第2話 過去からのユルい挑戦

 強欲父上が俺の為に、わざわざ隣国である第二婦人の母国、ベルリアの有名な魔法使いの家庭教師を呼んでくれたらしい。


少し心が痛む、家庭教師の先生は女性ではあるが35才だ。が、しかし良い女である。


元の俺は45才だから言うこと無しだ。


「リック様、マリーナと申します」


「うん、先生よろしくね。たぶん僕は魔法の素質が無いと思うから、出来なくても先生のせいじゃ無いので気にしないでね」


「う~ん、そうでも無いと思うけど?魔力量もそこいらの魔法使いの倍は有るはずよ」


「そんな事が判るのですか?」


「今まで色んな生徒を教えて来たから、勘みたいな物ね」


「僕の属性も判って無いのに?」


「属性は得意と言う事であって、他の属性魔法が使えないと言う事では無いのよ」


「そうなんですね」


興味が無かったから調べなかったな。


「出来れば、防御、補助魔法を重点的に教えて欲しいのです」


「リック様は変わっているのですね。皆、派手な魔法を覚えたがるのに」


「うん、考え方がちょっと違うかも」


「分かりました、リック様の意に添うように進めて参りましょう。では今日は、敵を感知する方法から」


「やったー、お願いします」



ーー



マリーナ先生の授業が終わり、いつものランニングを済ましたので、図書館に虫系の魔物図鑑を探しに行く時、後ろから声をかけられた。


「リック様」


うっ、全く気がつかなかった、気配が感じられない。


「や、やあ、バンタム親衛隊長」


現時点で最も恐ろしい男、元の世界でロシアの特殊任務部隊[スペツナズ]で王族直属の親衛隊長。


そして、召喚した勇者が言う事を気かなかった時、始末をする役目を担っている。


だからと言って、チンピラヤクザ見たいに外道では無い、彼なりに信念もあり男の美学も持っている。


しかし、有る意味では外道より始末が悪いかも。


「精がでますな、国王に誰が見込みが有るかと聞かれて、リック様と答えて正解でした」


「僕なんか、お兄様達には及びませんよ」

「ご謙遜を」


「では僕に剣術を教えて頂けませんか?」


「私から剣術を?……それでは中庭の修練場に参りましょう」



「お願いします」

「どうぞ」


まあ、敵うはずは無いのだが剣術を習うには最高の人だ。昔、習った棒術にアレンジを加えてやってみる。


一応は昔、相手の攻撃気配をつかむコツも練習したので、見え見えの隙を作り俺に攻撃をさせ、見え見えの虚実を混ぜて攻撃して来るバンタムさんに何とかついて行けた。


「今日はここまでにしましょう」

「ありがとう御座いました」


「なかなか面白い動きでした。個性も考える事も大事です、これからは良い所は残して、無駄な動きを無くす方向でリック様の剣を完成させて下さい」


「解りました」

「では、月と水の日に、この時間この場所で」


「先生、ありがとう御座います」



自分の部屋で持って来た魔物図鑑を見てみる、虫の魔物は色んな種類が有る。


かなり使えそうだ、これは楽しみだ。


翌日、エミューズお姉様から部屋に呼ばれたので顔をだす。


9才だけど可愛い。大人びてる、とてもあの両親の子とは思えない。俺も子供の頃はこんな姉さんが欲しかったなぁ。



「リックです、よろしいですか?」

「入って」


「お姉さま、何のご用です」


「ダイン伯爵から、東の遠い国の珍しいお菓子が有るからとお招きを頂いたの、お父様のお許しは出ているので、リックも一緒に行くのよ」


「分かりました、どんなお菓子か楽しみですね」



「お姉さま、お手を」

「ありがとう、リック」



世話係のメイドも1人馬車に乗る、護衛は10人の騎士だ。


しばらく進み伯爵領の手前で馬車が急に止まった。


「敵襲だ!馬車を守れ」


「お、王女様」

「リック」

「お姉さま、大丈夫です、リナも落ち着いて」


盗賊でも出たのかな?しかし、直ぐに静かになった。


この国の騎士は優秀だな、と思ったがそうでも無い様だ。


「皆様方、しばらくお付き合い下さい」


「リック、どう思う」


「直ぐに殺さないなら、交渉の余地が有ると思う」


「そうね」


馬車はあれから半日走った、窓は塞がれたので場所は判らない。まあ、知る方法はあるが。


「どうぞこちらへ」


森の中に有る立派なお屋敷に促されて入り奥の部屋に通された。


「僕達をどうする気ですか?」


一番強い奴に話しかける。


「ただの執事の私になぜ聞くのです?」

「貴方が一番強いから」


「ほう、あの国王の子とは思えんな」


「人質なら僕だけでいいでしょ、2人は帰してあげて下さい」


「ダメと言ったら?」

「貴方を殺すまでです」


「いいね。度胸は買うが、根拠が無いのではな?」


「ハッタリだと思いますか?では」


2人を俺のアイテムBOXにいれる。当然、みんなの前から消えた。


「なっ、……」

「今度、は貴方が消える番ですがどうします?」


「キョウゴク様、こんな小僧など我々で」


京極?日本人か。


「ぬぅ、坊主……皆、まて手を出すな」


「2人に聞かれる事が無いので話しますが、おじさんは、かなり前に召喚された勇者でしょ」


「くぬぅ」


「おじさんもかなり強いけど、今の親衛隊長には敵いませんよ。もっと方法を考えないと」



「坊主、お前はどっちの味方なのだ。調子が狂うわ」


「あんな国に召喚されたら逃げますよ、普通」


「むむぅ、どこまで知っている」


「知りませんよ、あくまで想像です。どうせ戦争の道具にでもするか、ダンジョンでお宝を集めさせる気でしょ」


「その通りだ、俺達の仲間もたくさん死んだ」


「それで今になって恨みを晴らそうと?」

「そうだ、体制も整い仲間も強くなったからな」


「今の親衛隊長がいる限り無理です」

「そんなに強いのか?」


「おじさんは、いつの時代から来たの?」


「2013年だ」


「彼は元、スペツナズです。加えて召喚されたスキルがあると考えて下さい」


「ロシアのか?」

「はい」


「う~ん、解った、今回は止めとこう」

「キョウゴク様!」


「皆、この坊主の判断は間違っておらん。坊主に聞くが、我々がお前の国を滅ぼしてもよいのか?」


「僕は鬼子でね、仕方が無いと思います」

「……分かった、帰っていいぞ」


「ありがとう御座います」



「キョウゴク様、よろしいのですか?」


「あの坊主がその気なら、今頃ここにいる者は全て消えているわい」


ーー



城では大騒ぎだろうな、なんて説明しようか?

頭が痛い。


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