第8話 湿地はかったるい

「リックさんはサキさんの恋人なの?」

「えっ、ち、違うわよ」


「そう?彼、素敵ですね、びびっと来ました。フェロモン出まくってますよ」


「フェ、フェロモン?そ、そうかしら」


「リックさんがサキさんを好きでもいいか。サキさんが第一婦人で私が第二婦人ね」


「それじゃ、二号さんじゃない……そうか、この世界は一夫多妻制だったっけ。う~ん」


「暫く一緒に行動してもいい?」

「ベ、別に構わないわよ」

「良かった、ありがとう」


リックがフェロモン?……確かに最近は大人っぽく感じるけど。


ーー


 興奮して寝れなかったのか早めに目が覚めた、食堂に行くと2人はまだ来ていない様だ。


「おはよう御座います。朝食を用意出来ますが?」


「2人が来たらお願いします」

「分かりました」


「おはよう」

「おはよう。リック、早いわね」


「さっき来た所だよ」


テーブルに料理が運ばれて来た。


「美味しそう」

「いただきます」


野菜スープは温かく、とてもまろやかで、なかなかの味だ。


パンに手を伸ばした時、2人に異変があった。


「くぅ、身体が……」

「……動かない」



「これでお前とやっと、おさらば出来るな」


「お、……お前、バズール……」


「まさかお前がこの宿に来るとはな。お前も姉と同じ様に、獣人好きの奴らに奴隷として売り飛ばしてくれる」


「くそ、……なにを」


「ゴメス、3人を縛り上げろ。……?ゴメス、何をしてる」


「その人ならもう死んでるよ、ほら、そこに」


「何、うっ、ゴメス……小僧、何で動ける?」

「僕には毒も麻痺薬も効かないよ」


「ならば、俺が殺るまでだ」

「それも無理。バインド!」


「なっ、身体が」


「さあ、2人とも、これを飲んで」


麻痺回復ポーションを2人の口へ運ぶ。


「た、助かった」

「本当に、助かりました」


「この男は君に任せるよ」

「ありがとう、こいつらのせいで私の姉は……」


「色々有るみたいだね」


「リック、何で麻痺しなかったのよ」

「僕の、ズルその②だよ」


「呆れた、でもそのお陰ね。あの男が動け無いのは?」


「ズルその③」

「はあ、分かったわ」


暫くして、ひと仕事を終えて帰って来た手下達を、サキがブチ倒しギルドに引き渡した。


「リックさんのお陰で、姉の敵が打てました。この賞金を受け取って下さい」


「それはミリカさんが、もらうべきだと思う」

「そうだよ」


「ありがとう。これでバズールを捜す必要が無くなったので、ずっとリックさんと旅が出来ます」


「へっ?」


「サキさん、これからもよろしく」

「よ、よろしく」


「どう言うこと?」

「ミリカさんが仲間になるのよ」


「そうなの?」

「リックさん、よろしくね」


「あ、はい」


「湿地のダンジョンに行くんでしょ。さあ、行きましょう」


「お、おう」


不思議な事にサキは、ミリカが仲間になるのを納得している様だ、ならいいか。



これから行くダンジョンは、名前の通り湿地帯の奥にダンジョンが有る、着くまでに水生の魔物も出るので一苦労する。



雷魚の様な魔物を倒しながら進んで行く、ミリカの動きは素早く正確だった。


しかし、カエルの顔をした人型の魔物には参った、グロテスクな上にを酸を吐くのだ。


「あれはトードリアンって言うのよ、悪食で何でも飲み込むの。集団で来られると厄介な奴よ」


「リック、先の方が騒がしいわ」


そう、気が付いてはいたんだが、複数の冒険者が襲われている様だ。


どうするか、ジャバネなら多少の酸を浴びても大丈夫だろう、悪食には悪食だ。


「ミリカ、驚かないでね」


3匹のジャバネを出して巨大化させる。


「出た、異世界G」

「うっ、ひぇ~」


「冒険者達は食べちゃダメだよ。行っておいで」

「ギギィ」


「リック、あれは何?」

「僕の従魔だよ」


「他にもたくさんいるから、ミリカ、覚悟した方がいいわよ」


「うひゃ~」


冒険者の所に着いた時には勝負はついていて、男女合わせて8人いたが、全員が腰を抜かしていた。


ジャバネ達は空中でホバーリングしている。


「た、助けてくれ。虫の魔物に……」


「酷いな、その子達がトードリアンを食べてくれたんだろう?」


「えっ、そ、そう言えば」

「僕の従魔だよ」


「助かったのか?」

「許してくれ、それは恐ろしい光景だったんで」


「あ、それ解るわ」

「どんだけなのよ、サキさん?」


「その内に解るわよ」


「ポーション有るけどいる?」

「ああ、買わせてもらうよ」



「君達、トードリアンくらい一蹴出来なければ、ダンジョンに行っても死ぬだけじゃないのか?」


「判かった、もっとレベルの低い所からやるよ」


「じゃ、僕達は行くね」

「ありがとう、じゃ」


ジャバネをしまって、ダンジョンに向かう。


「リック、虫に乗れば良かったんじゃない」


「あっ、そうか忘れてた、しかし目立ちたくも無いしな。でもここなら帰りは乗ろう」


「それじゃダンジョンに急ぎましょう」


数分後にダンジョンに着いたが入口には魔物の像は無かった。


「無いわね」

「取り合えず周りを見てみよう」


「やっぱり無いわね」

「違うか、まあ一発目で当たったら凄いよね」


「どうする?」

「何か疲れたな」


「そうね朝から色々有ったし」

「帰るか」


「えっ、ダンジョンに入らないの?」


「そうか、言って無かったっけ。僕達はダンジョン攻略が目的では無いんだ」


「あるダンジョンを探しているの」


「そうなの?」


「それでも付いてくる?ミリカ」

「もちろんよ、サキさん」


「お腹空いたし、人も来ない様だし、ここで食事して帰ろう」


「はい」「そうしましょう」


テーブルとイスを出して、料理長に作ってもらったパンにスープ、オークのしょうが焼き風味の肉を並べる。


「いつ見ても凄いわね」

「え~っ、湯気が立ってる」


「冷めない内にどうぞ」


「「いただきます」」


ーー


「さっきは聞こえないふりをしたけど、本当に虫に乗るの?」


「そうよ、怖いのかしら?」

「ま、まさか楽勝よ」


「このまま、西のダンジョン近くの街まで行こうと思う」


「早く着いて、ゆっくりしたいわ」



今日の夜には着きそうだ、今度はちゃんと宿が有るといいがな。


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