第17話 下準備
翌日、遥は朝早くにアーカシア王国に訪れていた。
移動系の魔法は魔力の消耗が激しいので本来はあまり使えないのだが……そんな一般常識には当てはまらない遥は悠々と魔の森からアーカシア王国に来ていた。
「いや、いつも言ってるけど部屋に直接移動してくるのはやめて。心臓に悪いから」
「ロバートが携帯を使えるようになったら考えるよ」
「それは土台無理そうな話だなぁ……」
ため息をつくのはこの国――アーカシア王国の第二王子であるロバート・アーカシアだ。
ちなみにため息の理由は朝一番から無断で自室に移動してきた友人に対するため息だ。
まあ、本来なら王子の部屋に無断で移動系魔法で転移してくるのは誉められた行為ではないし、場合によっては不敬罪とかで裁かれるのだが、そこは友人のよしみで多めにみることにする。
現に、警備をしていたマイヤも遥がいきなり転移してきても対して驚きはせずに普通にもてなしているのがいい証拠だろう。
「それで、お前からこんな早くに訪ねてくるなんてなんかあったのか?」
「ああ、いくつか用件があってさ。実はこの国に別邸を作ろうと思ったんだけど……すぐに用意できるところあるか?」
その言葉にロバートは目を丸くしてから隣で控えているマイヤと視線を合わせてから何事か聞いてきた。
「あるけど……急にどうしたんだ?あれだけ誘っても断ってたくせに」
「ちょっとね。結婚式をあげる前に住みかを増やしておきたくて」
「結婚式って……」
「うん。正式にあげようと思ってさ」
その言葉にロバートは唖然として、隣で控えていたマイヤは瞳を輝かせていた。
「式はいつの予定なのですか?」
「内々の小さな式にしようと思ってるから未定だけど……早めにあげたくはある。あ、一応言っとくけどルナには内緒で頼む。サプライズで式をあげるつもりだから」
「わかりました」
何故サプライズなのか。それはルナにさり気なく聞いたところ結婚式自体は憧れてるけど、申し訳ないというような反応をされたので、内々で進めようと思ったのだ。
この手のサプライズは喜ぶ人とそうでない人が別れるので難しいものなのだが、遥の熟知している愛しい人であるルナは、こうした方が喜ぶだろうという確信があったからだ。
こくりと頷くマイヤに対して、ロバートはしばらく頭を抱えてから言った。
「とりあえず家に関しては手配はすぐに出来るが……ただ人員に関してはあまり期待しないでくれ。あまり優秀な者が少なくてね」
「ああ。その辺は俺のツテで集めるから家の準備だけで十分だよ。それでどれくらいの金額になるか聞いてもいいか?」
「そこそこ大きなところだからそれなりの額にはなるが……いいよ。今回は僕達からの結婚祝いということでプレゼントさせてもらうよ」
「ありがたいが……いいのか?」
遥の言葉に笑顔で頷くロバートとマイヤ。
「色々世話になってるしね。なにより……大切な友人の記念に何も出来ないのはなんとなく癪だからね」
遥に恩義を感じてる二人からすれば家をプレゼントするくらいは容易いことだという気持ちだが、普段ならそんな気遣いに遠慮する遥も、ルナのために少しでも利用できるものは利用しようという気持ちと、友人からの好意をありがたく受け取ろうとという気持ちでそれに頷いた。
「ありがとう」
「気にしないでくれ。それで、あとは何か出来ることはあるか?」
「うーん……とりあえず家さえ手に入ればあとは式の準備くらいだけど、あまり大々的にはやりたくないからな。ルナもあんまり派手なのは好まないし、とりあえずこの国の教会を式の日だけ貸しきりにしてくれればいいかな?」
その言葉にロバートはマイヤと視線でやり取りしてから頷いた。
「わかった。ドレスとかはどうするんだ?」
「そこは俺がなんとかするさ」
というよりも、遥が用意したいウェディング衣装を作れる人間がこの世界にはいないだろうから必然的に遥がやるしかないのだが、この世界のドレスはやはりというか材質の問題なのかあまり上等なものがないので、遥のチートの一端を使って最高の物を拵える予定なのだ。
「そういえば、二人はいつ結婚式あげるんだ?」
ふと、気になったので遥は何気なくそう聞くと、ロバートはなんとなく気まずそうに言った。
「その……姉上と兄上が結婚式を上げるまではまだ出来ないんだよ」
ロバートの上には兄と姉が一人づついるが、次期国王に内定しているロバートの兄の結婚がロバート兄の即位と共にやるらしいのでまだ当分先になるらしい。
あとロバートの姉は他国の王子と婚約しているらしいが、先方の都合でまだ結婚式はあげられてないそうだ。つまり当分二人が式をあげることはないそうだ。
「そうか……まあ、二人の式が決まったらその時は俺がお返しに何かあげるよ」
「楽しみにしとく。というか、あんまり豪華なもの用意されても兄上達の面目もあるからそこはある程度抑えてくれ」
「別にそんなに豪華なものあげたことないだろ?」
「少なくとも携帯とかをそんな認識で渡してきたらなら問題ありだけどな……」
ロバートが遥に出会ってから、様々な常識はずれの道具や衣装を見てきたが、特に革新的だったのは遥から渡された携帯電話だった。
こんなに小型なのに遠くの人間とやりとりを出きるなど奇跡としか言いようがないほどで、これがもし、遥の魔力を必要とせずに使えていたらこの世界の常識を一新しかねないレベルの出来事なので、ロバートとしてはその辺りが心配だが……あまりその辺りを気にしない遥には届かなかったのは言うまでもないだろう。
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