◆会議はいつもオレの部屋で
その後、
なんでも友達に内緒にするのは心苦しいとかなんとか。
その気持ちはよくわかる。オレも李奈に提案されなかったら自分から提案していた。
それに、付き合ったことを報告すればヌエと美波が付き合いだしたら報告せざるを得ない状況を作ることにもなる。
二人の反応は「やっと付き合ったのかよ」「既定路線だよね」みたいなことを言われた。
それでも手放しに喜んでくれたあたりは人の好さを感じる。
風呂が長かったことに関して触れないでいてくれたことも好感が持てる。
言い訳を作るのには苦労するしな。あんまり質問攻めされるとボロが出るかもしれないから良かったのかもしれない。
部屋の清掃も終わっていたので、ほどなくして解散の流れとなった。
三人が帰った後、ほどなくしてインターホンが鳴った。
「夜分遅くにすみません。私、
インターホンのマイク越しにそんな可愛らしい声が飛んできた。
「そういうのはいいから。あと、夜分遅くないから」
ドアを開き夕日で赤く染まったオレの彼女を招き入れる。
オレの彼女か。なんか新鮮な響きだな。彼女かどうかを曖昧だけど。
「何も訊かずに上げてくれるんだ」
「どうせこれからのことだろ。それにオレからも訊きたいことがあるしな」
「それじゃあ遠慮なく。お邪魔します!」
「はいはい、お邪魔されます」
「ホントにお邪魔ならまた後日でもいいんだよ」
「いや全く邪魔じゃないし、むしろちょっとお邪魔されたいし」
「お邪魔されたいって何?」
おかしそうに笑いながらスニーカーを脱いでいく。
あれ、李奈ってスニーカーなんて履いていたっけ、この季節はいつもブーツの印象なんだけど。
李奈を二階にあるオレの部屋に案内しながら、そんな疑問が頭をよぎる。
「どうして今日はブーツじゃないんだ」なんて訊いたらまたからかわれてしまう。ここは黙っておくのが吉だろう。
「さて、それじゃあ本題に入ってもらおうか」
李奈を椅子に座らせるなり、アイシングトークなしでいきなり切り込む。
「いきなりだね。まさか本当にお邪魔だった」
「早くしないと両親が帰ってくるからな」
「それもそうだね」
座布団にお行儀よく正座した李奈が神妙な面持ちで話し始める。
どうやらここからはシリアスが展開していくのだろう。
「まず、私はおとこの娘になって二股している」
「お、おう。改めて言われるとなんかすごいな」
風呂場での衝撃がまた身体を襲いそうになり、身を固めてしまう。
何度聞いてもインパクトがすごいからな。
「そして、二人のことが好きだから付き合っている」
「大丈夫だ。そこは疑っていない」
「ありがとう」
「そして、オレにおとこの娘であることを秘密にしてほしいと」
「よくわかったね。その通りだよ」
あたりまえだ。どれだけ李奈をみてきたと思っている。この程度の李奈の考えぐらい予測はできる。
さすがにおとこの娘になったのは予想が出来なかったが。
「そして都合がいいのはわかってるんだけど、できればみんなにばれないように私のことを守ってほしい。ダメかな?」
上目遣いでお願いをしてきた。
その姿はまるで薄幸の美少女のようだ。たぶん狙ってやってはいない。
「わかった。守る」
即答だった。
いまのが李奈の本題だったのかはいうまでもない。先に問題が分かっていれば答えもすぐに出るというのものだ。
だが、速すぎたのか李奈が唖然としてしまっている。
「…… 少し速すぎない。私が言うのもなんだけど、もう少し考えた方がいいよ」
「カモフラージュには適しているんだろ?そういわれるのは予想していた」
「そうだとしても、速すぎない」
「足が速いからな」
「足の速さと口の速さは関係が無いように思えるけど、あと頭の回転の速さも」
若干心配になったのかうなだれるている。
「でも、真面目な話、よく考えた方がいいよ。この提案受けるメリットが悠聖にはない気がする」
「メリットは李奈と付き合えること。それさえあればあとは何もいらないよ」
「悠聖」
「それにな。女の子が守ってほしいと言ってきたんだぞ。これに応えないなんて男じゃないだろ!」
このセリフにピンッときたのか顔を上げてオレを直視してくる。
「悠聖」
「え!」
唐突に李奈の顔が迫ってくる。
困惑するオレに対して李奈は真剣そのものの表情でさらに顔を近づけてくる。
このままでは唇と唇が触れ合ってしまう。
いいのかこのままキスをしてしまって。
二人の顔が近づくにつれ李奈の甘い吐息が鼻腔をくすぐる。
近づくピンク色の唇。
触れてみたい。その柔らかくて艶やかな唇に。
思えば初体験のときにはキスはしなかったな。あの後キスしなかったことを後悔してベッドの上で悶絶した記憶がある。
そうなるとこれがオレの人生のファーストキスになるのか。なんか緊張してきたな。これ以上のことをすでに経験済みとはいえやはり初体験はドキドキする。
オレはゆっくりと目を閉じる。
さあ、李奈。オレはいつでもいいぞ。どこからでもかかってこい。
両手でつかまれるオレの頬。
そしてついに!
「悠聖!ボクはおとこの娘だ!」
李奈の力強い声が甘い意識を覚醒させる。
意識の覚醒と同時に体中に血がめぐっていくのが分かる。
主に顔や耳を中心にして。
いいか李奈。そんなことはな。
「わかってるよ!知ってるよ!」
「知ってるなら!女の子扱いするな!!」
「悪かったって!まだ慣れてないんだよ!」
照れ隠しで若干キレ気味で返事をしてしまう。
オレにつられたのか李奈も怒っている感じがする。
「それになんでわざわざ目を閉じたんだ。ボクの話を聞く気が無いから目を閉じたんだろう!」
「……それは……そのぉ、お前の顔が近づいてきたからキスだと思ったんだよ」
「何を言っている?今の話の流れでキスをする要素はなかったはずだ!」
「女の子の顔が近づいてきたら男なら誰だってキスだと思うんだよ!」
「また女の子扱いした!」
どうやら李奈は自分が男になったことにある種のプライドやら自尊心があるようだ。
故に女の子扱いされることに憤りを感じているのだろう。
こんな李奈をみれるのは秘密を知った者だけの特権だな。
役得だと思うことにしてここは素直に謝っておこう。
「ごめん。ごめんて。これからは女の子扱いはできればしないから」
「できればじゃなく。絶対に!」
「わかった。わかったから落ち着いてくれ」
納得したのか。オレから離れて座布団に座り直す。今度は正座ではなくあぐらを組んでいる。
「それにしてもお前怒ると口調変わるんだな一人称も『ボク』になってるし」
「ああ、これはおとこの娘モードだ!」
「おとこの娘モード?」
なんじゃそれ。
「せっかくおとこの娘になったんだから男の子っぽくなりたくてこのモードを開発した」
なんなのこいつ。中二病なの?遅れて発症したの?おとこの娘にも中二病は存在するの?
「できれば悠聖と二人っきりのときはこのモードいかせてくれ」
「それはいいけど、疲れないのか?」
単純な疑問だった。おとこの娘モードは一つの役を演じるようなものだろう。疲労感は相当なもののはずだ。
何かを演じるのは気力体力ともに使うからな。オレも学校では優等生を演じているのでその気疲れはよくわかる。
そういえば李奈も優等生を演じている印象だな。
一人三役を演じるということか凄まじいな。
「疲れはするけど、それ以上に楽しいから問題ない!」
屈託のない笑顔で言ってきた。
めっ可愛じゃん。
思わずときめいてしまった。
おとこの娘モードでもその笑顔は女の子の笑顔そのままだった。
「でも、このモードはあくまでボクの妄想なんだ。男の子についてボクは何も知らない。この身体になってから悠聖やヌエ君を観察していたけどよくわからないんだ。だから、悠聖…… ボクに男の子を教えてほしい!」
さっきリビングで李奈に観察されていたのはそういうことだったのか。
「……オレでよければそれぐらいは教えるよ。李奈の役に立つならうれしいからな」
これも秘密を共有した彼氏の特権だな。
これもまた役得と考えておこう。
ところで男の子を教えるってなに?
エッチな意味じゃないよね⁉
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