第10話断れないお誘い

「柳葉先輩……夏休みは、何かご予定があったりしますか?」

「えっいや、特には……澪詩さん?」

「……っ、でっ、でしっ……たら、夏祭り、にぃ……行きまっ、せんか……?」

「う、うん。いっ行こっか……夏祭りに」

「あっ……あり、がとうぅ、ござい……ます。ふぅー……」

頬を強張らせ、緊張した面持ちのままにお礼を言い、安堵する息を吐いた澪詩。

「俺を誘ってくれたのは嬉しいけど……澪詩さんなら、てっきり同級生とかに誘われてるのかと……俺で良いの?中学最後だし、俺で……」

「良いんです。柳葉先輩が良いんです、柳葉先輩とじゃなきゃ……なんですっ!柳葉先輩と……夏祭りを楽し、みたいから誘ったんです。……言わせ、ないで……くださいよぅ、先輩の……ばかぁ」

「ごめん、澪詩さん……傷付けて、ごめん……」

「……私の方こそ、酷いこと言ってしまいました。ごめんなさい、柳葉先輩ぃ……」

「澪詩さんが謝ることは……ごめん、澪詩さん」

「……っうぅ」

俯き顔を上げない彼女の表情は、みずとも歪んでいることくらい解る。


俺には、嗚咽を漏らし泣き始めた彼女を慰めることは出来やしない。

俺に、そんな資格が無いことを突き付けられた気がした。


以前の澪詩恵かのじょは親に反抗してまで、夏祭りに誘ってくれた——今度こそは、彼女のふりしぼった勇気に、応えたい。


これ以上、彼女を泣かせるわけにはいかない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る