直文
あの子は蛇人の姿で現れていた。
彼女の口から全てを思い出したと聞き、俺はまた
彼女は全てを思い出して、俺の隠し事を見破る。
俺が悪いのに彼女は悪くないと言う。彼女は泣きながら自分の身の上を話す。俺をここから追い出そうとしていた。
此処から去れない。俺は彼女を救いたい。
俺に彼女は表情を与えてくれた。神と名乗る化け物をその身で封印している彼女。優しさ故に身を
ほっとけない。助けたい。
強引に追い出そうと彼女は蛇となって、襲い掛かろうとする。
俺は妖怪と戦い慣れている。彼女であるから怖くないけれど、泣いている女性の
両手を広げて、受け止めた。抱き締めて、彼女を受け入れる。悲しみと負わせてしまった心の傷を受け入れる。彼女の気持ちの全てを受け入れたかった。
肩を噛まれたときは痛かったけど、どうってことはない。彼女は驚いていた。俺は彼女を抱きしめて感じる。肌は蛇の感触とはいえ、その奥にあるのは彼女の温かさ。
謝って、
彼女の涙を指で拭いて、彼女の蛇の舌が俺の肩の傷口を拭う。痛くないように、血だけを拭き取ってくれていた。くすぐったくて身をよじると、彼女は不安げに見てくる。
安心させて、自身の傷を癒やす。その後に俺は彼女に説明をした。
頓与殺の化け物から彼女を剥がす。一部である為、苦痛は感じるだろう。まだ不安がある彼女の気持ちをほぐす。
大丈夫。絶対に君を救う。君を守る。君に花火を見せると。
化け物扱いをしないのかと訪ねるが、君は化け物ではない。口でいいかけて、俺は先を言うのをやめる。
むしろ、化け物は俺の方だ。
俺は妖怪だけでなく、人を殺している。酷い殺した方したこともある。仕事の一貫とはいえ人を殺しても、殺したあとでも俺は何とも思わない。
彼女は人を傷付けて苦しんで悲しんだ。まだ彼女は人だ。俺は彼女を人として、天に送りたい。合図が聞こえて、俺は彼女に準備をするように言う。
彼女は苦しみ始めた。痛そうだった。舌を噛みそうで怖い。代わりに俺の反対側の肩を噛むように言う。一瞬
鋭い痛みはなく、背中に手を回される。
驚いて彼女を見ると、人の姿に戻っていた。ああ、彼女から化け物が引き離れつつある。だが、殺気を感じた。彼女を捕まえようとする殺気。封印した彼女を殺すか、取り込むつもりか。
させない。させるつもりはないっ!
「
彼女と俺の中に光を出して、頓与殺の化け物から遠ざける。地の底から悲鳴が聞こえた。彼女を通して痛みを与えている。この光は穢れのあるものにしか痛みを感じない。
完全に引き剥がれてはないが、後もう少しだ!
「
彼女は天に、お前は
意識を失った彼女をつれて、村から出ていく。
彼女を村から出せる。つまり、
横抱きにして、彼女の顔を
「お疲れさん。その子を預かるよ」
「ありがとう」
「丁重に扱うから任せて」
彼女を引き取ってもらい、俺は村の方向を向く。頓与殺の神社があった部分から、建物を壊して化け物が突き出てくる。
人の顔を持った蛇が、人の脚を多く生やしていた。多くの手と、蜘蛛のように幾つの目がある。
今までの巫女──身内を取り込み、人を食ったのだろう。どれだけ彼女を苦しめたのだろう。
身のうちから
俺は声をあげた。
人ではない鳴き声。高い笛の音を出す。
人の耳を無くす。代わりに竜の耳と二本の角を生やした。黄金の瞳に長い髪はほどかれる。武官の軽装と申し訳ない程度と鎧と皮の靴。
白い首巻きをつけ直して、俺は宙に浮かぶ。
「行ってくるよ」
「……なおくん。分かりやすくなったね」
「えっ? もっくん。顔に表情が出てたのか?」
驚くと茂吉は楽しそうに笑う。
「うん、スッゴク鬼の形相。いいね、殺る気満々じゃん。
……何度もやれるというわけではない。麒麟の血のお陰で、俺は優しいと言われるのかもしれないな。
考えている内に、茂吉は変化していた。人の耳をなくして狸の耳と尾っぽを生やしている。僧侶に似た着物に包まれていた。もっくんはにこやかに笑う。
「安心して行ってこい。なおくん。
「ありがとう。もっくん」
感謝して、すぐに
最初は飛んでいこうと思った。彼女の封印の関係で、変な刺激を与えたくなかった。もう思い出してしまったため、言い訳にすぎない。
俺は
[貴様、半妖だったか]
知っている口ぶり。なるほど、彼女を通して俺の行動を見ていたか。茂吉が俺を置いていって正解のようだ。俺の姿を見て、化け物の口がにたりと笑みを形作る。
[麒麟の半妖か。面白い面白い。貴様を食えばどれだけ力を得るか]
「
あの人の方が魔を喰らうからましだ。素直な感想に化け物は不機嫌そうな顔をする。舐めているのかと言う顔だ。
[誰かは知らんが比べられては困るなっ!]
俺に向かって、液を吐き出す。避けると、液が当たった森の辺りが溶け始める。
溶解液か。ああ、生物の住み処と木々がやられたな。そんなことを考えて、俺は数本の針を宙に出して両手でつかむ。言霊を吐く。
「
針が紅く輝く。
勢いをつけて飛ぶ。化け物は溶解液を吐き出し続けるが、避けながら化け物に針を投げつけた。足と手。顔に数本深く刺さり、痛みにより化け物の顔が歪む。液を吐かなくなった所で攻撃を仕掛けた。
「
指を鳴らし言葉を吐くと、針の刺さった部分が光り出し、爆発し始める。
[ぎぃぃぁぁぁっ!]
化け物は悲鳴を上げた。
痛いだろう。苦しいだろう。だが、彼女を苦しんだのはこんなものではないはずだ。彼女の苦しみは彼女にしかわからない。それでも、相応の苦しみを与えられるはず。
だとしたら、一気に殺すなんて
俺は懐から四枚の紙を出す。人の形をした物。赤い文字、青い文字、黒い文字、白文字で書かれたもの。式神の札。これには先輩の力を込めて貰った。宙に投げて、言霊を吐く。
「
俺の姿をした式神が現れた。色違いの俺が複数いるのも滑稽だな。式神の俺は化け目を見て、怒りの形相を向ける。鋭い眼光を、殺意を化け物に向けている。ああ、俺はあんな顔をしていたのか。式神は俺の感情と連動していた。
さぁ、なめた化け物を苦しめよう。
俺はきっと鬼の形相であの化け物を見ている。
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