第11話 異形の魔物

 何だ、こんな夜中に。寝たまま、虫からの映像を見る、魔物が襲って来たわけでは無さそうだ。


人が森に向かってゆっくり歩いている、どうやら村人みたいだ。


老人から子ども、女性を含めて5人が森の中を進んで行く。


こんな夜中にどこに行く?暫くすると洞窟が見えた、村人達は中に入って行く、奥に進むと洞窟は左に曲がっていてその先が明るい、灯りが有るのだろう。


1人目の老人が左に曲がって直ぐに[バリッ、グチャ、グチャ]と咀嚼する音がする、偵察の虫も曲がり俺に映像が送られてきた。


老人は喰われ頭は無く、身体はバラバラになって魔物の口からは足が出ていた。


「うわっ!」


あまりの光景に、声を出し飛び起きてしまった。


「なに、どうしたのリック」

「ヤバイ、なんで?どうする、どうなっている」


「リック!」


「ああ、すまん。村人が魔物に喰われた所を見たので、驚いたんだ」


「どう言う事?」


ーー


「それって、自分から食べられに行ってるんじゃない」


「そうよ」

「今から行っても残りの村人は、絶望ですね」


「たぶんね」

「操られているのかしらね」


「だとすると厄介な相手だな、3人は気をつけた方がいい」


「リックは?」

「僕は大丈夫」


「何で?」

「さては、ズルね」


「その通り」

「で、どうするの?」


「朝まで待った方がいいと思う」

「賛成」


「護衛の冒険者に言うの?」


「言った方がいい、どうも今夜が初めてじゃない気がする」


「何でよ」

「村人の人数が少ない気がする」


「そう言われるとそんな気が」

「村の人達は気がつかないのかしら?」


「全員が操られているのか、記憶を消されているのかも」


「可能性はあるね、取り合えず朝まで様子を見よう」


「「OK」」




「何、それは本当かい?」

「ええ、間違いありません」


「村人達に聞いてみるか」


「皆さん、家族が行方不明になっていませんか?」


「いいや、そんな事はねえな」

「村長は気が付きませんか?」


「ないのう」


「やっぱりか」

「そこに行って見るしかないな」


「僕が案内します。みんなは念のためここに残って」


「分かった」



ーー


「ここです。でも今は居ない見たいですね、気配が無い」


「入って見よう」


奥に行くにつれて、ひどい臭いがする、独特の臭いだ。


左に曲がって、灯りの魔法を使う。


「うっ、これは」


辺り一面に血の後がある。変色している所も有るので、だいぶ前からなのだろう。


「どんな奴だった?」

「残念ながら顔までは、確認出来ませんでした」


「夜だけここに来るのか」


「ダランの街に行ってギルドに報告した方がよさそうだ」


「僕達が村に残って見張ってます」


「分かった、俺のパーティーの3人も残すよ、出来るだけ早く戻って来る。無茶はしない様に」


「はい」



ーー


「俺達はブンにパンチ、あいつはチャーリーだ。よろしく」


「よろしくお願いします」


「気味悪いわね」

「今夜も来るのかしら」


「判らんな」


村長には1日延長してもらった、ブンさんが見張をしてくれるので、俺達は休む事にした。



夜中にまた、虫に起こされる。


「ブンさん、裏から村人達がまた出て行きました」

「え、まったく気が付かなかった」


「どうします?止めるか、このまま勝負をつけるか」


「ブン、止めて様子を見た方がよくないか?」

「う~む、その方がいいか」


「分かりました」


今回も5人だったが、今は補助魔法のスリープで眠らせベッドに縛り付けて寝かせる。



偵察に虫を飛ばす、洞窟に奴は居た。ゲームでも見た事の無い魔物だ、イライラしているのが判る。


洞窟を出てこっちに向かって来る様だ。


「奴が怒ってこっちに来ます」

「何だって」


村に入れる訳にはいかないので裏出口で待機する。


奴が来た、口が大きく裂けた人型の魔物だ日本の鬼に感じが似ている。



「俺が行こう」

「操られ無いように気をつけて下さい」


パンチさんが前に出る。両手から手裏剣の様な物が放たれ、異形の魔物の両足、喉、心臓に刺さった。


パンチさんは暗器が得意らしい。


「グワゥ……」


魔物は低く唸って倒れてしまった。実にあっけない、簡単すぎる……。


「弱っ!」

「ホント」


「お、おい何だ、変だぞ」


死体が変化していく、人間の様に見える。


騒ぎに気付いた村人達が出て来た。


「どうしたんです?」

「おい、あれは、ジェノの奴じゃないか」


「ああ、間違いない」

「知っているのですか?」


「鉱山で稼ぐと言って、一月前に村を出ていった奴です」



「こいつが人を喰ってたんだ。信じられない」


「リック、どうなっているの?」

「これだけでは判ら無いよ」



夜が明け、縛り付けていた人は正気に戻ったらしく、騒いでいる。


縄をほどき、事情を説明すると回りに居た村人達は、慌てて自分の家に行った。そして、みんな青い顔をして帰って来た、身内が居ない事が解ったのだ。


「可哀相ね」

「こればっかりは、どうにもならない」


リーダーのウラルさんが、応援の冒険者を連れて戻って来たので事の成り行きを話す。


「そんなバカな、信じられない。死体を持って帰って調べてもらおう」


死体はダランの街のギルドに運ばれ、調査される事になり俺達も目撃者なので足止めされた。


2日後、結果の説明があると言うのでギルドに行った。


「死体を調べたが、何の異常もなかった。村人を喰った、という先入観があり暗かったので見間違えたのだろう」


「何を言っているのよ、あんたは」


「鉱山は調べないのですか?」


「この件の調査はこれで打ちきりだ。子どもは大人しく帰んなさい」


「てめえ、ふざけんなよ!」

「サキ!」


俺が難しい顔をして首を振ったので、サキも何か感じ取った様だ。


「ちっ!」


イラっとしてサキはギルドを出た。



「リック、何でだよ!」

「おそらくこの件は、この国が絡んでいるんだよ」


「えっ、何それ」


「断定は出来ないけど、例えば何か実験をしてるとか、人を強化して危険な作業をさせるとか、戦争に使う目的で」


「そうだとしたら、まだ成功していないのね」

「だから、あんな化け物に」


「何であんな所に居たのよ」


「鉱山から逃げて、その後に化け物になったのかも、自分の生まれた村を覚えていて来たのよ」


「村の人達が可哀相ね」


「いずれにしても、この国とは関わらない方がいい、ダンジョンだけ確認して早く出よう」


「嫌だわ、私の国の隣りじゃない。勘弁して欲しいわ」


「心配ならガレイラのギルドに手紙を書けばいい、ミリカはBクラスの冒険者なんだ、話は聞いてくれるさ」


「分かった、そうするわ」


結局、この国のダンジョンは全部違った。こんな国とは、とっととおさらばだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る