第22話 いざ勝負!

 待ちに待った文化祭がついに始まった。

 俺たちのクラスも制作物の最終チェックを終え、花火のBGMを流し準備万端だ。お客さんが来るのをソワソワしながら待っていると、各クラスも準備が整ったのか、次第にお客さんが入り始めた。


「わっ! すご〜い! 花火大会の会場にいるみたい!」

「おぉ、いい感じじゃん! 俺、塾があって夏祭り行けなかったから、この演出は嬉しいかも!」


 みんなで頑張った甲斐もあり、お客さんの反応は上々のようだ。

 交代で案内係をしていると、呼び出しのチャイムが鳴り、スピーカーから放送部のアナウンスが聞こえてきた。


『ミスター&ミスコンのクラス代表の皆さんは準備を済ませ、中庭ステージ裏にお集まりください』



 奏よりも先にステージ裏に着いた俺は、他のミスターコンの出場者と一緒に列に並んだ。

 ステージの反対袖には思い思いの衣装に身を包んだミスコンの出場者たちがいる。その中でひと際目立っているのが東雲だ。東雲は華やかなドレスを着て自信満々に立っている。


 先にミスターコンが始まった。ステージに上がると黄色声援をこれでもかというほど浴びた。

 自己紹介のあと、自己PRとして《カッコいいポーズをとり、観客に甘い言葉をささやく》というお題が出され、死ぬほど恥ずかしい思いに耐えながらも何とかやり切った。


 ミスターコンの結果発表はミスコンと同時に行われるため、出場者たちはそのままステージ上で待機する。次のアナウンスでミスコン出場者がステージに上がって来た。


 ミスターコンの時よりも野太い声援が飛び交う中、東雲が満面の笑みで手を振っている。奏の姿はまだ見えない。


「最後にステージに上がった子かわいくない!?」

「えっ!? あれって音羽さん?」

「……マジ?」


 みんなのざわめきを頼りに列の最後尾を見ると、そこにはスレンダーラインのドレスに身を包んだ奏がいた。

 ゆるやかなウエーブの黒髪は左肩にまとめられている。緊張しているのか固い表情がクールさを演出し、大人っぽい雰囲気を醸し出していた。

 東雲を応援していた観客たちも、これまでの奏からは想像もつかない姿にざわついている。


 ミスコンは自己紹介のあと、自己PRとして《最高にかわいいポーズと笑顔を披露する》というこれまた恥ずかしさの極みのようなお題が出された。


 予想どおり東雲は余裕でお題をクリアした。

 各クラスの代表が順番に呼ばれ、いよいよ奏の番がきた。俺はハラハラしながらその姿を目で追う。


 無理矢理ミスコンに出された奏がこのお題をクリアすることは難しいだろう。“やはり東雲の圧勝か……”と思った次の瞬間、奏はアイドルでも憑依したのではないかと思える程の身の動きと最高の笑顔を見せ、一瞬で観客の心をわしづかみにした。


「音羽さん、ありがとうございました!

 それでは審査の時間になります! 校長先生と文化祭実行委員、観客の中から無作為に選ばれた十名の生徒による投票で結果が決まります! 出場者の皆様は結果発表までそのまま少しお待ちください」



 司会者の場をもたせるための軽快なトークを聞きながら待っていると、5分程で結果を書いた紙が司会者に渡された。


「それでは結果を発表します!」


 スピーカーからドラムロールが流れ、観客席がしんとなる。


「ミスターコン優勝は匹田響くん!」


 俺は前に進み出て、声援を送ってくれる観客に一礼した。


「続いてミスコン優勝は――」


 再び流れ始めたドラムロールの中、みんなはワクワク顔で出場者たちを見比べる。


「優勝は音羽奏さんです!」


 俺は急いで奏の方を振り返る。奏は手を口に当て、‟信じられない”という表情で固まっていた。すると東雲が奏のそばに行き、『おめでと! あとは頑張れ!』と言って奏の背中を押した。


「さっそく優勝したお二人にインタビューをさせていただきます!」


 奏が俺の隣に立ったのを確認し、司会者は俺にマイクを向けた。


「では匹田さん、選ばれた感想をどうぞ!」

「えっと……、選んでいただきありがとうございます。嬉しいです」


「続いて音羽さん! “学年一”と呼ばれている東雲さんを押さえての優勝ですが、今のお気持ちはいかがでしょうか?」

「ありがとうございます。……あの、私と美歌ちゃんは今回ある勝負をしていて……、今お時間を少しもらってもいいですか?」

「えっ!? あっ、どうぞ?」


 奏は俺の方を向くと、深く息を吐いた。


「いつも支えてくれてありがとう。私は響のことが好き……です」


 突然の出来事に俺は目を見開き、司会者はマイクを落としそうになる。


「おおっとー! 突然の告白だぁぁぁ! 匹田くんはどうする――」


 興奮して慌てる司会者を無視し、俺は奏の手を取った。


「な、なぁ、今のほんと? 変なジンクスに合わせて無理矢理とかじゃなくて?」

「変なジンクス? あぁ、あれね……。響も知ってたんだ? でもジンクスは関係ないよ。私にとって響はずっと特別な人だった」


 俺たちのやり取りを確認しつつも、司会者は神妙な面持ちで東雲にマイクを向けた。


「勝負をしていたという東雲さん、目の前で振られた形になってしまいましたが……」

「全く問題ありませ〜ん! だって私、彼氏いるし〜!」


 突如衝撃的な事実を公表した東雲は、笑顔で誰かに向かって手を振った。みんなが一斉に後ろを振り向く。その先にいたのはなんと禅だ。俺は驚きのあまり大声を出した。


「えぇぇぇ!? お前たちいつの間に付き合ってたの!?」

「美歌ちゃん! 騙したの!?」

「響くん、奏ちゃん、ごめんね〜! だってこうでもしないと二人はいつまでもあのままでしょ? それよりも響くん! 奏ちゃんに返事しなきゃ!」


 『あぁ、そうだ!』と気を取り直し、俺は改めて奏と向かい合う。


「先に言わせてごめん! 俺も奏のことずっと好きだった! 【カラフル】の活動が終わっても、俺の彼女としてずっとそばにいてください!」

「……本当に私なんかでいいの?」

「当たり前だろ! で、返事は?」

「はい、これからもよろしくお願いします」


 前代未聞の公開告白の場となってしまったが、今年のミスター&ミスコンのステージは大盛況のうちに終了した。

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