第19話 歴史巡り(解説者付き)
とりあえず準備は終わった。
でもアレクさん達はよほど僕らを気に入ってくれたのか、あれこれと話しかけては外に誘ってくる。
「この国の歴史ですか。それは面白そうですね」
リナリアの一言に、なぜかアレクさんは喜ぶ。どうやらフィーリの記念館を紹介してくれるらしい。とは言っても、その記念館とは城の中にあり、ここだけは一般の人でも普通に入れるのだと言う。
記念館という名称ではあるけれど、白い宮殿を改築したような大きさのものだった。一階建てていくつも小部屋に分かれているところもあれば、広い通路のようになっていたりもする。順路があるので、それに従って進むことにした。
僕も歴史には興味があったので、こういう場を紹介してもらえるのはありがたい。
ありがたいんだけど……。
「キーファさん! あそこにある壁画をご覧ください。前国王は歴代の王族ではもっとも長くこの国を統治され、現国王になったのはごく最近のことなのです。近年の我らが経済的に大きく発展したのも、前国王の手腕があってこそ成されたのです」
「へ、へえー! そうなんですね」
とりあえずもっともらしく返事をする。資料とか銅像とかを回るたびに説明してくれるんだけど、建国当初くらいから話しだすのでとにかく長い。ちなみにフィーリは建国してから千年以上経つらしいけど、細かい話は忘れてしまった。
地元だけあって、アレクさんの愛着の強さは計り知れない。どうやら彼だけではなく、騎士達はみんな強い愛国心を持っているみたいだ。リナリアは、ただ物静かに僕の近くで展示物を眺めていた。
「キーファさん、あの石碑をご覧下さい。あれは我らがフィーリが建国当初に——」
また建国当初の話か。やめてよホントにと顔に出そうになった時、僕は数多くある歴史物の中で、ぽつりと隅に離れてかけられていた絵を見つける。
歴代の王様の中で、この人は随分と若いように思えた。
「あ、そうだアレクさん! あの絵の人は誰ですか?」
「……あちらのお方は、王……クラレオン様です」
あれ、なんか急に声のトーンが落ちたけど、どうしたんだろ。
「随分とお若いようですけど」
「ええ。早くに亡くなられてしまったものですから」
ここまで一気にテンションが落ちると、逆に興味が湧いちゃうのが僕の悪いところだ。でも突っ込まない方がいいのかなぁとか思っていると、この絵が他よりずっと新しいものであることに気づいてしまった。
まずい。好奇心が異様に刺激されてきた。いや、我慢、我慢だ。するといつの間にか近くにリナリアさんがいて、
「この方は、なんとなく今の国王様に似ていますね」
なんてことを呟いた。え、そうかな?
するとアレクさんはいっそう苦い顔になる。
「よくお気づきになりましたね。実はクラレオン様は、現国王クルーゼ様の弟君であらせられます」
「え!?」
この一言にびっくりしちゃったのは僕だった。似てるかなぁ、いや。だってこの絵を見る限り美青年だけど、今の王様は……いや、やめておこう。これを口に出したら不敬罪になりそうだ。
「では、早くして亡くなってしまったというのは、最近のことだったのですね」
リナリアが悲しそうに瞳を細める。
「はい。王子は……王子はそれはもう。私は、あのお方が生まれた時から世話係をしておりましたので……く!」
感極まったアレクさんが腕で目元を拭い始めた。世話係ってことは、実質家族みたいな関係だったのかも。続いてリナリアの目も潤んできたので、一人だけ普通な僕はだんだん気まずくなってくる。
「そ、そうだ! この後予定があったのを忘れてました! アレクさん、ありがとうございました! リリーナ、行こう」
「はい」
「あ! キーファ殿、まだ建国当時の資料が——」
このままでは本当に千年分の情報を頭に押し込まれそうだったので、僕はキリが良いところでアレクさん達から逃げることにした。
しかし、弟さんが死んでいるなんて、この国は平和なようできな臭いことが隠されてる気がする。もしかしたら、恨みを持っている人と魔物とやらは関係あるのかなぁ。
いろいろと想像しながら、僕とリナリアはとりあえず城の外に向かうことにする。ただっ広い芝生の通路を進みながら、なんとなく横目で銀髪の少女を見た。
ふと目が合うと、リナリアは微笑を返してくる。この安心感は不思議だなぁ。
「さて、勉強はしっかりやったけど、まだ時間あるね。もう少しだけ寄り道していかない?」
「はい。是非お願いします」
ただ、安心感とは別に、彼女が何か自分を強く抑えているような違和感もあった。メガネの奥にある瞳は青く澄んでいてとても綺麗だけど、目立つまいと気配を無理に消しているような、そんな気がする。
彼女は誰かから逃げてるみたいだったし、きっと僕には想像もつかない事情があるのだろう。あと数日の付き合いかもしれない者が踏み込むべきではない。
でもそう考えてしまうと、僕の心には寂しさという風が吹いてしまうのだった。まあ、旅なんてそんなものかもしれないね。
「ちょっとさ。展望台に登ってみない? きっと凄い景色だと思うよ」
「はいっ」
出会いがあれば別れもある。いつその時が来ても、僕は後悔だけはしたくなかった。
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