第14話 巻き戻す魔法
めちゃくちゃに崩れた瓦礫は見るからに無惨ではあったものの、まだ撤去をしてない状況ならやりようはあった。
僕はその瓦礫達にそっと手を触れつつ詠唱を開始する。以前のように簡単にはいかない、なにしろ今回は大きな家そのものを元に戻そうというのだから。森の中で壁を地面に戻した時とは勝手が違う。
「アース・リターン」
声とともに瓦礫の中心に青い魔法陣が出現する。それは少しずつ大きさを増していき、やがて家だった頃の面積となった。瓦礫がゆっくりと静かに宙に浮かび、潰れていた家具や台所用品、子供のおもちゃ等が姿を現した。
続いて、その無惨にも潰れて薄汚れた生活用品やおもちゃ達もふわふわと空に浮かび、やがてそれらは魔法陣の中央に吸い寄せられていく。
まるで全てが一つになろうとしているかのように。
背後で僕が魔法を使っているのを見ていた人達は、「おお!」とか、「きゃあー」とか、なんか不穏な声を出しているけれど、あまり気にしている余裕はない。魔法は集中が命だし、そろそろ仕上げなくてはいけないからだ。
魔法陣に集まる無数の物質が全てくっついた時、真っ白な光が視界全体を覆っていく。そのまま光は膨張していくように見せて、数秒でシュッと消えていった。
残されたのは、多分元に戻った一軒家だけ。戻しすぎたら逆に空き地と建築資材、それから家具とかの原材料とかになっちゃうけど、どうやら上手くいったみたい。
「す、凄い! 家が、家が元に戻ってるぞ!!」
男の人が叫びながら、うおおおおおって感じで家の中に突入していき、それに釣られるように奥さんと子供も駆け込んで行った姿を、僕はぼんやりと見送った。
ふと見るとリナリアは隣で今まで以上にソワソワしてる。
「キーファさん! お、驚きました。どんな秘術を使ったのですか」
「え、いや。これはアース・リターンと言って、基本的な地属性魔法だよ」
「基本なのですか。これが……」
「地面とか建物とか、いろいろ戻せちゃう魔法だからね。大地に面していたならできるんだ。魔法で壊したら元に戻さないと、どんどん環境を破壊しちゃうんだぞって、魔法の師であるじいちゃんに言われたんだ」
「凄い……やっぱりキーファさんは、只者ではないですね」
「い、いや。そんなことないよ」
本当に只者じゃなかったら、役に立たないと言われて追放なんてされてないんだよ。攻撃魔法でいえばもっと派手かつ強烈な使い手は沢山見てきたし、回復魔法でも天才はいた。彼女はきっとそんな連中を知らないから、ビックリしちゃうんだろう。
そういえば魔法学園の連中はどうしているのかな、なんてことを考えていたら、物凄い勢いで三人が戻ってきた。まるで嵐みたいに。
「お兄さん! ありがとうございます、ありがとうございます」
「うわわ! ど、どういたしまして」
「あたし達、なんてお礼を言ったらいいか」
「ありがとうお兄ちゃん! お人形もちゃんと治ってたっ」
気がつけば、周囲で作業をしていた人達や、町民と思わしき人達も寄って来て、結構な騒ぎになってきた。ざわざわと周囲が沸き立っているというか。
「にいちゃん! 俺の家も戻してくれ」
「ちょっと待って。私の家が先よ」
「頼みますー! この間金貨二枚で買った壺まで破損しちゃったんです」
ううーん。もうちょっと成り行きを考えてから動くべきだった。僕と同じようにリナリアも、どうしていいのか分からないとばかりにオロオロしてる。でもそんな時、ある一団がこちらにやって来るのが分かった。
彼らが近づくほど、みんなが道を空けていくようだ。白銀の甲冑に身を包み、馬にまたがっている彼らはとても精悍で強そう。一番先頭にいる人が兜を脱ぎ、さっそうと馬から降りる。
「皆の者、すまないがこちらの方としばしお話しさせてもらえるだろうか」
右肩にはフィーリの船と海を連想させる徽章があった。赤い髪を短く後ろでまとめている、背の高いりりしい青年だった。明らかに普通じゃないオーラが出てるから、また何かに巻き込まれないかとちょっと憂鬱になる僕。こういう時の嫌な予感っていうのは、大抵当たってしまうから切ないものである。
「突然お声がけして申し訳ございません。私はフィーリ騎士団長を勤めております、アレクと申します。宜しければ少々、私と食事でもご一緒しながら、お話をさせていただきたいのです。お二人にとても興味がありましてね」
騎士団長だって? まさかそんなに偉い人とは。自然体でありつつ品格と雄々しさが滲み出ている。周囲の住民達の反応を見る限り、どうやら本当みたいだ。
ただその時、他にも気になったことがあった。ずっと穏やかな雰囲気だったリナリアが、やけに強張った表情になったんだ。知り合いかな? とにかくこうしていても始まらないので、僕は彼の誘いに乗ることにする。
「見たところまだお若いのに、騎士団長なんて凄いですね。話をするくらいなら喜んで。ああそれと、僕は魔法使いキーファって言います。それから、彼女は」
「り、リナ。リリーナです」
「え?」
どうしたんだリナリア……いやリリーナ? 知り合って三日目にして名前が変わったぞ。突然の偽名? アレクさんは少しばかり苦笑を浮かべてから、なにか得心したような顔で頷いた。
「ありがとうございます。キーファさんとリリーナさん。皆の者、先に城に戻り、客人がくると連絡しておけ! 料理はフィーリ王家のフルコースだ。くれぐれもお待たせしないように。そして失礼のないように」
「はっ!」
部下の騎士っぽい人達が、敬礼しつつ馬に乗って走り去っていくのを眺めながら、僕はちょっとばかり焦ってしまった。
えー……お城で食事するの? 緊張しちゃうなあ。
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