第17話 アレクさんの誘い
そういえばリナリアって、どんな力を持っているんだろう。光属性ということは聞いていたけど。
いや、待てよ。僕は一つ彼女の大きな特徴に気がついた。そうか、きっとあの巨漢を投げ飛ばしたみたいに。ただ、考えた後で、流石に難しいのではという結論に勝手に至った。
「うーん。いくら君が力持ちだと言っても、山みたいな巨人を投げたりするのは、さすがに無理じゃないかな」
「ち、違いますっ。私力持ちじゃないです。もっと違うことです」
「あ! そ、そうなんだ。ごめん! ま、まあやってみようか。王様、そんな感じでいいでしょうか」
「お、おおう。まあ……いいんじゃないかの。では頼んだぞキーファ殿、リリーナ殿」
かなり失礼なこと言っちゃったかも。僕はちょっと戸惑いつつ、最後に一つ質問をした。
「承知しました。それと王様。魔族は基本逆恨みだったり、復讐心とかが強かったりするんです。何か恨みを買ったりとか、そういうのは……」
「……魔族にはない。いや! ま、まったく心当たりはない! では頼んだぞい」
あ、魔族じゃなくて、人間だったらあるってことか。ここまで聞いて、また僕は余計なことを言っちゃったことに気がついた。
◇
一度迎え撃つと決まったら、すぐにでも準備を始めることが大切だ。
アレクさんをはじめとした騎士団メンバーは、それぞれに忙しなく城内や北側の防衛ラインを行ったり来たり。時には大声で何かを支持したり相談したりしながら、巨大な魔物を迎え撃つために動いている。
僕とリナリアは、とりあえず城に荷物を置かせてもらった後、回復道具や武器を無料でいただくことになった。城内の保管倉庫にやってくると、城の庭よりもずっと広い、もしかしたら小さな村程度にはなるかもしれない部屋の中に、様々な武具が綺麗に並べられていた。
今回の物品支給はアレクさんが直々に見てくれるらしく、彼に説明してもらいながら僕らはいろいろな棚を見て回った。
「半年は防衛戦ができる程度には、物品が保管されています。大抵の希望であれば揃えられるでしょう」
倉庫内にぎっしりと積まれた武器や防具を見上げ、僕は思わずため息を漏らした。やっぱり国ってなると全然用意が違うんだなぁ。
「僕は武器や防具っていうより、魔力を回復できる薬が欲しいですね。あとは治療薬も」
「魔力を回復させるのでしたら、こちらにある魔法水がおすすめです。治療薬も勿論ご用意しています。アルスターから輸入しているものですよ」
フィーリとアルスターは親交が深く、古くから貿易が盛んに行われているんだ。魔法に秀でた者が多いと言われるアルスターは、回復系のアイテムを特に多く製造している。僕はちゃっかりと多めに魔法水をいただくことにした。
ちなみにリナリアはというと、気づけば武器のフロアから一本のレイピアを持ってきて、アレクさんに見せていた。
「私は、こちらをいただいても良いでしょうか」
「ええ。勿論構いませんが、それだけで宜しいのですか」
「はい。多分、このレイピアも必要ない気はしているのですが」
巨大な魔物を相手取るのに、それだけで大丈夫なのかな、とちょっとだけ心配になる。もしかしたら、彼女はこれから起こる戦乱にも匹敵しかねない状況を理解できないのかも。
「キーファさん、リリーナさん。準備は整ったようですが、最後に私から一つ提案があるのです」
「え? なんですか、提案って」
「まずは突然の誘いとなることをお許し願いたい。どうしても興味がつきなかったもので。宜しければ私と、一つ剣の稽古でもしてみませんか? 魔法使いとはいえ、剣の心得がある者は多い。恐らくはキーファさんも……」
いやいや、剣が使えるかなんて言われても。どうも僕は買い被られてしまったらしい。
「無理ですよ。僕は本当に魔法だけの男です」
「そうですか。とても残念です。リリーナさんは如何ですか?」
「え!? わ、私ですか。私なんて、そんな」
話を振られるとは思ってなかったのか、銀髪の女の子はビクッとして少しだけ慌てていた。
「勿論真剣など使ったりはしませんよ。ただ、決戦に備えてお互い汗を流しておいたほうが良いのではと思いましてね」
涼しい顔で苦笑しているアレクさんだが、本気で残念がってはいるようだった。僕らは彼に連れられるままに、城の中を戻っていく……ように見えて、どんどん知らない廊下を進むのだった。
なんだろう。かなり開けたところに来ちゃったぞ。っていうか、まるでコロシアムみたいに円状の客席と、決闘の舞台にしか見えない砂地があるんだけど。
「おっと。これは失礼。私としたことが、道を間違えてしまったようです」
「わざとですよね。完全に」
僕は上手く嵌められてしまったけれど、特に苛立つ気持ちは怒らなかった。意外とお茶目なところもあるんだなってくらいのものだ。リナリアは初めて見る光景なのか、不思議そうにぼーっと周囲を眺めている。
「申し訳ございません。しかし、これだけは外すわけには参りません。なぜなら、あなた達の実力の程が分からなければ、死地となるであろう場所に連れて行くことはできないからです。例え国王が命令しようとも、私の部隊は誰一人犠牲にしたくない。死なせたくない。ですからこの勝負は受けていただく。そして……」
騎士達が何人もやってきて、彼に木刀を手渡していた。その中の一人が僕にも渡してきた。うーん、やっぱり重い。
そうか。つまりこの人は僕らが一緒に行って、本当に戦力になるのかを確認しておきたいんだ。もし足手纏いになるようなら、そもそも連れていかない。
「負けたら大人しく、壁の補強だけしてほしいってことですね。でも、腕を測りたいって言うことなら、僕は魔法を使っていいんですよね?」
「どうぞ、お好きなように」
騎士達が客席のほうに出て行った。でもリナリアはまだ僕の近くでもじもじしている。
「キーファさん、大丈夫ですか?」
「まあ、大丈夫じゃない? だってほら、ここ砂地だし」
とりあえずカラッとした笑顔で安心させてみる。ようやく落ち着いたのか、彼女もまた客席へと出て行った。
「合図はどうするんですか」
「もう始まってますよ」
ええー。意外と強引な人なんだなぁと思いつつ、僕はしばらく使ってなかった詠唱を始めた。
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