第4話帰り2

メニューを見て、お茶やケーキを頼んだが、これまで遠い存在だったお2人が、目の前にいるのがとても不思議だった。


この方達は、立場も配慮も持っている。


何をする訳でもなく話をしているだけなのに、溢れるお2人の気品に、溜め息が出てしまう。


つい殿下と比べてしまう自分をすぐに振り払った。


間近で見ると、とても綺麗なお2人に、なんだが自分が場違いに思えて居心地が悪かった。


「ねえ、スティング様?」


「何でしょう、カレン皇女様」


「やめてよ、あなたもいずれは王族の一員なるのだから、そんな堅苦しく無くていいわよ」


王族の一員。


殿下とレインの事が脳裏に浮かび、胸が苦しくなった。


「そうもいきません。私がどのような立場に変わっても、貴方様は帝国の皇女様です」


「じゃあヴェンツェル公爵家に、スティング様が私を蔑ろにした、と文を送り付けるわよ」


「・・・あの・・・?そこまでする必要があるのでしょうか?」


あまりに突飛な発想と、拗ねたような顔に戸惑いが隠せなかった。


「カレン、子供じみた事するのはよせよ。困ってるじゃないか」


「だって、私は前から話をしたかったのよ!それをあんたがいっつもいっつも、邪魔してくるからこんな時期になったんでしょ!?元々あんたがうじうじして」


「カレン!」


何故か慌ててカレン皇女様の名を呼び、睨みつけた。


「ふん。だったら私とスティング様の仲を取り持ちなさいよ。そういうの得意でしょ」


「・・・わかったよ。スティング様」


「は、はい」


「急ですが私達の友人になって欲しいのです。友人と言っても国同士の付き合いではなく、学友として接して欲しいんだ」


「あの・・・私とですが?そこまで仰る程の理由が解りません。正直お話をさせて頂いた覚えもなく、同じクラスでありますが、差程接点もありません」


「そうだけど、俺達は仲良くしたいと思っているんだ」


「フィー、もっとはっきり言ってよ!まどろっこしい。私が言うわ!ねえ、スティング様その髪型、ビビ、だよね!?」


その名前にピンときた。


と言うよりも、恥ずかしくて、顔が熱くなってきた。


「仰る通りです。私では無く、私付きの召使いのクルリが大変好んでいまして、私がその小説に出てくるビビに似ているから、と髪を似たように結っているのです」


クルリは代々我が家で働く、執事の孫娘で、今年23歳のソバカスの似合う赤毛の元気なメイドだ。


歳が近いおかげで、話しやすいし、公の場では、さすが執事の孫娘、と感心する落ち着きで振舞ってくれる。


そのクルリがとても大好きな推理小説だ。


ビビはその推理小説の登場人物なのだが、女主人公のリオンでは無くその親友の女性なのだ。行動派で無鉄砲の主人公をいつも冷静にさせ、一緒に犯人を探し出していくのが、親友ビビ。


結構人気のある小説らしい。


顔はともかく、設定の歳も一緒で、薄い茶色の瞳に、緑色の緩いウエーブの髪。そして耳にかかるように一筋の紫の髪の色で三つ編みをしている。


元々が目の色と髪の色が同じでウエーブだったから、クルリが嬉しそうに、紫にしますね、と言って三つ編みの部分だけ染めた。


少し恥ずかしかったが、出来上がりは特におかしくもなかったし、家族からも似合っている、と言われたからそのままだった。


「やっぱり!私も好きなのよ!前々からそうじゃないかと思ってたのだけど、誰かさんが恥ずかしいからそんな事聞くな、と言ってくるから聞けなかったんだよね」


誰かさんとは、もちろんフィー皇子様の事だろう。


やれやれといった顔で、私に相手してあげてと微笑んだ。


「スティング様は読んでないの?」


「読みました。ですが、主人公の活発というか、あのようなはっきりした性格が私には理解できなくて、感情移入が出来ずらく・・・その・・・」


「うんうん、やっぱりビビにそっくりだね、スティング様は」


目をキラキラさせながら私を見てくる所、本当にその小説がお好きなのだろう。


「俺は読まされたけど、カレンはリオンにそっくりだから好きなんだろうは。あの破天荒で自分勝手で、好き放題。カレンにそっくりだ」


「何言ってるのよ。女だからって大人しくする必要は無いのよ。もっとはっきりと言うべきよ、ね、そう思うでしょ、スティング様も」


えーと、そう同意を求められても、私さっき感情移入しにくい、と説明した、よね?


それに、帝国の皇女様だからある意味、好きなように出来るだろうけど、貴族の息女は、淑女としてしとやかにしなければいけない。


「困ってるだろ?ほら、ケーキ来たから大人しく食べろよ」


「あんたに聞いてないし。スティング様、今度遊びに行ってもいい?」


ぐっ、お茶を詰めそうだった。


今なんて言った?


いや、聞き間違えだ。


だって、さっき話をしだしたばかりの人に、それも帝国の皇女様に、


今度遊びに行ってもいい?


とか、そんな言葉を私にかける筈がない。


今度、遊びませんか?だよね。


うん、それだ。


「で、明日でいい?それとも週末がいいかな?ねえ、フィーはどっちがいい?」


え?


待って?


明日?週末?


どうも聞き間違いではないらしい。


「どっちも、でいいんじゃないか?」


え?


そこはフィー皇子様、何故即答なのですか?


「これで、やっとお母様に手紙が書けるわ。友達になったよ、とね。ねえ、フィー」


なんだが意味深に笑いながら言うカレン様に、フィー皇子様はカレン皇女様睨んでいた。


「ともかく、スティング様大丈夫?話についてきてるか?」


「・・・全く・・・意味が分かりません」


「スティング様、明日はその召使いも呼んでね」


「・・・わかりました」


「おっし!!やっと楽しくなってきたよ」


「俺もだ」


えーと?私は?


「ねえ、スティング様。私のケーキと半分こしようよ。それ食べてみたい」


「俺も」


「じゃあ皆で分けようか。3種類食べれるね」


「・・・わかりました」


「じゃあ俺が分けるな」


そう言うとフィー皇子様がそれぞれのケーキを3等分仕分けてくれた。


手馴れた感じだったので、お2人はいつもこうやって分けて食べているのだな、と親近感を覚えた。


私とお兄様も同じことするもの。


美味しい、とお2人は食べていたが私は、ケーキもあまり喉を通らずお茶ばかり飲んでいたら、カレン皇女様がそれに気づき、なんと、フォークにケーキを刺し、


「ビビあーんして」


と言ってきたのだ。


はい!?


「・・・それ載っていたな」


「覚えてた!?友達、と言うのはこういうのするんでしょ?」


カレン皇女様の、友達と言うのは、と言う言葉にとても共感をもった。


私も友だちらしい友達はいない。


この方達は立場的によりそうだろう。


私は、殿下の側にいたくて、そんな人達を作る時間がなかった。


お茶の時間はとても楽しかった。


不思議に3人でお喋りしていると、いつの間にか、


フィー様、


カレン様、


呼ぶようになっていた。


私達は、友達、というものに飢えていたのかもしれない。





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