第3話帝国の2人と帰ります

深呼吸し、いつものように背筋を伸ばし、踵を返した。


誰もが、ああ、またか、と言う顔で私に同情と軽蔑の目を向けていた。


私の努力が足りないのだわ。


殿下をこんな風に見せてしまったのも、説明も、気持ちも足りないのよ。


そうよ、レインの性格は昔と変わらないのだから、私の配慮が足りないのだ。


そうよ、私はスティング・ヴェンツェル。ヴェンツェル公爵家の令嬢であり、この、セクト王国第1王子ガナッシュ様の婚約者だ。


乳母の孫に怯む事なんてないわ。


そう言い聞かせる自分が、また惨めに思えた。


帰ろう。疲れたな。


ガン、と無意識に机に当たってしまいその拍子に引き出しが落ち、中の教科書や文房具が散らばった。


もう、ついてないな。


ますますへこんでしまい、落ちた教科書を拾った。


「はい」


「どうぞ」


声と共にお2人が教科書を渡してきた。


「恐れ入ります。フィー皇子様、カレン皇女様」


ログリーニ帝国から、今年留学でこの国に来ている皇族のお2人だ。双子で、小等部の時から1年毎に色々な国を留学と言う名目で監視をしていると聞く。


高等部3年の大事な時にこの国を選ばれたのは、この国が帝国にとって、最も友好国だと知らしめながらも、逆に下手な事はするな、釘を刺されているようなものだ。


だが、本当に友好国なのか?お父様や他の公爵様達は、訝しがっていた。


ともかく、この国へ来られて2ヶ月が経ち同じクラスだが、私も殿下させえも、パーティー以外は声をかける事がない特別な方々だ。


勿論後々の事を考えると、本当ならもっと知り合うべきなのだろうし、お父様達の言うように何か秘め事があるのなら探るべきなのだろうが、殿下の事で手1杯で、私にそんな余裕がなかった。


教科書を受け取りながら、お2人に微笑みそれを机の中に入れた。


「一緒にお茶行こう!」


「・・・は・・・い・・・?」


急にカレン皇女様が私の腕を掴んだかと思えば、嬉々とした顔で言ってきた。


言っている意味が分からず、戸惑う私に、


「今、はい、て言ったよね、フィー!」


とカレン皇女様は隣に立つ、フィー皇子様に確認した。


「言ったと言うか、それは返事ではなく驚いたんだろ? 無理矢理こじつけていると思うがな」


ため息混じりに、カレン皇女様の鞄と私の鞄を持たれた。


「スティング様、お茶。お茶行くよね!」


ずいと腕を掴んだまま、キツめの黒目と、威圧的な顔で私の顔に近づけてきた。


「・・・行きます」


そう答えるしかない雰囲気だった。


「よし!今度はちゃんと返事してくれたよ。さあ行くよ。フィー私達の鞄持ってね」


「持ってるよ。ごめんな、スティング様」


「いいえ。構いませんよ」


でも、何で?と言う疑問を持ちながらも、とても嬉しそうなお2人にさっきの嫌な気分はなくなり、いつの間にか私の手を繋いでくれているカレン皇女様に、心が落ち着いた。


自分の迎えの馭者に、帰りはお2人が送ってくれると告げ屋敷に帰ってもらった。


お2人の乗ってこられた馬車は、外見は清楚な感じで煌びやかさはなかったが、内装はとても乗り心地よく、上質な作りだった。


馬車の中で、カレン皇女様は驚くほどとても気さくに声を掛けてこられ、話しやすそうな方だったが、軽率な態度も返事もするべきではないと、相槌だけ打った。


もしかしたら、試されているかもしれないもの。


フィー皇子様とカレン皇女様は双子ながら顔立ちは似ていても雰囲気は全く違っていた。


フィー皇子様は金色の髪に金色の瞳でとても綺麗な優しい顔立ちだ。


カレン様は黒髪に黒い瞳のキツめの綺麗な顔立ちだ。


説明的には似てないような感じに聞こえるだろうが、並ぶと良く似ていて、やはり双子だとよくわかった。


着いたところは、私もたまに行く貴族御用達の喫茶店だった。


学園の喫茶店にでも行くのかと思ったが、考えてみれば1度もその場所でこのお2人を見かけた事がない。


あえて外しているのかもしれない。


今更だが、私もそうだが、学園の誰もが、教師さえも一線を置き、とくに親しい人がいなかったように思う。


当たり前か。


安易に声を掛ける方々ではないし、自分の一挙一動でこの国の不利になっては困る。おのずと近寄り難い存在となり、距離を置く。


お互い今までそうだったが、恐らく私と殿下の間柄を可哀想に思ったのかもしれない。


殿下は憚りなくレインとあのように話し、私に対してもあの態度だ。


レインだけが違うクラスだが、さすがに2ヶ月も経てば、わかるわ。


私だけでなく、陛下や王妃様からも注意を受けているが、変わりはしない。


本当にもう少し思慮深くなってくれたらいいのに、と思う。


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