第16話 携帯電話

「そうだルナ。これをしばらく持ち歩いてくれる?」


夕食が終わり二人でまったりしていると、遥は思い出したようにそれ・・を渡した。


「これは……?」

「携帯電話っていうマジックアイテムなんだけど――これがあればどこにいても俺と連絡がとれるんだ」


そう――遥が渡したのは現代人ならガラケーと呼ばれるような形をした小型の携帯電話だ。


この世界ではマジックアイテムとしてそれを再現した遥は親しい人間には必ず渡しているが、実のところあまり機能していないそれを一応ルナにも渡しておく。


見慣れない道具にルナはおそるおそる触って確かめると、首を傾げた。


「どうやって使うの?」

「操作は簡単だよ」


そう言って遥は簡単に説明する。


機能としては電話とメールまではなんとか再現できたが、流石にそれが限界で今のところスマホまでのランクアップは厳しかった。


まあ、遥はわりと旧型の携帯電話のデザインが好きなので、そこまでこだわってはいないが。


「これがあれば遥がどこにいても連絡できるの?」

「そうだね」


ルナはその返事に興味深そうに携帯を眺めていた。一応遥が前に実験したところ、ほとんどどの国にいても魔の森から連絡がついたので、かなり精度はいいのだが……とはいえ欠点もある。


まず、携帯電話の仕組みとしては遥の魔力を内蔵させて、その繋がりを利用して連絡を取る仕組みなのだが、まあ、はっきり言ってこの内蔵させられる魔力量が決まっているので長時間の使用が出来ないのだ。


通話だと約2時間ほど。


メールもだいたいそれぐらいで内蔵魔力が尽きるようになっている。


充電しようにも遥の魔力でしか充電出来ないので、もはや遥が自分で動く方がてっとりばやいレベルなのだが……まあ、雰囲気でなんとなく作ったオモチャなので気にしないでおく。


ちなみにこの世界に電話の類いはない。


一応通信魔法のようなものも存在するけど、燃費が悪い上に精度が低いのであまり使えない魔法となっているのだ。


「試してみてもいい?」

「もちろんだよ」


何度か遥の説明を聞いただけで使い方をマスターしたルナにそう言われたので遥は笑顔で返事をして家から外に出た。一応屋内でもいいのだが……なんとなくの雰囲気で遥は外に出た。


遥が外に出たのを見てからルナは少し緊張気味にボタンをおして遥に言われた通りに携帯を耳元に近づける。


『もしもしルナ』

「遥……えっと、これで大丈夫なのかな?」

『もちろん。一発で使えるようになるなんて流石ルナだよ』


遥はいないのに耳元から聞こえてくる遥の声。


不思議に思いつつもルナは返事をした。


「うんと……なんか変な感じだけど……」

『最初はそうだろうね。慣れれば特に問題ないだろうけど』

「うん。でも……」

『うん?』

「その……やっぱり遥の顔が見えないのは少し……その……寂しいかなって……」


恥ずかしそうにルナがそう言うとしばらく電話口は無言になってから……目の前の玄関の扉が勢いよく開けられてそのまま勢いをつけた遥が一目散にルナに抱きついていた。


「は、遥?」

「……ごめん。あんまりにも可愛いことを言うから我慢できなくて。俺もルナの顔をみて話すのが一番いいよ」

「う、うん……」


照れつつも抱きついていることに嬉しそうに頬を緩めるルナに対して遥がさらに萌えを感じたのは言うまでもないだろう。



「まあ、というわけで、あんまり活躍の機会がないだろうけど……持っててくれる?」


二人で存分にイチャイチャしてからなんとかさっきの話に戻ってきたが、顔を赤くしていたルナが少し考えてから聞いてきた。


「これって、遥以外には使えないの?」

「使えないことはないけど……使えるのはこの携帯を持ってる人間だけだよ」


一応、ロバートやマイヤなどは持っているが、二人はあまり携帯電話というものを使いこなせていないので役には立っていない。


理論上、遥の魔力でないと通信出来ないのも難点で、実用化レベルとはとても言えないのだ。


「そうなんだ様」


少し落ち込むルナ。


そんなルナに遥は心配そうに聞いた。


「誰か連絡取りたい人がいるの?」

「えっと、その……」


言いよどむルナに遥は優しく手を握ると柔らかな声で言った。


「ルナ。隠し事はなしだよ。夫婦なんだからなんでも相談してよ」

「遥……ありがとう。そのね、私が貴族の頃にお世話になった乳母のマリアと侍女のサラスにはその……私が遥の妻になったのを伝えたいなって」


ルナの記憶にある中で、両親よりも世話になった人物。


追放された時には側にいなかった二人にはなんとなく伝えたいと思うルナ。


そんなルナの心中を察したように遥はしばらく思案してから、いつもの微笑みで言った。


「わかった。少し出来ることをしてみるよ」

「ありがとう遥……」


このときのルナはそこまでこの件を気にしていたわけではないのだが、後に遥がルナに対してはどこまでも本気でことにあたることが証明されるきっかけになるのだった。



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