第34話 王様からのお礼

 派手な戦いが終わった後、僕らは王宮へと連れて行ってもらい、アレクさんと事の一部始終を報告した。


 王様は当初こそ厳格そうな顔で聞いていたが、悪魔騎士が実の弟だったこと、そして討ち取ったことを知り、人目も憚らず泣き出してしまう。


「う、うおおおおおう! 許せ、ワシが。ワシがしっかりしていれば、このようなことにはならなかった。ワシが、ワシが!」


 どんな言葉をかけていいのか分からない僕とリナリアは、ただぽかんとしていたのだけど、そこは上手くアレクさんが宥めること数十分。なんとか落ち着いたみたい。


「キーファ殿。それから……リリー……リナリア嬢」

「はい……ふぇ!? ど、どうして」


 思いっきり慌ててソワソワするリナリアに、僕は苦笑した。


「ごめん。アレクさんといる時、普通に名前言っちゃってた」


 悪魔騎士との戦いの時、僕は彼女の偽名をすっかり忘れていた。後で確認された時があったんだけど、もう正直にいうしかないと思ったんだ。


「そ、そうだったんですね」

「ふむ。お主達には、返そうとしても返しきれぬほどの恩を受けてしまった。まずは心から礼を言わせてもらいたい。ありがとう」


 彼女を見て王様はなにか微妙な反応になったが、それ以上にかけられた言葉のほうが大きい。そこまで大きな国ではないとはいえ、トップである存在に感謝してもらえるなんて、これほど名誉なことがあるだろうか。


 ジーン……ときてしまったところで、今度はアレクさんが頭を下げてくる。


「私達だけでは、国を守ることも、王子を楽にすることもできなかったことでしょう。この御恩は一生忘れません」

「い、いやそんな。僕としても、放っておけなかっただけなので」

「はい。私もです」


 あんな巨大な破壊者を放置しているなんて、流石に僕にはできないし、冒険者だったら誰しもが挑みかかっていただろう。決して僕らだけが特別だったわけではないと、それは今でも思っている。


「キーファ殿もリナリア嬢も、謙虚なことだのう。それでは、次はワシからお礼の品を渡したいのだが」


 この上にお礼も貰えるのか。さっきの感謝だけで僕的には大きすぎるくらいだったけど。


 王様が手を振って合図すると、控えていたプリーストっぽい女性二人が、小さな赤い箱を持って厳かにやってきた。


「ワシらの国は天から恵みを与えられた大地と呼ばれるほど、多くの農作物を生み出しておる。その中でも、百年に一度生まれるか否かと呼ばれる実が存在する。ワシらの土地ではフィーリの実と名づけておるが、ご存知かな」


 二人の女性が開いた箱の中には、キラキラと粒状の輝きを放つ赤い実が入っていた。後で聞いたら長年冷凍していたらしいんだけど、そんな風には見えないくらい新鮮で美味しそう。


 しかし、この実の真価は味ではない。食した者のありとあらゆる能力を底上げし、多くの限界すらも越えられるようになるという魔法の果実なんだ。


「話には聞いたことがあります。この実はいろんな国の名前がついているそうですね。……というか、この実を僕達に?」

「無論! もちろん金貨も沢山用意してあるからの。それから武器と防——」

「い、いえいえ! だってそんな」

「そうかそうか! 少し足りんか。ならば我がコレクションの財宝を」

「あ、あげすぎですよ!」


 僕は慌てて止めようとしたけれど、王様はもう止まらなかった。こうなるとアレクさんも止められないらしく、とりあえずフィーリの実二個と多少の銀貨、それから新しい服だけ貰うことにした。なんか、あんまり受け取っちゃうと逆にバチが当たりそうだ。


 放っておくとどこまでも親切なことをしてもらえるので悪い気がした僕は、次の日フィーリを出発することにした。


 朝になって、そういえばリナリアがいないことに気がつく。もしかして、王様に正体がバレたからだろうか。なんだろう。唐突すぎてちょっと寂しい。


 ◇


「本当にそれだけで良いのか? ワシとしては、もう少し褒美をはずんでも良かったのだぞ」


 城門まで見送りにきてくれた王様は、何か心配そうな顔で白い眉を下げていた。ずらりと並んだ騎士のみんなは、そんな国王を見て背後で苦笑いしてる。

 しかし、先頭に立つアレクさんは凛々しい顔。いやー、決まってるなぁ。


「もう十分過ぎます。とにかく、ありがとうございました。またお会いしましょう」


 僕は苦笑いしながら王様に頭を下げた。するとアレクさんがちょっとだけ前に出て、


「必ずですよキーファ殿。王宮魔法使いになるという話、どうかご検討を」

「うむ! ワシが許可するぞ! リナリア嬢も一緒に」


 そういえば誘われてたんだった。ここは曖昧な笑顔で誤魔化しておこう。最後に挨拶を交わした後、僕は城門を去った。


 次はどうしようかな。フィーリの港にはアルスター行きしかない。目的地である南の島へは、別の都市に向かわないと辿り着けないだろう。


 僕はとりあえずレンガの街並みを歩きながら地図を見て、次の行き先を考える。


「うーん。港のある都市っていえば、この大陸にはあと二つだけか。どっちにしようかな」

「どちらも大都市ですね」

「うん。本当……え!?」


 いつの間にかリナリアが隣を歩いてる! 僕は飛び上がらんばかりに驚いてしまった。


「リナリア! いなくなったのかと思った」

「え。朝からいましたよ」

「へ!? 王様達とお別れしてる時もいた?」

「はい。あの、挨拶もしたつもりだったのですけど、私の声が小さすぎたみたいで」


 そういえば王様はリナリアのことも言ってたっけ。この気配の殺し方、アサシンとしてもやっていけそう。彼女はメガネの奥で、クスリと笑ったようだった。なんか心なしか明るくなったような気がする。


「あの、キーファさんに一つお願いがあるん……です」

「え、うん」


 なんだろう。やけにあらたまった感じでもじもじしてるけど。


「実は、もう少しだけ。旅にお付き合いさせていただきたいのです。ダメ……でしょうか」

「え? ああ、なんだそんなことか。いいけど」

「いいんですかっ」


 ぱあっと、朝日みたいにキラキラした笑顔になったリナリア。


「むしろ、リナリアのほうがいいのかなって感じだよ。僕の旅なんて、大した目的ないし」

「ぜひお願いします。私、初めて認めてもらえたので。お役に立ちたいのです」


 ううーん。一体どんな不憫な生活してたんだ。聖剣呼び出せるってだけで国宝級なのに。まあ、そこら辺は話したくないだろうし、気にするのはやめよう。


 さて、とりあえず次はどうしようかな。

 僕らは相談した結果、西の都を目指してみることにした。

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