いて私が署名致しましょう」


「これは神の契約書」


「ええ、書かれた内容を反古にすれば、署名した者は命を落とします。本物かどうか確認なさって下さい」


「で、では鑑定!……間違い無い、本物だ」

「内容と署名を書きますので、こちらに」


「はい」


「あら、ゴーンツ様、お靴が何か変ですよ」


「えっ、どれどれ。ん~、どこもおかしく有りませんな」


「そうですか、私の勘違いの様ですね」


「さあ、署名しました。どうぞ」

「確かに、では明日また参ります」


ーー


ゴーンツは神殿を出た頃だな。神官長をアイテムBOXから出すとするか。


「では神官長様、失礼致します」

「う、ん~、ああ、ではまた」


「さあ、みんな、帰ろうか」


ーー



「それで、ここに白金貨が100枚有るわけ?」


「神の契約書にジロウラさんは署名したんだから、品物渡さないとダメじゃない」


「どうやらリック様は、渡す気が無いようですね」

「それじゃジロウラさん死んじゃうわよ」


「あれは僕が複製した物だよ。サリィさんが注意を惹き付けて、すり替えたんだ」


「リックが複製したなら本物と同じでしょ」


「サキ、忘れたのかい、神が関与した物には?」


「……効力が無い。アハハハ、やったわね」


「今頃ゴーンツの奴、真っ青だよ。でも、まだ終わりじゃ無い、あいつは今、金が無いので焦ってるはず、収集した骨董品や美術品を安く買い叩いてやる。そしてその金も巻き上げる」


「うわぁ、えげつない。ゴーンツは、喧嘩を売った相手が悪かったわね」


「ナンシー、カリーナ、効いてる?」


(はい、聞こえてます。ご主人様、ありがとう御座います)



サキが拳を突き出したので、俺は拳をコツンと当てた。

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