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「私、猫は嫌いなの」と(珍しく少し)嫌な顔をして仄は言った。

「僕は猫は好きだよ。猫だけではなくて、動物は全部好きだけど」と仄の隣で素直は言った。

「それも知っている」と仄は言った。

「仄ちゃんはなんでも知っているね」と素直は言った。

「私が知っていることなんて、本当に少しのことだけ。知らないことのほうがずっと、ずっと多い」と仄は言った。

「そうなんだ。僕にはそんな風には思えないけどな」とにっこりと笑って素直は言った。

「本当。たとえば、小学校にいったことのない私は小学校のことをなにも知らない。知識としては知っているけど、それは本当に小学校という場所はどういう場所なのか、知っていることにはならない」と仄は言った。

「なら、小学校に通えばいいよ。仄ちゃんは僕と同じ教室だし、ほかの教室のみんなとも、きっとすぐに友達になれるよ」と素直は言った。

「……うん。ありがとう」

 そんな素直の言葉を聞いて、(ちょっとだけ、顔を赤くして)仄は言った。

「私、猫は嫌いだけどお魚はすごく好きなの」と仄は言った。

「魚。僕は魚も嫌いじゃないけど、やっぱり陸上で生活をしている動物のほうが好きかな? 海の中で暮らしている魚だけじゃなくて、空を飛ぶ鳥よりも陸上の動物のほうが好き。大地の上を走り回っている動物たちが好きなんだ」と素直は言った。

(それも知っている、と言おうとして仄はやめた。素直がすごく幸せそうな顔をして、大地の上を走る動物たちの空想をその頭の中でしていたからだ)

「魚の絵をよく描いている」と仄は言った。

「魚の絵?」素直はいう。

「うん。魚たちの絵」仄は言う。

 素直は部屋の壁一面に描かれている奇妙な魚たちの絵を見る。

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