第38話 星を見る魔法
西の都に辿り着くまでは、結構な日数がかかる。
でも、僕らは道中に困ることはなかった。この辺りは魔物が少なく、遭遇したとしても魔法で作ったゴーレムがさっさと倒してくれるので、僕とリナリアが戦うまでもなく終わるからだ。
それからこの辺りには村が多く存在していて、観光名所もそれなりにいっぱいある。村を出てしばらく歩いたらまた村、という感じなので寝床や食事にも困っていなかった。
「キーファさんのゴーレムって強いですね。しかも、とても凛々しいです」
「あはは。なんていうか、造形には昔からこだわっちゃうんだよね」
僕とリナリアは、身長四メートルはあるゴーレムの肩に乗り、のんびりと山道を移動している。ズシンズシンと存在をアピールしながら巨体が進む。すると付近にいる魔物や動物達は怖がって近づいてこない。
ムリーロや悪魔騎士との戦いを経て、以前よりも魔力が上がった気がする。それと、あの後王様からいただいた実を早速食べてみたんだけど、ありとあらゆる能力の限界値が上がっているようだ。
だからゴーレムも前よりも強く大きいものを生み出せるようになったし、一度に何体も作れる。リナリアも以前より強くなったのだとか。僕は気になって詳しく質問してみた。
「そうですね。全体的に身体能力が上がったのと、魔力も増えたみたいです」
「やったね。僕と同じだ」
ううーん、喜んでいいのかな。若干濁した表現だったけど、前よりも怪力になっちゃったってことか。なんか、コンプレックスだったみたいだけど……。そういえばちょっと顔赤くなってる。
「あの、それと一つだけ、新しい聖剣を呼べるようになりました」
「えー、凄いじゃん。本当に剣聖になれそうだね!」
彼女は十二分に資格を持っている。あとは実践経験を積んで腕を磨いていけば、もしかしたら歴史に名を残すくらい強い剣聖になれるかも。なんて羨ましいんだろうか。
「いえ、私なんて全然です。キーファさんは、なにか新しい魔法を覚えたのですか」
「うん。まあ二つくらい、かな」
「あのっ。良かったら、見せていただいても宜しいでしょうか」
まあ気になっちゃうよね。魔導書に載ってはいたけれど、魔力量の関係などで使えないものはまだまだある。でも、今回新たに二つできるようになったと確信していた。僕は一旦ゴーレムの肩から飛び降りると、少し歩いてから振り返る。そして軽く詠唱を終えると、杖を下に向ける。
「アース・タワー」
土がズンズン盛り上がり、僕の足場が高くなっていく。高台を自分で作れるっていう、まあ便利な魔法ではあるのかな。
リナリアは目を丸くして固まっていた。
「わああ! 凄いです。楽しそう」
「うん。かなり見晴らしが良くて、気持ちいいかも」
これさえあれば道に迷った時も安心。でも冒険にはそこまで使わないのかな。結局旅行より冒険のことを考えてしまう自分自身に、僕は苦笑せざるをえない。
悪魔騎士達と戦って再確認したことがある。僕はやはり冒険が好きで、魔法が好きなんだと。もっと沢山覚えてみたいし、磨いてみたい。
でも、その時期はまだ先でいいかな。とにかく今は、羽を広げて楽しい旅行をしたい。
「あの、もう一つの方も見せていただいても」
「あ、うん。いいよ。ただ、これ危ないやつだから、ちょっと待っててね」
僕はアースタワーを更に高くして、周囲を見渡してみる。今回覚えたもう一つの魔法は、大地を操るというよりも、大地に呼び寄せるという表現が合っていた。初めて試すけど、被害が出ないように気をつけなくちゃ。
登ってきた山道を降りた先には草原があり、今はどう見ても誰もいないようだ。ここからはかなり距離が離れているので、あそこが目標でいいだろう。この魔法を安全に使用するためにはけっこうな距離が必要になる。僕は普段より少し長い詠唱を開始した。
正直ちょっとドキドキしている自分がいる。この魔法は地属性の中では、きっとかなり派手な部類に入ると思う。
詠唱が終わり、僕は杖を空へと上げた。
「アース・メテオ」
少ししてから昼間の青空に、キラリと一つの光が現れる。それは白い線状の輝きを残しながら目標の場所へと落ちていく。光はやがて七色に輝き、小さな星はまるで宝石に包まれているように煌めいていた。
リナリアはその光ずっと見つめ続けている。
「どうかな? わりと派手な感じで、」
「ファああ! やっと見つけ———っ」
そんな時、僕はどこかで聞いたことがあるような叫びを耳にした。
「え?」
ふと周囲を確認するけれど、リナリア以外に誰もいないようだ。ドスン! と小さな星が草原に落ちる。
「あぁあーーーー!?」
「え、え?」
僕は正直焦った。もしかして誰かに魔法を当てちゃったのかも!? すぐに星が衝突した草原を見たけれど、とりあえず誰もいないっぽい……。いや、森のほうに何かが吹っ飛んでいたような気も……。
「大丈夫……だよな」
もしかして僕の気のせいかな。とりあえずかなり遠い距離だったけど、アースリターンで草原を戻してみる。あまりにも遠くなので時間はかかってしまう。
うん、多分大丈夫。きっと大丈夫。僕はハラハラしつつも自分を納得させた。もし当ててたら草原に何かしらの跡があるはずだけど、特にないみたい。もしかして幻聴だったのかな。
その間に、ようやく時が動き出したかのようにリナリアが喜んだ。
「素敵です! 私、こんなに美しい魔法を拝見したのは初めてです!」
「いやいや、そんな。大袈裟だよ」
「いいえっ。最高でした。私、感動しました」
僕を見上げる彼女の顔は、なんていうか一点の濁りもないような微笑みだった。きっと青空よりも透き通っているであろう瞳は、メガネの奥からでも光を放っている。
それからはアースタワーも解除して、またゴーレムに乗りながら景色を楽しんでいた。
僕は青空を眺めつつ、これまでのことをぼんやりと考える。
ジャック達に追放されてから、一人でグレイスの港まで行って。それからリナリアと知り合って、巨大な魔物と戦うことになって。いろんなことがあったけど、肝心のポルカ島はまだ先だ。
「あそこでお昼休憩しようか。と言っても、僕ら全然歩いてないけど」
山の頂上付近に木で作った屋根とベンチ、それからテーブルがあった。ここが旅人用の休憩スペースになっているみたい。僕らはゴーレムから降りて食事をすることにした。
「あの、実はサンドイッチを作ってみたのですが、いかがでしょうか」
「お! いいの? ありがとう!」
リナリアはなんだか楽しそうに、袋からバスケットを取り出した。中に入っていたサンドイッチ達は、三角形のパンの間にいろんな仲間を引き連れている。トマトや野菜、卵や鶏肉、イチゴにパイナップルなどいろいろな種類があって、僕は夢中になって食べまくった。
「美味い! めちゃくちゃ上手じゃないか」
「いえ、まだまだ未熟です。でも、嬉しいです」
彼女ははにかんでいるみたいだった。その後はサンドイッチのことや食材について、これから向かう西の都はどうとか談笑をしていた。そんななか、僕は一つ気づいたことがある。悪魔騎士との戦いの時に気づいたことなんだけど。
「そういえばさ。リナリアはどうして、度がない眼鏡をつけているの?」
「あ、ご存知だったのですね。これは……その。あんまり良くない顔かなって」
「え? そんなことないと思うけど」
「でも、姉様が……」
言いかけたが、彼女は結局語らなかった。お姉さんがどう関係しているのか知らないが、そんなことする必要ないと僕は思う。
「君はいい顔をしてると思うよ。もし無理をして眼鏡をかけているなら、外しても全然大丈夫だから」
「あ、ありがとうござい、ます」
ぎこちない感じではあったけれど、彼女は落ち込んでいた感じは消えた。それからもう一つ。
「うん。それとさ、僕には別に敬語とか使わないでいいよ。そのほうが気楽だし」
「え……いい……の?」
ニッコリ笑って頷いてみる。余計なお世話かな? どうなんだろうと少しだけ緊張している自分がいる。
リナリアはサンドイッチを両手で持ったまま、少しの間固まった。そして細い首をコクンと縦に振った。
その後、僕は思わず見惚れてしまった。お花畑みたいな満面の笑みを、初めてリナリアが見せてくれたからだ。こんなに人を幸せな気持ちにしてくれる笑顔を、彼女は持っている。
誰にも気づかれないほど薄かったリナリアの存在感は、この時から明るく大きくなっていった。
【二章完】落とし穴ばっか作ってんじゃねえ! と怒鳴られ追放されたので、気晴らしに世界旅行します〜実は万能な地属性魔法で無双していたら、かわいい剣聖令嬢と出会えました。影の最強かぁ……え、僕が!?〜 コータ @asadakota
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