第3話 勇者召喚、再び

 リナに協力してもらい、2人で馬車を使って次の日の昼頃、ようやく城の近くまで戻ってきた。


2人は俺のアイテムBOXに入った事や出た事を、もちろん知らない。


「エミューズお姉様、もうすぐお城です」

「ええ、リック、頑張ったわね」


「リック様、ありがとう御座います」

「お礼を言うのは僕の方だよ」


城の入口に近づくと衛兵が馬車に気がついて、駆け寄って来た。


「リック様!」

「エミューズお姉様も無事です」


「よくご無事で」


直ぐに走って城の中に行ってしまった。


最初に駆けつけて来たのはバンタム先生だ。


「エミューズ様、ご無事でしたか」

「ええ、バンタム、心配をかけましたね」


お姉様の頬が赤くなった様な、ふ~ん、この2人は熱いのか。


家臣達に囲まれながら、大広間へ行くと国王、兄達が息を切らせて入って来た。


「ただいま戻りました」

「おお、よく戻って来た。心配したぞ」


「捜索したら騎士達が殺られていたので皆、心配していたんだよ。母上は寝込んでしまわれた」


母上が、さすがに胸がチクチク痛むな。


「何が有ったか話してみよ」


「はい、父上。ダイン伯爵に恨みを持つ者が、僕達を伯爵の身内と間違えて人質にしようとした様です」


「なに、真か」


「はい、それで勘違いと判り、父上を敵に回すのを恐れ私達は解放されました」


「ふむ、しかし許すわけにはいかんな。皆、引き続き首謀者を捜索せよ」


「はっ」



ふぅ、やっと終った。早く風呂に入ってゆっくりしたいよ。


「リック様、とんだ目に合いましたね」


うっ、相変わらず気配が読めないな、さっきと違いキリッとしてるし。


「バンタム先生。本当に酷い目に合いました」

「しかしご無事で良かったです」


「ご心配をおかけしました」

「後で女王様の所へお顔をお出し下さい」


「分かりました」



なんか気持ちがモヤモヤするな、酒でも飲みたい気分だ調理場に行って、こそっと取って来るか。


誰もいないな、よし赤ワインと白ワイン、これでよし。


「ウホン!」


「料理長さん、これはご機嫌よう。ではさようなら」


「ちょいとお待ち下さい。これもどうぞ」


うほほ、コジュケイ鳥の丸焼きだ。


「ありがとう、料理長」

「どういたしまして」


料理長はなぜか俺に優しいのだ。


一杯引っかけたら母上の所に行くか、神様も何でここに転生させたかね、ホントに。



バンタムさん以降の召喚者は逃げるのは無理でも、それ以前ならキョウゴクさん以外にもこの国を恨んでる召喚者はたくさんいそうだ。


召喚なんて俺達、される側からすれば誘拐と同じだからな。


それに第2・3夫人の国、ベルリア王国とブブセル王国も所詮はこの国の属国だから、どちらも兄達を国王にして勢力を伸ばしたくて、取り巻き達も牽制し有っている。


しかも、どちらの国も俺が邪魔でしょうがないのだ、大人達の事情で凄く迷惑な話だ。



俺の将来が懸かっているので真面目に勉強・訓練をこなし、1年が過ぎて今日は、エミューズ姉様のスキル鑑定の日だ。


この人だけは争い事に巻き込まれず、幸せになって欲しい物だ。


こころ優しい彼女は、月並みだがやはり聖女だった。


「お姉さま、おめでとう御座います」

「ありがとう、リック」



姉さんが聖女だった事に気を良くした父上は、その日の晩餐会で明日、勇者召喚をする事を発表した。


俺が召喚されてから8年になる、どうやら召喚を行う魔力が貯まった様だ、召喚はこの国だけが昔から出来る秘術だそうだ、誰が考えたのか余計な事をしてくれた物だ。



俺も興味が有ったので、見に行く事にした。


魔法陣を10人の術士が囲み呪文を唱え始める、魔法陣から円柱型の光が溢れ人の形を造っていく、現れたのはセーラー服を着た女の子だ。


スカートの丈は足首まで長く、靴はエナメルでカバンの持ち手はバンドで改良して、黒のビニールテープが巻いてある。


これって確かケンカ買いますだった様な?売りますだったかな?って、スケ番じゃん。


あちゃー、えらいのが来たな。



「ようこそ勇者様」

「はぁ~何だてめぇ、やんのかこらぁ」


ダメだこりゃ。


「陛下の前である、静かにせんか」

「何だと」


2枚のカミソリの刃の間に10円玉が入っている物を人指し指と中指で挟み、バンタム親衛隊長に向かって彼女は構える。


不味いな。


「陛下、親衛隊長殿。彼女はまだ幼く、急にこの様な所に出てしまい興奮しているのです。私が話しますので暫く預けて頂けませんか?」


「……良かろう、暫くの間リックに任せる」

「ありがとう御座います」


「さあ、お姉さま、僕の部屋に行きましょう」


「えっ、おう」


その前に調理場に寄って行こう。


「料理長、気持ちが落ち着く飲み物は無いですか?」


「それなら、このガラメル酒をどうぞ」

「いつもありがとう、料理長」


「私はリック様のファンですからな」

「ふふ、どうも」


ーー


「これ飲んでみて」

「ああ、すまない。うん、甘くて美味しいな」


「どこから話そうか?」

「ここはどこだ?」


「ここは地球とは違う世界さ、お姉さまは魔法でこの世界に連れて来られたんだよ」


「もう帰れ無いのか?」


「それは判らない。有るかも知れない、調べないと」


「私はどうしたらいい?」


「逃げるにしても強くならないと、バンタム親衛隊長は凄く強いんだ」


「私はどうして連れてこられたんだ?」


「他の国と戦争する為と、ダンジョンで宝物を集める為」


「嫌よ、そんな事」


「そうだよね、それが普通だよ。だから今は我慢して知識を増やして強くならないと」


「そうか、そうだよね」

「いずれ僕もこの国を出るつもりなんだ」


「ホント、いつ?」

「相手の出方しだいかな」


「相手って?」

「兄達の取り巻き連中さ」


「ふ~ん、色々ありそうね」

「まあね、お姉さまは、いくつ?」


「14才、名前はさきよ」

「僕はリック8才さ、よろしく」


中身は45才だけど。


「戦争をやるとしても私じゃ無理でしょ?」


「召喚された人は特殊な能力が付くんだ。この世界は魔法もあるよ」


「魔法があるの?それだけは素敵ね」


「今日は疲れたでしょ、部屋を用意させるね。明日、サキさんが何が出来るか調べよう」


「分かった、ありがとう。じゃ明日ね」

「うん、じゃ」


気楽に話せる人が出来て良かった、楽しくなりそうだ。


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