第20話 膝枕リターン

しばらく膝枕を続けても遥はぐっすりと寝ていた。


……そうルナは思っていた。


(少しうとうとしてたら……なんだってこんな素敵な状況になってるんだ?)


眠った体勢で内心そんなことを考えている時点で起きてるのは確実な遥。


一応言っておくとルナが隣に座るまでは本当に寝ていたのだが、なんとなく起きるタイミングが見つけられず現在遥はルナに膝枕をしてもらっている。


ここ数日、遥は各所への根回しやドレスの仕立てなどの準備でかなり疲れていたのでルナからこうして接して貰えるのはかなりご褒美なシチュエーションなのだが……


(ここで起きたら勿体ないよな)


そう内心で結論づける。


いつもは奥手なルナがこんな大胆なことを寝ている遥にするという嬉しいシチュエーションを楽しもうと思っていることに、もちろん気付いていないルナは優しく遥の頭を撫でていた。


「遥の髪……思ったより柔らかいな……」


むしろルナの感触の方が柔らかいんですけど!


……と、もちろん口には出さずにそう内心で返事をする遥。


優しく遥の頭を撫でるルナからの感じる母性的な感覚になんとなくこそばゆく、同時に今すぐ起きて抱きつきたいのを我慢してその心地よさを堪能する。


「す、少しくらいなら大丈夫だよね……?」


そんな遥の内心など知らず、ルナはそう言ってから遥の頬に指をおいてツンツンと触る。


こそばゆい感触に思わず遥は唸るような声を出しそうになるが……気合いで我慢した。


「わ、男の人でも意外と頬柔らかいんだ……」


ツンツン……何度かその感触を楽しむように触るルナ。


(うーん……これはこれでよしかな?)


いつもはわりと遥がルナにスキンシップをとるので、こんな風に寝ている遥に触ってくるルナというのに新鮮な気持ちになるが……まあ、寝てる遥にルナが何をしようとも多分受け入れられる。


むしろウェルカムな感じの遥。


「まだ起きないよね?そ、それなら……大丈夫だよね……?」


何やら内心で葛藤があったようなルナだったが意を決したように遥に顔を近づけてきて――頬に軽くキスをした!


(あの恥ずかしがりやなルナがこんなことを……)


感激で内心で涙を流す遥。


たかが頬にキスくらいで大げさなと思うかもしれないが、考えてもみろ、あの奥手なルナが寝てる無防備な遥に対して頬にとはいえキスをする……男ならこんな素敵なシチュエーションに感激を懐いてしかるべきだろう。


「や、やっちゃった……ふふ……」


目を瞑っているので表情はわからないが確実に照れているであろうルナそんな可愛い顔を見たいところだが、せっかくのチャンスだ。


しばらく膝枕を堪能しようとその表情を見るのは後回しにして次のイベントに待機する遥。


とはいえ、そのキスが限界だったのか、ルナはそれ以降はゆっくりと優しく頭を撫でるだけだった。


しばらくそんな優しい感触に身を任せていると本気で眠たくなってきた遥はそのまま意識を徐々に手放した。




「遥、まだ寝てる……」


頬にキスをしてからルナは恥ずかしそうに顔を赤くしながら遥の頭を撫でてそう呟いた。


せっかく寝てる遥を起こすと悪いとは思いつつも、なんとなく無防備に寝ている遥を見てつい頬にとはいえキスをしてしまったのだ。


純粋お嬢様なルナから考えればかなり大胆なことをしてしまったと恥ずかしく思うことは仕方ないだろう。


(頬にとはいえ私ったらなんてことを……)


遥の頭を優しく撫でながらもそんな風に羞恥で顔を赤くするルナ。


もちろんルナは遥と何度となくキスをしているが、しかし、こんな不意討ち気味にキスをするというのはなんとなく気恥ずかしいものがあり、赤くなるのは当然と言えば当然なのだ。


(それにしても……こんなにぐっすり寝てるなんて……)


顔を赤くしつつもルナは遥の寝顔を見てふと思った。


かなり疲労があるのだろう遥。


遥が何かをここ最近頑張っているのはわかるが……


(私のため……なのかな……?)


そう考えるとなんとなく少しの申し訳なさと、同時に嬉しいという気持ちも沸いてくる。


こんなに疲れてるほどに遥が何かを自分の中のためにしてくれているというのは申し訳ないはずなのに、どこか嬉しいと思ってしまう。


(私は嫌な人間だな……)


好きな人が自分のために頑張ってくれていることを申し訳なく思いつつも嬉しいとも思ってしまうことにルナはなんとなくそう思ってしまう。


遥はまだぐっすりと寝ている。


寝顔はいつもの優しい表情ではなく、どこか少年のように幼い可愛い寝顔でルナの心はどうしようもなく遥に占められてしまう。


「好き……遥……大好き……」


寝ているとわかっていてもそう声に出していた。


なお、その言葉をしっかりと聞いていた遥が起きてからルナを存分に可愛いがったのは……説明しなくてもわかるだろう。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る