第15話 膝枕
「ただいまー」
魔物狩りを一通り終えてから遥は家に帰ってきてそう言うが、いつもなら出てきてくれる愛しい妻のルナが今日に限っては出てこなかった。
少し心配になりつつもルナが外に出た気配はないのでとりあえずリビングに向かう。
すると……
「すぅ……すぅ……」
「……寝てるのか」
見ればソファーに横になって安らかに眠っているルナの姿が。
イタズラ心を刺激されつつもその可愛い寝顔を脳内の『ルナフォルダ~愛しい妻の記録~110』に保存しつつもそっと風呂に入るために移動した。
本当ならもう少し眺めていたかったが、流石に歩き回って汗をかいたのでそんな臭いの状態でルナとスキンシップするわけにはいかないと思った遥はサクッとシャワーを浴びることにした。
風呂に移動すると湯船にはお湯が張ってあり、いつでも入れる状態ではあったけど、とりあえず体を洗って軽くシャワーを浴びる程度にしておく。
ゆったりと湯船に浸かるのもいいけど、早くルナを愛でたいのと、あわよくばルナが今夜お風呂に入る時に一緒に入れる理由を作るためにシャワーのみにしておく。
シャワーで汗を流してさっぱりさせてから身体を洗っておく。
スキンシップで一番触れる機会が多い身体は念入りに洗っておくというのが遥なりのマナーなのだ。
まあ、そうでなくても遥的には好きなこの前では綺麗な自分でいたいのでそこら辺のコンディションも万全にしておく。
ルナなら確かに遥が汗っぽい臭いをさせていても何も言わないだろうが、男としてのプライド――もとい、最低限の礼儀としてその辺はきっちりとさせておく。
シャワーでさっぱりしてから遥は手早く身体を拭いてから新しい部屋着に着替えてそっとリビングに戻ると、そこにはまだゆったりと眠るルナの姿が。
「よし……」
遥はそれにガッツポーズをとってから静かにルナに近づくと枕がわりにしているクッションをどかしてさりげなく自分の膝の上にルナの頭を乗せる。
いわゆる膝枕だ。
男がするのはどうかと思うが、遥的にはルナにするのもされるのも大好きなので全然ありだ。
確かに女の子の膝枕――というかルナの膝枕はかなりの心地よさでいいのだが、あまりルナの足に自分の体重で負担をかけたくないので、変わりに自分でする。
平均的な身長と体重の遥でもルナみたいな女の子からすれば重く感じるだろうし、何やりルナの寝顔を横から眺められて、柔らかい感触を堪能できるのでお得だ。
「んぅ……」
艶っぽい呟きをするルナに悶々としつつも、いつ起きても大丈夫なように紳士的スマイルで待機しておく。
(うん、やっぱり寝顔も可愛い!)
何度となく見ている寝顔だけど、何度見てもその可愛いさは変わらない。
むしろ寝顔ってぐっすりと寝てるのでいつもより幼く見えるルナにドキッとする。
無防備に眠るルナというのに遥はかなりの邪念が浮かぶが、夫婦とはいえ、寝ている相手にイタズラするのは紳士の名折れなので、自制する。
(大丈夫だ。俺は羊さんだ……草食系男子ファイト!)
内心でかなりの葛藤があるが、それはもちろん全て抑えてあくまで紳士の表情で待機していると、しばらくしてからルナが静かに目を開けて――虚ろな瞳が遥の視線とバッチリ目があった。
「うぅん……はるか……?」
「そうだよ。ただいま。あとおはよう」
「おかえり……おはよう……」
しばらくそうボンヤリして答えてからルナは自分のおかれた状況を理解したのか、遥の膝と遥の顔を交互に見てから……慌てたように顔をあげた。
「な、なんで私……ひ、ひざ……ひざまくらを……」
「ごめん。寝顔可愛いくてつい」
「……!?……ま、また遥に恥ずかしい顔をみられたぁ……うぅ……」
恥ずかしそうに遥の膝の上で顔をおおうルナ。
その照れたような表情がまた遥の心に激流をもたらして遥は思わずそっとルナの頬に口づけをした。
「!?は、遥……!?」
「ごめん。ルナが可愛いすぎてつい」
「ついって……うぅ……しかも、可愛いとか……」
照れながら少し嬉しそうにしているルナ。
その表情はかなりくるものがあって、遥がエロゲー主人公ならこのままお茶の間で放送できないような18禁展開も予測出来てしまうが……そこはラノベ主人公並みに自制のきく遥さんは紳士の微笑みでなんとか踏みとどまる。
「不意討ちはずるいよぅ……」
……が、またしても砕けそうになる理性。
きっとルナは遥を萌え殺すすべをいくつも持ち合わせているだろうと思う今日この頃。
きっと色んな意味で遥を本気で殺せる存在がいるとしたらルナの可愛いさを置いて他にないだろう。
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